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2話2


 マミアの手によって教室への扉が開かれる。 

 俺はその後をゆっくりとついていく。階段を下り、中央にある一つのデカい机へと。

 その間俺はマミアの背中だけを見ていた。もちろん下心だけじゃあない。ガキ共に興味はあるがその時まで待った方が雰囲気が出るんだよ。

 一歩一歩教室内の階段を下るたびに、横の方から小さな声がざわざわと聞こえてくる。

 俺は耳は良い。

 

 「あれが?」

 「もしかして」

 「ドラゴンを」


 そう期待と不安のようなものが混ざったような声だ。

 残念なのはイイ男だって声が聞こえてこないことか。女の声も聞こえるというのに。 

 ただやはり、かなり若い声だ。仕方ないね。俺の魅力はガキにはわからんだろうよ。

 

 机の後ろにつき、いよいよ二人して席の方に振りむいた。

 席の方を見れば、ポツポツとまばらに席につく訓練生たちの姿があった。

 何十人も収容できそうな教室だ。そこに12人しか入っていない。広い教室が余計に広く感じた。

 ゆっくりと見回せば、案の定ガキばっかりだ。

 剣より花の飾りの方が似合いそうな村娘のようなやつ、その辺で悪さしてそうな目つきの悪いガキ、少し身なりの良さそうな奴もいるがそれでも同じくガキだ。

 珍しいのは、獣人がいることか。

 犬や猫みてえな耳のついたガキが、何人かいた。

 獣人は珍しくはない。いや珍しいか。難しいところだな。

 確かに人間よりは数が少ない。見た目はただ耳や尾があるだけで、ほとんど一緒だ。

 ただ総じて人間には美男美女に写る。だから奴隷としてよく狩られるんだ。

 だいたい森や山の奥深くに小規模な集落を築いているが、たまに人と交流するやつもいる。

 だから獣人って存在自体は珍しくはないんだよ。珍しいのは、こんなとこに居ることか。

 まあ理由なんてものは奴らを見れば想像に難くない。本当にヴォルターと比べりゃ子犬に子猫だ。まあ言葉の通りこいつらはガキなんだが。

 


 「おはようございます皆さん」


 「おはようございます。マネージャー」


 マミアの声に少々大人しめな声量で答える訓練生ども。若いのに朝に弱いのか、それとも飯を食ってないのか。

 若いなら朝こそ元気だろうよ。俺なんて今日も早起きだ。


 「本日より合流しますDクラスのハンドラーです。ハンドラー、何かお言葉を」


 そうマミアが俺を紹介すると、またざわざわと騒がしくなる。

 が、俺が机の前に立つと、一瞬にして静かになった。

 さて、何かお言葉をと言われてもな。

 別にこのガキどもに対して何の気持ちもないし、俺だってそんな高尚な人間じゃあない。不審に思われなければそれでいいんだ。

 やはり寡黙で落ち着いたハンドラーを演じてやるか、少しだけ熱意をブレンドさせてもいいが、それで過度に期待されてもガキどもに懐かれても困るな。

 俺だって小悪党ってだけで人間だ。薄いだけでゴブリンよりかは情ってものがあると思ってるさ。

 いつまでここを拠点にできるかもわからない、素っ気ないくらいで丁度いい。


 「よろしくみんな。今日からお前らを鍛えることになるが、死にたくないやつだけ真面目にしてくれりゃあいい。名簿は貰ってる。墓の注文だけはやってやるから心配はしなくていい」


 全員他に道がねえからここにたどり着いたような奴らだ。今日死ぬよりも、一年後に死んだ方がいいって思うような奴らだ。

 最後に美味い飯も食って、綺麗なベッドで寝て過ごしたい。そんな奴等、生きることへの執着なんてないだろう?

 三年まであるから、来年は更に厳しい課題があるかもしれない。その次はもっと難しくなる。

 そして晴れてここを抜け出しても、冒険者ってのがすぐくたばっちまうことなんて理解しているはずだ。

 どうせ死ぬんだから適当にやっとけよ。

 俺はそういう意味で言ったんだ。生きたいなんて思うやつはいないだろうし、ましてや本気で冒険者になりたいと思ってるやつなんていないはずだ。だから真面目にやらなくてもいいぞ。ってな。

 マミアには悪いが、ちゃんと逃げ道は残しておいただろう。死んだとしたらそいつが真面目にやらなかっただけだって。


 「は、はい!ハンドラー!」


 しかし返ってきたのはガキどものデカい声。何をどう間違ったか、真剣な表情をしている奴が多い。

 墓の注文と聞いて死ぬことを鮮明に想像したか?

 それとも俺のことが怖くなったか?

 まあいい。怖くなったなら下手に距離を縮めてくるような奴は出てこないだろう。

 ある程度距離はあった方がいい。万が一でも俺のことを怪しむような奴が出てこなくなるから。


 「ハンドラー、ありがとうございました。それでは皆さん先週の続きから始めます。ハンドラーはこちらにおかけになってください」


 そうして俺は少し離れた椅子へと向かう。

 なるほど、俺はここでふんぞり返ってればいいわけだ。

 俺が椅子に座ると、マミアは机の裏にある黒い壁へと向いた。黒というより深い緑か。

 その傍らから白い棒を手に取る。蠟燭くらいの細長い棒だ。

 それを持つと、おもむろにそれで黒い壁をなぞり始めた。

 するとどうだろう、マミアがなぞった後には白い線が浮き出たのだ。

 尖筆(スタイラス)は見たことがある。木の枠などに蝋を流し込んで、削って文字を書くやつだ。

 しかしこれは見たことがない。


 興味深いのでじっくりと観察させてもらう。マミアは背伸びをしながら精一杯腕を伸ばし、はるか頭上の位置に何かを書いている。

 驚いた。なんてデカいんだ。

 巨大な二つの山が空を突かんと上を向いてるではないか。

 初めて見た時のグリムヴァルドの防壁を思い出す。

 しかし、何故あんな上から書く必要があるのか。

 目線くらいの高さから書いていけばあんなに震える必要もないのに。

 俺は不思議に思い、訓練生たちを一瞥する。あるガキは真剣な表情で、あるガキは眉をひそめて、だんだん畑のような席についている。

 今度はマミアの書いたものを見る。文字を大きく、それでいてはっきりと書いてあるな。

 ・・・なるほど。わかった。

 黒い壁はかなり大きいが、書ける範囲は限られている。手の届かないところは書けないからな。

 そのスペースの中で、訓練生全員が見ることができる大きさで、更に一度に多くのことを書こうとすれば、必然的になるべく高い位置から書かなければならないのだ。

 台でも用意すればそこまで切なそうな顔にもならんと思うのだが、教えてやるとこれからこの表情が見えなくなるのか。黙っておこう。

 しかし、この黒い壁とこの野外劇場のような扇状の席の位置。とても理にかなっている。より多くの者に平等に知識を植え付けることができる。

 貴族どもの力の入れようがよくわかったよ。ただ皆が字を読めると思っているのが間違いだ。あの奥の目つきの悪いガキ、多分読めてないぞ。


 しばらくマミアの肢体を見ながらいると、マミアの手が止まる。

 まだまだ黒い壁の下の方は空白、いや空黒、ああどっちでもいいな、とてもスペースが空いている。

 それなのに白い棒を置いて、訓練生の方を振り向いた。

 俺の熱烈な視線が気になったのだろうか。


 「まずゴブリンというのは敵性亜人種と呼ばれるカテゴリーに分類されます」


 マミアは話を始めた。どこからか長い棒を取り出し、黒い壁に書かれた一つの単語の周りをその棒でくるくると円を描きながらなぞる。

 なるほど、あれはゴブリンと書いてあるのか。ゴ・・・なんとかとは俺もわかったが、これはいい。多分訓練生のガキどもにも字が読めない奴がいるから、こんな手法を取っているんだ。ついでに俺も読み方を教えてもらおう。

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