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1話8


 まずは魔力について書かれていた。

 魔力とは意思を伝え、意思を形にするエネルギーだと。

 何かに宿るものを魔力、空気のようにその辺に漂うもの魔素と便宜上わけているらしい。

 その魔力というものを燃料に、頭の中に思い描いたものを現実に引っ張りだしてくるのが魔法ということだ。


 本題はここからであった。

 魔法とは三想の学問である。とのこと。

 想像、空想、幻想の三つ。

 想像、どのように発現するか鮮明に思い描くことが重要である。

 空想、その魔法の新たな可能性を空想することが重要である。

 幻想、そして既存に囚われず、誰も考えつかない魔法を幻想することが重要である。

 どうにも学者先生ってのは小難しい言葉を並べるのが好きみたいだ。三つもわける必要はない。どっかでくたばったやつもイメージしろってだけ言ってた。

 

 次に魔法とは万能の一言に尽きると書いていた。

 そんなはずはない。脚を治されたときは吐き気を催すほどの疲労感があったぞ。

 そう思っていると、ちゃんと逃げ道を書いている。

 しかし、物理的に不可能なこと、(ことわり)に背くこと、神の御業に迫るようなことはできない。と。

 俺が字を書けなくてよかったな。ペンがあったら万能じゃねえってことと、回復魔法への愚痴を書き足しているところだ。


 そしてその例えとして、木に一瞬で火をつける、風の刃を飛ばすなどは魔法で実現が可能であると書いてある。火事やかまいたちなど、事象としてイメージができるからだ。 

 だが、人が一瞬にして別の場所に移動する、時間を巻き戻すなどは例え魔法でも不可能である。とある。

 ほらみろ、万能じゃあない。俺の方が万能の意味を知っているようだ。


 次に入門的な魔法と高位の魔法について書かれていた。

 魔法には簡単な魔法と難度の高い魔法が存在する。

 これは魔力というものが、一つのエネルギーであるためだ。

 机の上に置かれたボールを想像しろと書いてある。ボールなんてない。鼻くそでも置いておこうか。

 このボールを動かすためには、片方から指で突けば転がっていく。

 しかし、このボールを完全に止めるためには、上から押さえつけるしかない。

 これを空気や物に例えると、少ない力と少ない方向からの力で振動させることができる。強くものを振動させれば熱が生まれる。摩擦だ。木と木を擦り合わせていけば火がつくように、空気を同じように振動させれば熱を持ち、そして炎が生まれるらしい。

 摩擦くらいは聞いたことがあるが、空気が震えると炎が出るなんてのは俺は知らない。アニキがブチ切れた時はよく空気もビビッて震えてるような感覚にはなったが、むしろ凍えるくらい寒かったぞ。血の気が引いてたからか。

 そして炎は身近なもの、と続き、想像しやすく、そのため入門的な魔法の中には炎を生み出す魔法が多いとのこと。

 しかし逆に、空気の動きを止めるということは膨大な数の方向から力を加えないといけない。動きを止めると温度は下がり、更に止めれば凍り付くらしい。

 走ったら熱くなって、走るのを辞めたら涼しくなるってことか。いや、止まっても凍ることはない。これも俺は聞いたことがない。

 であるからして、氷の魔法などは高難度だと言われているようだ。

 理解に苦しんだが、高難度というのであれば俺には用はないはずだ。今は考えなくてもいいだろう。


 そして次には、似ている魔法はあっても、同じ魔法は一つとして存在しないと書かれていた。

 魔術師が一番最初に覚えるファイヤーボールの魔法も、実は存在しないのだと。

 少し興味が出て解読が捗る。

 これは何故か、それは人それぞれ火の玉というもののイメージが違うからだ。

 魔法はイメージを具現化するもの。暖炉の柔らかな火を想像する者もいれば、火山の噴煙を想像する者もいるだろう。敵に向かい飛んでいく火の玉を想像するだけでも一人一人違う。

 目にもとまらぬ速さで敵に突っ込んでいく火の玉を想像する者もいれば、空に打ち上げ大砲の玉のように落ちてくる火の玉を想像する者もいるだろう。

 そのため、魔法の名前というのは便宜上使われいるだけで、同じ魔法は存在しない。

 または、一瞬にして敵に突っ込む火の玉も、弧を描き敵に落ち爆散する火の玉もそれはファイヤーボールと言える。と。

 それよりも唱えようとする魔法をイメージしやすいように言葉に出すためであったり、仲間のために叫ぶというために同じ名前が使われているといったほうがいいだろう。


 


 「なるほどねえ」


 一通り読み終わり、大きき息を吐いて俺は椅子にもたれる。

 もう外は暗くなり始めていた。肩も凝ったしケツも痛い。

 これだけ時間をかけて読んだは良いが、時間の無駄だったな。

 ようはイメージしろってやつだ。

 ただ一つ分かったことがある。俺のファイヤーボールのイメージだ。

 俺の出したファイヤーボールは全てを飲み込むようなドス黒いものであった。ごうごうと燃え盛り蠢くような炎。

 リッドのファイヤーボールを見た後だというのに、それでもやはり想像したのはあの夜の炎だったのだ。

 しばらくは悪夢だった。だが、今は復讐の炎だ。これはいい。ファイヤーボールを撃つたびに、あの夜を忘れないで済む。

 


 少しの間俺はそのまま仮眠をとった。

 慣れない文字との格闘は俺の心身を程よく削っていたらしい。

 どのくらいか経って、マミアが食事を持ってきて俺は目が覚めた。

 食堂を紹介されたが、俺は人見知りでね。あまり人が多いところには行きたくないんだ。

 だから療養中と同じくマミアに食事を持ってきてもらっていたのだ。


 さて、食事も手早く済ませて次の予定だ。

 丁度良い具合に外は真っ暗。もうほかの奴らは寝静まったころだろう。

 俺は部屋を出、長い廊下を足音も立てず歩いていく。

 しばらく歩いて外に出る。目的地は訓練場。多分な。

 訓練学校はグリムヴァルドの防壁の目の前にある。訓練場はその防壁と訓練学校の間の広い敷地内全てだ。

 気を使って隅の方へと暗い夜のした進む。ど真ん中に焦げ跡を残すのも悪い。

 ここならと、訓練学校の中からは死角になるだろう場所で俺は止まった。

 目の前には防壁、いい具合に目の前に石で出来た的が並んでいた。

 石には既に焦げ跡や傷が残っている。訓練に使っている的で間違いない。


 「さて」


 的から10ヤード(9メートルちょい)くらい離れて立つ。

 左手をあの遠くの的を掴もうとするように向ける。

 まずは魔法が絶対に出せるようにしなければならない。

 他のやつはどうなってもいいが、自分の身を守らないといけない時に出なければどうしようもない。

 そして規模。あの時は指輪の魔力全てを使い果たすだろう勢いで出してしまった。

 魔法というものがイメージにより変わるなら、感情などにも左右されるはず。ならリッドの奴は魔術師にゃあ向いてないじゃないか。お喋りな奴ってのはクールじゃない。

 冷静に、心を落ち着かせ、燃え盛る火の玉を想像する。

 小さな火の玉でいい。いつものようにクールになりゃいいんだ。


 「ファイヤーボール」


 近所迷惑にならないように静かに呟く。すると人の頭大の黒い火の玉が俺の左手の前に発生し、そして的へと中空を走っていった。

 黒い火の玉は的に命中し、爆音というほどではないが激しい音を出し燃え散った。

 成功だ。魔法は撃てる。

 まる十日はあったからな、指輪にも魔力は溜まっていたようだ。

 満タンだったかはわからんがひとまず、十日間程度でこの規模の魔法なら何発撃てるくらい溜まるのか、ってのは知っておきたい。

 そして実験もかねよう。

 俺はまた的に向かって左手を向ける。


 「出ろ」


 二発目も成功であった。

 静かに呟いた言葉の後に、また黒い火の玉は走り、的に直撃して爆ぜた。

 これでわかった。別にファイヤーボールと言葉に出さんでも魔法は撃てる。

 これはあの本にも書いてあったことだ。

 イメージしやすいように言葉に出す。なら十分にイメージできているのであればってことだ。

 ・・・これはかなりの発見なのではないだろうか?

 俺の勘が悪だくみを始める。

 例えばだ、例えば・・・。

 俺は最大限集中する。今からやろうとすることは、自分でも少し不安だと思ったからだ。

 やはり人間は頭の中を言葉に引っ張られる。

 しかし、十分にイメージができているのであれば。


 「アイス!」

 

 左手からは少々不定形な黒い炎が発生し、的に向かって飛んでいく。

 まあ、半分成功だ。 

 いや、できうる可能性が見えたのだ。大成功に近い。

 あの本には味方などに自分の放つ魔法を教えるために魔法の名前を叫ぶともあった。

 なら逆もあるはずだ。敵の言った魔法の名前を聞くってこともな。

 例えば敵が、ファイヤーボールと言葉に出すとする。俺にはよくわからんが、多分それに対する防御法や対抗策があるはずだ。

 なら、ファイヤーボールと言いながら、他の魔法を放つことができれば?

 そうだ。ブラフ(はったり)になる。

 これは練習していてもいいはずだ。まあそれよりも普通にファイヤーボールを放つ精度を上げてからだな。


 「なら次はだ」


 よし他の実験を試そう。

 魔法はイメージするのが重要だ。

 イメージするものが印象的であったり、心にへばりつくようなものなら難易度は大幅に下がるはず。

 俺のファイヤーボールがドス黒いのはそのためだ。

 ならばよく見知ったものであれば、そして何度も目に焼き付けたものであるなら、何十何百と想像したものであるならば!

 

 「裸の綺麗なネエちゃん!!!」

 

 


 ・・・ファイヤーボールの精度を上げる練習に戻ろう。

 その後も、俺が訓練生だったのかと思うほどファイヤーボールの魔法を放った。

 数は十三回。規模や威力などにある程度の誤差はあるだろうが、今はそれくらいは撃てるようだ。

 十三発。それが多いのか少ないのかはわからん。もう少し強力な魔法となれば更に少なくなるだろう。

 だが俺にゃあそれでもデカい。なんせ今まで魔法とは無縁だったわけだからな。

 ひとまず訓練生共にははったりをかませるくらいにはなっただろう。

 今日はこれでいい。明日はいよいよガキ共とご対面だ。レオン・・・、だったな。あんなお坊ちゃんばかりじゃないといいが。

 


 そうして俺は自室に戻る。

 明日は一度空っぽになった指輪が一日でどのくらい回復するか確かめねば・・・。

作者です。やっと一話が終わりました。主人公の独白が続くのと、世界観設定を語るのが多くテンポの悪さは改善しなければと思っています。

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