断章 レオン・ギータ2
「はじめまして、レオン・・・だったか、明日からよろしく頼むよ」
見ていると、ハンドラーが挨拶をしてくれた。
何かすぐに答えないと、と焦って僕は、
「は、はい!ハンドラーも本を借りられたのですね。どんな本を読まれるのですか」
本のことを聞いてしまっていた。
するとハンドラーはフィンチさんの机にある本を二冊抱えて、
「いや、面白い本じゃない。俺は失礼するよ」
と速足で書庫から出て行ってしまったのだった。
ハンドラーが書庫から出る時、どうにか本の題名でも見えないかとじっくり見ていると、一冊だけ見ることができた。
それは魔法入門書と書かれていた。
魔法入門書?
僕は不思議に思う。
噂だと、ハンドラーは魔術師で、しかもドラゴンを撃退できるくらいの凄い冒険者。
そんなハンドラーが魔法の入門・・・。
少しだけ考えて、ハッとする。
そうか、僕たちみたいなまだ魔法を上手く使えないような人に教えるためだ!
ハンドラーのような魔術師だと、魔法の基礎やコツみたいなことは自然と無意識にやってしまうことが多いはず。
僕たちに上手く教えるために、わざわざ本まで借りて調べてくれてるんだ!
英雄みたいな力を持ってるのに、助けられなかった自分を責め、そして次は僕たちのために・・・。
しかも多分、そんな意図がバレるのが照れ臭かったんだ。隠すように本を持って出て行った。
なんて凄い人なんだ・・・。
そうなるともう一冊借りていた本の内容が気になる。
あっちはなんだったんだろう。
「フィンチさん!ハンドラーはなんの本を借りてましたか!?」
失礼だとは思ったけど、どうしても気になったのでフィンチさんに聞いてしまった。
フィンチさんは少し悩んで、
「んー、アンタたちってハチミツ作る訓練とかする?」
と聞いてきた。
ハチミツ?ミツバチが集める、あの?
「い、いえ、わかりませんが今のところはしていません」
「そうよね。養蜂の本借りていったわ。教えるためにって」
「んん・・・?」
「あと魔法の入門書かな。こっちはわかるけど。そういえばまた本借りるの?」
「あ、いえ、ちょっと今回はやめておきます。では」
そうして、僕は書庫を後にした。
普段なら次に借りる本を探してみるけど、今回はどうしても早く部屋に戻りたかったんだ。
ハンドラーと出会ったことをすぐにリーチに伝えたいから。
速足で部屋に戻って、ベッドで昼寝をしていたリーチをたたき起こす。
「リーチ!聞いてよ!ハンドラーに会った!」
「いてえな!ぶん殴るぞ!・・・え?チョビ髭に?」
拳を握って掲げるが、リーチは殴らないことを知っている。
そしてチョビ髭というのは今まで僕たちの実技訓練を見てくれていた、Cクラスのハンドラーのこと。
おじさんで、ちょっと嫌な感じの人だから、リーチはその人のことをチョビ髭と呼んでいる。もちろん陰だけでね。
「違う!僕たちの、Dクラスのハンドラーだよ!」
「え!?マジかよ、なんで」
リーチもベッドから跳ね起き、興味津々だ。
「書庫にいたんだ。本を借りにきてたんだと思う」
「どんな奴だったんだ?」
「なんだか、カッコいい人だった」
漠然と印象を伝えた。
それにリーチは言ってることがわからないという風に口を大きく開ける。
「でも、優しい人だと思うんだ」
「なんでそんなことが分かるんだよ」
「それは・・・」
と、僕は書庫でのことを話した。
挨拶をしてくれたこと、魔法の入門書を借りていたこと。
もちろん僕の予想込みでリーチに伝えた。
リーチはそれを聞いて大きなため息をはいた。
「はあ、それだけかよ」
「でもドラゴン撃退するような人が、魔法の入門の本なんて借りる?」
「たまたま気になることでもあったんだよ。養蜂の本借りてんのだって自分の趣味かなんかだ。どうせCクラスのハンドラーと同じだ」
興味は持ってくれたのに、すぐにリーチは不貞腐れてしまった。
無理もない。僕も心の中では不安だった。
英雄のような噂を聞いた時、少しだけそれが和らいだけど、まだどこかで疑っている。
リーチに急いで伝えに帰ったのも、もしかしたら、一緒に騒いで少しでも希望を見出したかったのかもしれない。
僕たちの実技訓練を今見てくれているCクラスのハンドラーは、ちょっと、いやとても嫌な人だった。
実技訓練が始まっても、別に何も教えてくれない。勝手にやれとだけ言って、自分は遠くの方でCクラスのマネージャーと何か話してるだけだった。
Cクラスの人が何人か教えてもらいに行ってたけど、すぐ突っぱねられて帰ってきていた。
だからすぐに、自分たちで適正とか、好みとかで適当に分かれて、魔法の練習がしてみたい人は的に魔法を撃ったり、近距離での訓練がしたい人は木剣を持って木でできた人形を叩いたり勝手にするようになった。
たまに見かねた僕たちのマネージャーが剣の握り方とかを教えにきてくれたんだけど、それもCクラスのハンドラーに止められていた。
実技訓練はハンドラーの役目だからって。
誰かが言っていた。ハンドラーたちはただ僕たちを見ているだけでお金をたくさんくれるって。
だから僕たちが冒険者になれるかどうかなんてのは考えてないんだって。
そんな噂を信じてしまうくらいだったんだ。
「俺は別に木の棒で人形しばくためにここに来たんじゃねえんだよ。冒険者になるためだ。孤児院出の俺になんてできることは限られてる。だから冒険者になって大金稼いで、孤児院綺麗にしてシスターに・・・」
リーチはベッドを叩いていた。
僕だって夢がある。僕だって冒険者になるためにここに来たんだ。
今は信じるしかない。
僕たちのハンドラーはきっと、噂通りの英雄みたいな人で、僕たちを冒険者にするために来てくれたんだって。
その日はいつもの他愛のない話をするまで時間がとてもかかった。




