↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
35/36

城猫

「そうだ、母さん。母さんはどうなったの?」


優しく見つめ合う領主と娘を微笑ましくながめていたマリルが、はっとなって言った。


「そうだ。下でぼくたちの身代わりになって、悪い魔法の鏡の力を一手に引き受けてくれたんだった」


モリルもあせって娘の腕の中でもがいた。


「探しに行こう」


トリルがいちばんに飛び出して、くずれた城壁を駆け下りていく。


「どうしたの?猫ちゃん」


娘がもがくモリルを下ろすと、彼も姉弟猫を追って駆けて行った。


「ふむ。いつまでもここで油を売っているわけにもいかないね。私たちも下の様子を見に行こう」


「はい」


領主は娘の手を引いて、残った塔へと導いていった。


誰も居なくなった城壁の上で割れた魔法の鏡の破片が、太陽の光を反射してぎらりと光った。


三匹が戦場のあとに駆けよると、母猫が倒れていた。


「母さん!」


トリルは心配のあまり飛ぶような勢いで駆けよった。

母猫は苦しげな表情のまま横たわっている。


「母さん。母さん!」


トリルは泣きそうになるのを必死でこらえながら、母猫の顔を、手を、体を舐めた。


「……ううん」


母猫の身じろぎに気づいてトリルの顔がパッと明るくなる。


「母さん!ぼくだよ。トリルだよ」


「ああ、トリル、無事だったのね」


「うん、ほかのみんなも無事だよ。ほら」


トリルはそう言って、駆けよってくるマリルとモリルのほうを見た。


「母さん!」


「大丈夫?」


マリルとモリルも母猫に駆けよると、心配げに顔をのぞきこんだ。


「ええ、少し体が重いけれど、怪我はないわ」


母猫はそう言いながら、苦労して体を起こした。

トリルが、母猫の肩の下に頭を差し込んで起きるのを手伝う。


「ありがとう。もう大丈夫よ」


母猫は次第に元気を取り戻し、顔色も戻ってきた。


母猫は戦のあとを見回して言った。


「なんとか守りきれたようね」


「はい。とても強力な魔法使いでしたけれど、最後は三人の魔法を合わせて打ち倒すことができました」


「そう。良かった」


「母さん、ぼくたちの魔法って一体何なの?」


トリルが、ずっと聞きたかった質問を口にした。


「私たち城猫の一族は、お城を守るために特別な魔法の力を持っているの」


「すっげえ!じゃあ、俺たちは無敵ってことだな」


モリルが歓声を上げる。


「そうではありません。私たちの魔法は確かに強い力を秘めていますが、いろいろな制約もあるのです」


母猫のたしなめる口調にモリルはしゅんとなった。


「お母さま、どのような制約があるのですか?」


「そうね。いい機会だからあなたたちに教えておきましょう」


母猫の言葉に子供たちは一列に並んできちんと座ると耳をそばだてた。


「この力は、身近な人間のためにだけ使うことができます。自分のために使おうとしても、魔法は発現しません」


「ちぇっ」


母猫の言葉につい舌打ちをしたモリルは、母猫ににらみつけられて思わず姿勢を正した。


「さらに、私たちの魔法は無尽蔵ではないのです。自分のしっぽを御覧なさい」


「あっ!」


「何だっ?!」


「そんな!」


姉兄猫が自分のしっぽを見て、それぞれに驚きの声を上げた。


「城猫の魔法を一つ使うたびに、私たちのしっぽは縞模様一つぶん、短くなっていきます。

そして、すべての縞模様がなくなったとき、私たちは魔法が使えなくなります」


子供たちは、母親の告げる言葉に衝撃を受けてだまりこんでしまった。

トリルは縞模様二つぶん短くなった自分のしっぽを見つめながら、はたしてぼくは魔法がいつかは使えなくなることに脅えているのだろうか、それとも自慢のしっぽが短くなることに脅えているのだろうか、と考えていた。

そして何気なく母親のしっぽに視線を送って、こんどは飛び上がるほど驚いてしまった。


「母さん!しっぽが、しっぽが!」


「ええ。悪なる鏡の魔法に対抗するために、私の力はすべて使いはたしてしまいました」


母猫はそう言って、人間の親指ほどの長さになってしまったしっぽを少し悲しそうにふり返って見つめた。


「マリル」


母猫はしっかりと身を起こすと前足をそろえて座った。


「はい、お母さま」


マリルも母猫に合わせて真っ直ぐに足をそろえて座る。


「これからは、あなたがこの城の城猫です。私に代わって領主さまをお支えするのですよ」


「はい」


母猫がおごそかに告げると、マリルは頭をたれてその言葉を受け止めた。


「それから、モリルとトリル」


「「はい」」


兄弟猫が声をそろえて答える。


「城猫は普通、一世代に一匹しか産まれません。あなた達三匹が、同時に城猫として産まれたのにはわけがあるに違いないと常々思っていましたが、もしかしたら、今日のこの災厄を予感した神さまが、あなたたちを遣わしたのかも知れません」


子供たちは、神妙な面持ちで母猫の言葉を聞いている。


「しかし、強い力は不幸を呼ぶことがあります。まだはっきりとしたことは言えませんが、脅威が去ったいま、あなた達はこの城を離れるべきなのかもしれません」


「ええっ?!」


モリルは思わず情けない声を上げてしまったが、トリルは驚くようすもなく、母猫の言葉を受け止めていた。

母猫は、そんなトリルの顔を理解を込めた眼差しで見つめた。


「母さん、ぼくは外の世界に出てみたいと思います」


「えええっ?!」


モリルは、こんどは本当に飛び上がって驚いた。


しかし、トリルは落ち着いた声で母猫に語りかけた。


「偶然、外の世界に迷い出て、いろんなことを知りました。

世界がとっても広いこと、

そこにはいろんな生き物がいること、

そして、自分が知らないことがたくさんあることを知りました」


母猫は、トリルの言葉にうなずいた。


「ぼくは海が見てみたい。

港町に行ってみたい。

船にのって、もっといろんな世界を見てみたい」


トリルは熱っぽく語った。


「そうね。あなたの信じる道を行きなさい。城猫の力は、きっと、あなたを支えてくれるでしょう」


「はい」


トリルは、顔いっぱいに希望に満ちた笑みを浮かべて大きくうなずいた。

城猫トリルの成長物語もついにエンディングを迎えます。

トリルの冒険譚はまだまだ続きますが、お話は次でひとまず完結となります。

リクエストがあれば、書いてみようと思いますので、感想などリアクションをいただけたら幸いです。

さて、次の新連載は異世界スローライフもの。

かわいい灰色の毛玉子猫から打って変わって、冴えないアラサーおっさん賢者が王都の下町で繰り広げるハートフル?のんびり生活なお話です。

ポンコツ賢者の異世界スローライフをお楽しみください。

【2026年11月3日(祝) 新連載スタート】

『転生特典で全魔法習得済みなのにレベルキャップが5で詰んでます。~下町の賢者様、スローライフも案外忙しいですよ~』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。