スタイリッシュ須藤さん
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結局私はダンジョンの中で変身する事にした。外には監視カメラがあったので、普通の女が突然魔法少女になったら身バレしてしまうのは必至だ。
須藤さんの着替えを待つこと約10分。
簡易テントから出て来たら須藤さんの姿を見て私は息を飲む。
須藤さんの戦闘服は、身体にフィットするようなマットブラックの全身タイツような姿で、胸や腰付のラインがはっきりと分かる。
まるで某星人が襲ってくる漫画に出て来るキャラのような出で立ちだった。
武器は短刀を腰に2本差し、胸元と太ももにもナイフが固定されている。
髪型もポニーテールになっており、スタイリッシュ須藤さんに様変わりしていた。
「……須藤さんカッコ良すぎです」
「あまり、ジロジロみないで下さい。結構恥ずかしいので」
恥ずかしい気持ち分かります。
私も死ぬほど恥ずかしいので!
「十条さんは着替えないのですか?」
「説明は中でしますので、取り敢えずダンジョンの中に行きましょう」
「分かりました。それでは行きましょう」
私と須藤さんはダンジョンゲートに触れるとウィンドウが開いて行き先が表示される。
どこに転移しますか?
修禅寺日枝神社ダンジョン前〈現在地〉
修禅寺日枝神社ダンジョン 1層
私は1層を選んで2人でダンジョンゲートに飛び込むと、視界がグニャリと変わった瞬間、硬い石畳の床に降り立つ。
辺りを見渡すと正方形の形をした小学校の体育館くらいの広さで、平な壁に囲まれた空間だった。
「洞窟系ではありませんね」
須藤さんがダンジョンの中に入って第一声を発し、早速辺りを観察しデータを集め始めた。カメラが搭載されたヘルメットは結局須藤さんにお願いした。私は必要な時に、まじかる☆アタッチメントのうさ耳カチューシャを装着する場合があるからだ。
「須藤さん、一度カメラを切っていてもらえますか? 変身しますので……」
「ハッ! 変身!? そうですよね、魔法少女と言えば変身ですよね! 失念していました。今切りますのでどうぞ」
ドキドキしてきた……。
須藤さんにバレているとはいえ、人前で変身するのは初めてだ。
心臓の音が耳元で聞こえて気持ち悪くなってきた……鼓動が激しくて身体が震えるし……。
私は深呼吸をして秘密の呪文を唱える。
「らんらんらぶはーと♡まじかる☆ドレスアップ!!」
キラキラした虹色の粒子が辺り一面に溢れ出し、私の周りが星とハートで埋め尽くされていく。
そして、POPな効果音と共に身体にジャストフィットする可愛らしいデザインの魔法少女風衣装が次々と装着されていく。
「まじかる☆が〜る♡ ストロベリーほのりん☆彡」
やったよ! 人前で私はやりきったよ! もう帰っても良いくらい頑張った! ルル様褒めて!
須藤さんが私を見て口を開けながらな固まっている。何か言ってくれないと恥ずかし過ぎて死にそうなんですが……。
ポカーンとしていた須藤さんが胸の前に両手を祈るように合わせ、満面の笑みで大きな声を上げる。
「可愛い〜〜〜〜! 変身する事で魔法少女の衣装が装備されるんですね!? 凄いですね、髪型も色もこんな綺麗で可愛くなるなんて……!」
須藤さんは私の前に駆け寄ると、私の両手を握り目をキラキラさせ質問攻めにしてくる。
クールビューティーな須藤さんは夢見る乙女のような表情になり、普段の印象を全く感じられなかった。
「す、須藤さん…近い、近いですよ!」
「ハッ! これは失礼、取り乱しました」
いやいや……キャラ崩壊するほど取り乱してましたよ。
「ちなみに魔法少女になれるクラスチェンジオーブを持っていたり?」
「……残念ながら持ってません」
「ですよねぇ〜……はぁ……」
須藤さんも魔法少女になりたいのかな? アニメや漫画には魔法少女が複数出て来て協力して戦ったり、敵として現れたりして戦う事が定番だけど、クラスチェンジオーブ〈EX〉を再度手に入れるのは至難の業だ。もし手に入れたら須藤さんを魔法少女にさせて、矢面に立たせるのも良いかもしれない。
さて、ルル様を呼ばないと。
ルル様〜、ルル様おいで〜。
「お、ほのりん。ここは伊豆のダンジョンか? ってお主は誰だ?」
ルル様は須藤さんに気がついたのか、不思議そうな表情を浮かべる。
「始めまして。私は渋谷ダンジョンセンターに勤める、須藤 奈々子と申します。本日は十条様…いえ、魔法少女ほのりん様のサポートに参りました。以後お見知り置きを」
「おお、お主が須藤か。ほのりんから聞いておるぞ。……なるほど、ほのりんが正体を明かしたのだな?」
私は事の詳細をルル様に詳しく説明した。
「……抜けておるな」
「私もそう思います……」
「だが協力者を得た事によって、今後の活動を円滑に進められるようになった。結果論だが、良しとしよう」
そうですよね。須藤さんが良い人で良かった。もし悪意ある人だったら脅されていた可能性もあったし、ロハスな生活が復活しそうなので、須藤さんと協力して魔法少女生活をエンジョイしましょうか。
「ところで、ルル様って不思議ですよね。見た目はこんな可愛いのに、声が渋いっていうのがなんともミスマッチといいますか……魔法少女のマスコット的に新しいですね」
「フハハハ。我を讃えよ」
「はは〜」
どうしたのこの2人は……。
須藤さんは特に戦闘服に着替えてからはキャラがおかしいし、ルル様は……まぁ相変わらずか。
取り敢えず、ルル様にここのダンジョンの仕様を教えて貰おうかな。
「ねぇ、ルル様。修禅寺日枝神社ダンジョンについて何か分かる?」
「良かろう。我がここに来た事により、新たな情報にアクセス可能になった。このダンジョンは単純明快、全6層のボス部屋のみの構成だ」
ボス部屋のみのダンジョン……。
もしかして難易度は高め? となると手加減は出来ない可能性があるね。
さてどうしようかと考えていると須藤さんが手を上げ、この先について提案があるそうだ。
「私は渋谷ダンジョンの最大攻略層は20層まで行った経験があります。もし、無理そうならほのりん様だけで進んでもらっても構わないですよ」
「須藤さんは大丈夫なの?」
「私はダンジョンのアイテムと少しデータが集まればミッション完了なので、奥まで行く必要がないのです」
なるほど、あくまで須藤さんは修禅寺日枝神社ダンジョンのデータさえ集まれば良い訳であって無理して私に付いて行く必要性がないのよね。
なら低層のボスは格闘メインで戦って、途中で須藤さんが離脱してしまえば本気でこのダンジョンを攻略してしまえばいいか。
話が決まれば後はやるだけ。早速人工的な石造りのダンジョンを進むと。大きな扉が見えてくる。これがボス部屋の入口だろうか?
「準備は良いか?」
「私は大丈夫です」
「私も大丈夫だよ」
須藤さんは軽く飛び跳ね身体を温めており、いつでも戦える準備は整っている様子だ。私も深緑色のローブを魔法少女の衣装の上から羽織り、フードを深めに被る。さて、行きましょうか。
私は大きな扉を押すと、ゆっくりと扉は開く。この扉は結構重量があり、私は【剛力】を使って押している。自動ドアじゃないなんて不親切だね!
重い扉を人がひとり通れるくらい開け中に入ると、東京ドームの広さはあるだろうか? だだっ広い空間が広がった場所に出た。そして、その広い空間の奥に人影見える。あれがボスだろうか?
「何かいるね」
「いますね」
「祭壇は無いようだ。最初からモンスターが出現しているタイプのダンジョンのようだな。実に興味深い」
「ルル様、あのモンスターは?」
ルル様の金色の目がキラリと輝くと、部屋の奥にいるモンスターを鑑定眼が解析する。
「ふむふむ。あそこにいるモンスターは、ゴブリンチャンピオンだ。そこそこ強いな」
「ゴブリンチャンピオンは未確認のモンスターですね! 早速データ収集しなくてわ!」
ゴブリンチャンピオンは成人男性よりひと周り大きく、筋骨隆々のその姿は歴戦の勇士を彷彿とさせる。
「まず手始めに私が先発いたします」
「え? 須藤さんひとりで行くの? 大丈夫ですか?」
「ブランクはありますが、何とかなるかと」
私の心配を他所に須藤さんは腰に差した短剣を2本引き抜くと、ゆっくりとした足取りでゴブリンチャンピオンに向かって行く。
「ほのりんよ案ずるでない。我の鑑定眼は須藤の力量なら奴を容易く屠れるだろう」
「そんなに強いの?」
「強さ的には渋谷ダンジョンの中堅かやや上だろう。装備も良い物だし、あの短剣の1本はダンジョン産の魔剣だな。負ける要素が微塵も感じん」
おお! ルル様の太鼓判。これなら安心して見守って上げられるね。そういえば、ちゃんと人様の戦いを見るなんて初めてかもしれない。勉強だと思ってしっかり学ばせて貰おう。
ゴブリンチャンピオンが顔を上げ、須藤さんを敵として認識したのか鞘から段平を抜き取ると、大きく深呼吸した後に雄叫びを上げる。
「ウオオオオオオ!!!」
ゴブリンチャンピオンが発する殺気が、雄叫びを通じてビリビリと伝わり、私の頬を伝う汗が、その緊張感を表している。
須藤さんはその殺気を浴びても怯む事は無く、楽しそうに鼻歌を歌いながら二刀流の短剣をリズム良く動かしている。
「参ります」
須藤さんが姿勢を引くし走り出す。
まるで地面を這うように走る須藤さんは、獣の如く疾走する。
「グルァ!!」
ゴブリンチャンピオンの間合いに入ったのか段平を横薙ぎに振り、須藤さんを斬り殺そうとするが、須藤さんは急に動きを止めると横薙ぎの一撃を回避する。
「大振りな攻撃は隙だらけです」
須藤さんはゴブリンチャンピオンの懐に潜り込むと、もの凄い速さでゴブリンチャンピオンの身体を切り刻んでいく。
胸から腹部、太もも。そして腕を素早く切り刻むと、夥しい量の血液が噴き出す。
「グァアアアアア!!」
それでも負けじとゴブリンチャンピオンは段平を振ると、斬撃が須藤さん目掛けて飛んでいく。あれはスキルだろうか?
「おっと危ない。ただの筋肉馬鹿かと思いましたが、ちゃんとスキルも使えるんですね……しかし、狙いが甘いです」
飛ぶ斬撃を回避すると、短剣を1本腰の鞘に戻し、胸元のナイフを2本抜くと素早くゴブリンチャンピオンに向けて投合する。
「ギャアアア!!」
そのナイフは真っ直ぐに、ゴブリンチャンピオンの両目に突き刺さると、あまりの激痛か段平を落とし金属音が響き渡る。そして――
「お終いです」
ゴブリンチャンピオンの首と胴体が泣き別れし、冷たい石畳の床に崩れ落ちると光の粒子となって消え去った。
1層のゴブリンチャンピオン戦は須藤さんの圧勝という幕引きであった。
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