援護
トリルがたどり着いたときにはお城のそこここからどす黒い煙が上がっていた。
トリルは、みんな無事でいて、と祈るような気持ちで開け放たれたままになっている城門をくぐった。
兵士たちのうめき声に導かれて中庭に入ったトリルの目の前で、サイクロプスが叫び声をあげる。
「なんてことに・・・。みんなは?マリルとモリルは無事?」
周囲を見回したトリルは、すぐに魔女の存在に気づいた。
マリルとモリルはきっとあそこだ。お城を、領主さまを守ろうと戦っているに違いない。
トリルは急いで城壁を駆け上った。
城壁に上がったトリルは、二つの鏡をかかげる魔女に対峙する姉兄猫の姿を見つけた。
「マリル!モリル!」
二匹のもとへ急いで駆けつけようとするトリルの前に、城壁をよじ登ってきたゴブリンが立ちふさがった。
「グフフフッ」
醜く笑う口元からは汚いよだれがあふれてしたたっている。
「じゃまをするな!」
トリルの叫びを嘲笑いながら、ゴブリンがゆっくりとこちらに近づいてくる。
はっと後ろをふり返ると、背後にも別のゴブリンが迫っていた。
前後をゴブリンにはさまれ、右手は切り立った石壁の崖に阻まれている。
左手は人間が通れるように通路になっているが、そちらに降りればきっとゴブリンたちも降りてきて、前後をふさぐだろう。
そうなると完全に四方を囲まれることになる。
トリルは進むことも逃げることもできずにゴブリンとにらみ合いながら、刻一刻となくなっていく時間にあせりがますばかりだった。
ついに一か八か、前方のゴブリンの股の間を駆けぬけようと身構えたそのとき、高い塔の上から黒い影が弾丸のように突っ込んできた。
「カァァァッ!」
黒い影は奇声を上げてゴブリンの頭に突っ込んだ。
鋭いくちばしがゴブリンの目を狙う。
何度も突っつかれ相手が思わず両手で顔をかばった隙に、黒い影はゴブリンのとがった耳をくちばしにくわえて城壁の外側へ思いっきり引っぱった。
ゴブリンはバランスをくずして城壁の下へともんどり打って落ちていった。
「きみは!」
弾丸の正体は月の輪模様のカラスだった。
「カッカッカッ、余所者にいつまでもでかい顔をさせてたまるもんか!」
カラスはニヤリと笑った。
「助かったよ」
「残りの一匹もオイラが引き受けた!おまえは姉貴たちのところに急げ!」
カラスは翼を大きく広げてはばたきながら空中でバランスを取ると、鉤爪をかかげる臨戦態勢でゴブリンを牽制している。
「ありがとう!」
トリルはふり向かずに礼をいうと城壁の上を駆け出した。
「ゴブッ!」
逃すかとばかりにトリルに追いすがろうとするゴブリンの左目をカラスの鋭いくちばしがねらう。
「おい、のろま!おまえの相手はこの俺さまだ!」
カラスはゴブリンの棍棒が届かない距離で滞空し、すきを見ては突っつき、引っ掻き、敵が進もうとすれば前を横切って進路をふさいだ。
カラスに翻弄されて、ゴブリンがいらだちのあまり大きく伸び上がり棍棒をふる。
「おっと、足元がお留守だぜ!」
カラスは、大振りの棍棒を難なくかいくぐると、伸びきったゴブリンの足をすくった。
棍棒をふり回して流れた体勢が、大きく外側にくずされる。
「ゴモォォォ!」
ゴブリンは断末魔の叫びを上げながら、仲間のあとを追うように落ちていった。
「見たか!この城は人間だけのものじゃあねぇんだ。俺たちを甘く見ると火傷するぜ!」
カラスの、勝利を告げる鬨の声が城に甲高く響き渡った。
モリルはあせっていた。
合わせ鏡となり威力を増した魔女の鏡は、以前のように直線ではなく扇状に光を放っていた。
先ほどは小さな体とすばしっこさを活かして魔女の反撃をかろうじてよけたが、面で攻撃されると逃げ切れない。
離れて攻撃するにしても、どの程度離れれば魔法が届かないのか、見当もつかなかった。
迷いがモリルの足をにぶらせ、一瞬すきが生まれた。
マリルとモリルの位置取りが、同じ軸線上にそろってしまう。
魔女はにたりと笑みを浮かべて合わせ鏡を開いた。
「しまった!」
いまからでは飛びのいてもマリルとの距離を十分にとることはできない。
一か八か、マリルと目を合わせてうなずくと、二匹は魔法の力を呼び起こすべくしっぽの先に集中した。




