エルダジアとの戦い 2
「来るぞ!! 出遅れるんじゃねェぞ、かかれーッッ!!」
「サポートします!!」
前衛の騎士様たちの体が優しい光に包まれる。強化魔法だ。ミランダも先ほどウォールを展開した辺りの騎士様たちへの強化魔法を施した。
先程の爆発に、後方にいた聖人たちも集まってくる。
「私たちの役割は騎士様たちのサポートです。皆様はヒールを優先しつつ対魔法攻撃に備え魔力を温存しサポートして下さい!」
「「はい!!」」
ミランダの指示に聖人達は割り振られていた持ち場のサポート体制に入る。
前方からキィンという剣と剣がぶつかり合うような音がする。周りを見ると押し返され騎士様が蹲っていた。すかさずヒールをかける。
敵側として感知できる魔力量は本当にわずかだ。力量も一目瞭然、こちらが押している。なのに、何故だろう。前線は全く動く気配がない。戦いの中で負傷する騎士様に次々とヒールをかけていく。
「クソっ! いつまで湧いて出やがる!! ッノヤロウ!!」
ナフタック様が剣から熱波を放つ。一帯にいた敵騎士は熱波に爛れ一瞬にして後方へ飛ばされた。これで人数が減ったかと思いきや、後方が青白く光り、そこにまた新たな騎士が現れるのだ。
ふと転移してくる彼らの表情が気になった。勇ましさの中に恐怖が顔を出している。格好もよく見ると騎士というよりは、魔力を持った兵士のようにも見える。勿論全員がそういった訳では無い。剣を振り互角に戦う本当の騎士もいるのだ。そしてその騎士には勿論それなりの魔力だってある。
魔力の動きにとっさにウォールを張ったのはルシウス様の後方だ。キィィンと鋭い何かが弾かれるような音が響いた。
術者であろう騎士は悔しそうな表情を浮かべたが、次の瞬間には血しぶきに倒れていた。ルシウス様はそのまま剣を振り敵の方へ向け業火を放ち、一帯を焼き尽くした。
「ルシウス様、お怪我はありませんかっ」
「ああ、助かったよ。魔術具を使用しても魔力の残っている騎士が一定数混ざっているようだな」
「やっぱり。多分ほとんどが多少魔力がある兵士で、騎士は少数です。おそらく無差別に集め送り込んでるのかと……」
「捨て駒か?」
「わかりません。でも、奇襲につきこちらの数もある程度少ない、短時間で召集が掛けられるのは王都の騎士くらいだと読まれていたのかもしれません。もしくは本当に…」
「ぐわぁああっ」
声のもとに視線が動く。血しぶきとともに騎士様の腕がゴトンと地面に落ちた。目があった敵のニヤリと狂ったように口角を上げた口元にゾクリと悪寒がした。
ルシウス様が駆け出し的に向かって魔法剣を振りかざす。私はすぐに騎士様にヒールをかけた。落ちた腕がつながる様子に敵が驚愕の表情を見せたのも一瞬だった。次の瞬間には血に染まりその場に倒れ込んだ。
「大丈夫かっ」
「はい! 副団長、アリシア嬢、ありがとうございますッ」
騎士様は呼吸を整え再び前線へと向って行く。
先程のルシウス様の業火でこの辺りは焼け野原と化して敵も散り散りだ。周りを見渡すと、ナフタック様の近くにジョエル様がいる。あの二人のマナコントロールは完璧なのでさすがと言うか、敵を全く寄せ付けていない。
特にジョエル様だ。魔法もさることながら、剣で敵うのは限られているだろう。グスタフ様はというと、強化が効いているから余計に相手との全ての力の差が明らかだ。剣の一振りで大抵の敵が飛んでいく。そしてルシウス様、先程の魔法も剣も圧巻だった。
他の騎士様たちも、多少のマナコントロールの成果か今のところ大きな被害は出ていない。勿論ミランダ達のサポート体制があってのことだけれど。
そんなこの状況に少しの安堵を持ってしまったのが原因だった。
「きゃっ」
ぐっと足をひかれ、その場に倒れ込む。倒れ込んだ上に先ほど倒れていた男がまたがった。血が垂れる口元を歪め、私の首元に剣を当てた。
「アリシア!!」
「動くんじゃねぇ! この女の首掻っ切るぞっ」
剣先がチクリと喉に刺さる。
男の息は荒い。呼吸もギリギリで気力で動いているのだろう。だとしたら、この男は私をすぐには殺さない。
「ルシウス様、大丈夫です」
「ッ……」
「お前、聖女だな。落ちた腕が付くなんてすげェヒール使えるんだったら、俺も、治せるな」
やっぱり。
「今すぐ俺にヒールを掛けろ。全回復でだ。その後には強化もかけるんだっ」
焼け野原になった場所からまたポツポツと魔力を感じる。再び転移で騎士が来るのだろう。
「周りの騎士どもは動くなよ。少しでも動いたら……わかってんだろ?」
現れた転移陣から騎士たちが叫びながらルシウス様たちに向かって剣をかざし走ってくる。
チラリとルシウス様に視線をやる、そしてにこっと笑って見せた。
――バチン
頬に痛みが走る。打たれたと知ったのは数秒後だ。こんな状況で、味方に笑いかけてたのが気に食わなかったのだろう。頬の痛みに耐え左に傾いた顔を正面に戻すと、先程よりも息を切らした男が怒りに震える手で剣を握り私を睨みつけていた。
転移で来た騎士もだいぶ近くまで走って来ている。早く済ませなければ。
「俺を治せと言っているッ!!」
「……ええ、わかりました。まずはその火傷。火傷には……お水を」
ニコリと笑顔を向け片手を彼の胸近くに当てる。そのまま練り上げたオドを放った。 次の瞬間には彼の胸を水流が貫通して、体ごと後方に吹き飛んだ。
「ルシウス様、転移で来た敵を!」
「すぐに終わらせてやる」
静かな怒りを感じる声に、敵が少し可哀想に思えた。そう思った後にはもう遅く、黒く焦げた人だったものが転がっていた。炎は見えないことから、おそらく熱波だったのだろう。
「アリシアっ!」
駆け寄ってきたルシウス様が私の体を起こし抱きしめる。
戦地だというのに高鳴ってしまう心臓が憎い。ルシウス様はただ純粋に私を心配してくれているだけなのだから。
大きな手が、打たれた頬に優しく触れた。
「また……目の前で……今度こそ失うかと……ッ」
「大丈夫です。叩かれただけですし、首も少し血が出てるだけで……ひゃっ」
頬からスッと下ってきた手が、先程まで冷たい切っ先が触れていた部分に触れた。
「痛かっただろう……」
「ただの切り傷ですよ。でも……ありがとうございます」
ルシウス様に差し出された手を取る。彼が立ち上がるのと同時にぐっと引き上げられ足が地面についた。
目の前の焼け野原からは転移陣が浮き上がっては来ない。周りを見渡しても、段々と送り込まれてくる敵の数が減ってきているように思えた。
着実に魔力は減ってきている。それは私だけでなく周りの騎士様やミランダ達もそうだろう。前線が動けばこちらから仕掛けることができる。できるだけ早めに決着を付けたい。
そう思っていた矢先、再び前線に魔力反応とともに相当数の転移陣が一斉に浮かび上がる。転移で現れたのは明らかに騎士ではない。手には剣を持っておらず、魔術具のようなものを持っている。魔術師だろうか? それにしては個としての魔力は殆ど無いように思える。
「エルダジア帝国のためにッ!!」
ナフタック様がいる場所の近く、一人の男がそう叫ぶと「オオォ!」という雄叫びが響いた。
最初の男が走り出す。その男に続き他の者もこちらへ向かって走り始めた。騎士様達が剣を構える。男が騎士の前にたどり着く前の一瞬だ、魔力が動いた。
「ミランダ!」
「ウォール!」
ウォールとほぼ同時だ、男は魔術具ごと消し飛んだ。
「特攻? 自爆かよっ」
その状況に驚いたのはナフタック様やこちらの騎士様だけではなかったようで、魔術具をもっている敵も次々に叫びだした。発狂してその場で爆発する者、その爆発に巻き込まれる者。勿論本来の目的を果すべく走り込んで来る者もいる。
「胸糞わりぃな……ふざけんなッ」
ナフタック様の一振りで一帯の敵が持つ魔術具が爆破する。その爆発に巻き込まれる形で連鎖して次々と爆発が増えていく。
何故こんなことを? その一瞬の違和感が漸く繋がった。敵陣付近から魔力を感じる。
前線で起こっている魔力の小さな動きと爆発、これに気を取られてしまった結果、私たちは敵陣での大きな魔力の動きに気付くのが遅くなっていたのだ。
きっとこれが狙いだったんだ。そう気付いた時には今までにない魔力が集まって敵上空を黒い嵐のように渦巻いていた。
そして次の瞬間に、その嵐のような黒い球体がこちらに向かって放たれた。きっと風魔法だろう。先ほどの比でないスピードでこちらへ向かってくる。
まずい、とっさに展開できる私1人のウォールでは塞ぎきれない。それでも――
――ウォール!
即座に練れるだけのオドとマナを練り込んだ。
ウォールに魔力がぶつかった瞬間にまるで抑え込まれるかのように体が地面に押される。魔力放出の為に空へ伸ばした肘が、魔力の重さに耐えきれず曲がり始める。
「うぅ、ぐっ……」
魔力が削られていく。このままでは、みんなが――
――それは一瞬の出来事だった。
黒い嵐が吹き付ける上空にスーッと闇が口を開く。少し前までの土煙なんかは比でもない、完全な闇がそこにあった。そしてその闇は黒い嵐も、私のウォールも全てを飲み込んで開いた口を閉じるかのように消えていったのだ。その瞬間に上で感じていた重みから解放され、地面にへたり込む。
肩で息をしてしまうのは、魔力が少なくなってきているからだ。
「ジョエル様!」
ミランダに名前を呼ばれた彼の方を見ると、剣を地面につき上がった呼吸を整えていた。パチリとあった視線、赤い瞳が弧を描く。
魔属性の魔法を使ったのだ。でもその魔力は、魔人の魔力は回復しない魔力だって、ジョエル様が言っていた。
「ジョエル様っ、その魔力はっ」
どうにか立ち上がり私がそう問いかけると、ジョエル様は人差し指を口元に立てて「内緒、です」と少し苦しそうに笑った。
前線に残っていた敵の特攻要員は、先程の自国の風魔法により誰一人として残っていない。転移の魔法陣ももう浮かんでは来ないようだ。
「アリシア、大丈夫かっ」
「ええ、私は。皆様はお怪我などされていませんか」
「アリシア嬢、すまねェ。負担ばかり掛けちまって」
「ルシウス様もグスタフ様も、私は魔術師です。お忘れですか?」
そうだった、とグスタフ様が笑う。
マナを知らないこの時代の魔術師との魔法の攻防、それだけだったらまだ大丈夫だったかもしれない。でも威力強化の魔道具を使用され、流石に私の魔力も残り少なくなってきた。
これに関してはエルダジア側も同じだと思いたい。こちらよりも転移の魔術具を使用し接近戦を仕掛けてきた多くの騎士や兵、魔道具で威力を増幅させ魔法を使用する魔術師。戦闘に使う魔道具は魔力消費が激しいと、ルシウス様が言っていたことがある。かなりの人数と魔力を使用したはずだ。
この戦争が国取りの為に国家で行っている事であれば、国中から騎士や魔術師を集めこの程度の攻撃では済まないはずだ。だからこそ、国の歪みで一部の派閥が行っているような事であれば、いくら大国といえどもう戦闘に投入する人員も少ないだろう。
「もう……終わり、でしょうか」
ミランダが小さな声でそう言った。
その願いも虚しく、敵陣全体から中央に向けてぽつぽつと魔力が集まりだす。魔力が動いて中央に到達する前に感知できなくなってしまうものもたくさんいるようだ。
「チッ、クソが。諦めてねェようだな」
魔力の集まりは先程よりもばらつきがあり緩やかだが、その分確実に大きくなりつつある。
「聖人聖女は少量の魔力を残しウォールを!」
「「はい!」」
「俺たちもこちらに業火が届く前に魔力で押し返す! 魔力が残っているものは協力してくれッ」
「「はっ!!」」
ミランダとルシウス様が指揮を執る。負けることは、死を意味する。
私は護りたい。まだ少し魔力は残ってる、私もフェジュネーブを護るんだ。
「来るぞっ!!」
グスタフ様が叫んだ。
放たれた業火が空を赤く染め、轟音を轟かせながら迫ってくる。
「騎士団、放てーッ!!」
爆発音がなった。
騎士団が放った魔法が業火に触れ次々と消し飛ぶ。多少威力を削いでいるようにも見える。
「私も、まだいける」
「アリシア…ありがとう」
「障壁部隊! 一斉に……展開ッ!!」
――キィィィィン
ひときわ高い音を立て、大きなウォールが現れた。
万全の魔力ではないこの状況で、ウォールの耐久性も保証なんてできない。でもそれはエルダジア側だって同じなはず。
キラキラと光る頭上に、業火が降り爆音が響いた。
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X:@sheepzzzmei




