反撃
トリルは姉兄猫の下へ急いだ。
魔女は合わせ鏡となった対なる鏡を城猫たちに向かって開こうとしている。
「マリル!モリル!」
トリルの声にマリルがふり返る。
「やっときたわね。早くこっちへ。みんなの力を合わせるのよ!」
マリルは、どこに行っていたの、とか、なにをしていたの、といった不毛な質問で時間を浪費したりしなかった。
ギリギリだけれど、間に合った。
彼女ら城猫の姉弟にはそれで十分だった。
「うん!」
トリルは力強くうなずくと、マリルとモリルの間に飛び込んで足をふん張った。
しっぽの先に力を込める。
全身の毛が逆立ち、耳の先がチリチリとしびれる。
そこへ魔女の放ったどろりとした黄色い光がからみつくように襲いかかった。
自らの魔法の力に耐えるように目をすがめていた三匹は、同時にカッと目を見開いた。
耳からしっぽまで一気に力が駆けぬけて、三匹の体から白色の光がほとばしる。
三匹を飲み込もうとしていた黄色い光が球状にふくれ上がる光の壁に阻まれて、苦しむようにもがいたあと散り散りになって霧散した。
「なにっ?私の完全なる力が阻まれただと?」
絶対の自信を持って放った一撃が弾かれて、魔女の顔が憎しみに歪む。
「ありえぬ。わが力は完璧になったはず!」
再び襲いかかる魔女の魔法を城猫の魔法がまたしても弾き返す。
「うぬぬ。許さぬっ。われより強い力など許さぬ!」
魔女は中庭をふり返えり、サイクロプスを呼んだ。
「来よ。わがしもべ。小賢しい獣どもを叩きつぶせ!」
「ヌゴォォォ!」
サイクロプスはふり向いて城猫たちを見ると、地面を揺さぶるほどの大きな雄叫びを上げた。
手には中庭に生えていた楠の木を引っこぬいて作った棍棒があった。
無造作に棍棒をひとふりする。
サイクロプスは、たったの一撃で物見台を粉砕して瓦礫に変えた。
「ひーっひっひっ、どれほど魔法の防御が堅くとも、この一撃には耐えられまい。さあ、覚悟するがいい、獣どもよ。やっておしまい!」
魔女の合図を受けて、サイクロプスは真っ直ぐ頭上に楠の木の棍棒をふり上げる。
トリルはサイクロプスの顔を見すえると、全身の魔法の力をしっぽに集めて、しっかりとねらいをつけた。
「これでもくらえ!」
トリルが食いしばった歯の奥で叫ぶと、城壁の上空に空気の渦巻きが発生し、そこから氷のつぶてが飛び出してサイクロプスの目を襲った。
「ムゴォォォ!」
突然の攻撃を瞳に受けて目をつむったサイクロプスは、棍棒をやみくもにふり回しながら前のめりに倒れた。
「よけるんだ!」
モリルが叫び、サイクロプスの足元に向かって駆け出す。
姉弟も続いて走った。
目が見えないサイクロプスは見当違いの方向の城壁を叩き壊すと、自分が作った瓦礫の山につまずいて前のめりに転倒した。
「何をやっているんだい。この、のろま!」
魔女は、きいきいといらだちを込めた叫びをサイクロプスに投げつけた。
魔女にせまった三匹は倒れている領主のそばに駆けより、かばうように立って魔女と向き合った。
「こうなったら、私が直々にくびり殺してやろう」
魔女は、左手に抱いた『対なる鏡』をかかげ、杖で空中に文字を描くようにふり回して、怪しげな呪文を唱え始めた。
「マリル、モリル、しっぽをからめるんだ」
トリルは、とっさの思いつきで叫んだ。
「なんだって?」
「わかったわ」
モリルはわけが分からずにいぶかしげな顔をしたが、姉がトリルと長いしっぽをからめると、それに続いてしっぽを巻きつけた。
「いくよ!」
トリルのかけ声にマリルとモリルがうなずく。
三匹は目を薄く閉じ足をしっかりとふんばって力を込める。
三匹の体が光を帯びてどんどん輝きを増していく。
マリルは、純白の暖かい輝きを放った。
モリルは、金色の熱い輝きを放った。
トリルは、青白く冷たい火花のような輝きを放った。
三匹がかっと目を見開くと、六つのサファイヤブルーの瞳がきらめいた。
三匹の体をおおう光がからめたしっぽにあつまって、虹色の光の渦となる。
「やーっ」
城猫の姉弟が叫ぶと同時に、しっぽでより合わされた光が奔流となって魔女に打ちかかった。
「ぎゃあぁぁっ」
苦悶の叫びを上げて魔女が両目をおおう。
その拍子に魔法の鏡が手からこぼれて床に落ち、がしゃんとにぶい音を立てた。
「あああっ」
光の奔流は、細くしぼりこまれて魔女の胸に吸い込まれていく。
城猫の放つ魔法が、魔女の黒曜石の心臓を撃ちぬいた。
高まる魔女の悲鳴とともに、びきっ、ぴしっと黒曜石の心臓にひびが入っていく。
魔女の心臓は、ついに耐え切れずにこなごなに砕け散った。
「ああっ」
魔女は苦しげに左手で心臓を押さえ何かにすがるように右手をかかげて立ちつくしていたが、最期にか細い悲鳴を上げると、くるりと回って草木がしおれるようにたおれた。




