エルダジアとの戦い 1
「怪我人は中央に集めています」
騎士様の案内で部屋に向かった。
この場所にこの光景。ナフタック様がこの時代にきた時にも、同じようにこの場所に怪我をした騎士様が沢山いた。
「怪我をされている方々はこれで全員ですか?」
「いえ、ここの場所にいるのは自力で撤退できたやつらだけで……まだ前線に残されているやつらがいます」
まだ、前線に?
この時代、聖人聖女以外には聖属性魔法を使うことができないと、そういっていた。400年前のように騎士様同士で下級ヒールでもいいので応急処置をすることができない。だとしたら、前線に残っている怪我を負った騎士様の命が危ない。
「ミランダ、私がここの騎士様達を治します。そうしたらすぐに前線へ向かいましょう」
「待って、アリシア! ここの騎士の方々は貴方でなくても完治させることができるわ」
「それはわかってる、でも急がないと残された騎士様がっ」
何故だろう、落ち着かない。
召集されたばかりの時もそうだった、ドクドクと心拍が上がるのだ。魔術師団にいた頃こんな場面は何度もあったはずなのに、何故こんなにも胸がざわつくのだろう。
そのとき、私の肩にそっとミランダの手が乗った。
「アリシア、落ち着いて。私たちは貴方のおかげで、マナのコントロールもできるようになってきているわ。今の力でヒールを使えば、この場の騎士の方々は問題ないの」
ブルーグレーの瞳に私が映っている。そこでようやく私の呼吸が少し荒くなっていることに気付いた。
ゆっくりと大きく息を吸い、吐き出す。何度か繰り返すとミランダがにこりと微笑んだ。
「もう大丈夫そうですね」
「……ごめんなさい、自分でも何でだかわからないけど胸がざわついて……これまでだって幾度となく討伐に出てるのに……」
「だからじゃないかしら。きっとアリシアのいた場所は今いる場所よりも、平和だったんだわ」
今よりも平和? あの頃は今の時代よりも魔物の強さは格段と上だったし、魔物の出現頻度もそこそこに高かったはずなのに。
「アリシアは間違いなく前線組になるわ。そこではヒール以外にもきっと魔力を使用することになる」
「もちろん」
「だから、ここでは魔力を温存していて欲しいの。だから、ほら」
ミランダが聖人聖女の皆に腕を広げた。
私はここにきてようやく気付いたのだ。私の周りには仲間がいることに。
「アリシア嬢、俺たちだってマナ使えるようになったんですよ!」
「そうですよ! いっぱい教えて頂いたので、私たちも沢山の方の力になれるようになったんです!」
「アリシア様もおかげで、私もいっぱいお役に立てますっ」
「全員助けましょう! みんなで!」
口々に聞こえてくる言葉に胸が熱くなった。
滲む目元を擦って、みんなに笑顔を向けた。
「絶対に、助けましょうっ」
ミランダが指揮を執った。
この場所にいる騎士様たちを処置するためのメンバーを選んでいく。
さすが筆頭聖女だ。ここの能力を把握している。マナコントロールの習得具合までバッチリと。
ここにいるのは命には別状のない方々のみ。ある程度のヒールが使用できれば問題ない。
前線組は、魔力温存の関係で現場の負傷者をある程度治し、負傷者自らこちらの駐屯地へ戻ってもらうことになるだろう。そしてこの場所で、完治させる。
そのための適切な配置をしていくのだ。
そんな中部屋の入り口付近がざわつき始めた。
「ミランダ嬢、アリシア嬢、いるか?」
グスタフ様だ。
大柄な身体が人を掻き分けながらこちらに向かってきた。
「騎士達の治癒、本当にすまない。ありがとう」
グスタフ様が聖人や聖女へ頭を下げた。
トップ自らそう伝えてくれる、戦うことができない聖属性持ちも対等としてみてくれる。そして文字通り騎士の代表として感謝を伝えてくれる。
「とんでもないことで御座います。騎士様達も、本当にありがとうございます」
ミランダのその言葉を聞いて、グスタフ様はいつものようにニカっと笑ってくれた。そして、私の方をみて頷き「早速だが」と言葉を続けた。
「早速本題にはいる。前線へ一緒に来るものを決めて欲しい。こちらの要望としては、アリシア嬢、ミランダ嬢は必ず、他にも10人ほど魔力量やマナコントロールの兼ね合いをみて選んで欲しい」
「かしこまりました」
ミランダがそう返事をした。
「前線にいた騎士からの情報によると、最初に
魔術師からの遠距離魔法が放たれて以来、魔術具を使用するようなバカデカイ魔法はないそうだ。
純粋に騎士同士の剣と魔法での応酬、今は一旦相手が引き、沈黙が流れてるらしい」
「グスタフ様、怪我人はどのくらいいるんですか」
「重傷者が多いが中には重体のヤツもいるらしい。アリシア嬢、力を貸してくれ」
「ええ、もちろんです」
「それと、負担ばかりで申し訳ないんだが……アリシア嬢には魔術師として前線に来て欲しいと思っている」
私は魔術師だ。それは今もかわらないと思っている。その事はきっとグスタフ様も理解しているはず。それなのにあえてそれを伝えると言うことは……そう言うことなのだろう。
「はいっ、魔術師アリシア・マリージュとして、共に戦いサポート致します!」
「おう、よろしく頼む」
グスタフ様が少し眉を下げ笑った。
その後、グスタフ様はリュシーが話したという内容を共有してくれた。
エルダジアの今回の目的は国とりの一環等ではなく、900年前にあったユグナージュ王国の遺跡を目的としていること。魔術具がかなりの数使用されるが、魔力使用量が多いので連発できるのは魔術師が主だと言うこと。そして正式に国家としての動きではないと濁していたらしい。
国家としての動きでなく他国領地の侵略……皇帝は関わっていないと言うこと? 帝国中心部に歪みがあるということだろうか。
なんであっても、私たちが護るという事にはかわりはない。
教会側の前線人員の選定が決まってからは早かった。先に決まっていた騎士団の部隊と共に戦地を目指した。
遺跡近くの平原、その場所が戦地になっていた。最初に目についたのは後方まで移動された負傷者だった。夥しい出血、物理的な止血をしギリギリを保っている状況だった。聖人、聖女である程度の傷を治癒する。重篤者に関しては私とミランダで治癒をした。
この場で完治させる必要はないのだ。駐屯地まで戻れば、沢山の聖人達がいる。そこまで戻れるだけの治癒でいい。私たちも先に備えて魔力の温存は必須なのだから。
「ヒール」
白く柔らかな光が騎士様の腹部を覆う。これで、移動されていた最後の1人の治癒を終えた。
「治癒、ありがとう。今前線を見てきたんだが、敵陣は一旦引いているのか比較的落ち着いてるように見えた」
状況報告にナフタック様が来てくれた。
今最前線にいる騎士様にも多少の負傷者はいるものの軽い怪我程度だと言う。
「そうですか、何だか不気味ですね」
ふと見上げた空は雲に覆われ、もうすぐお昼になると言うのに薄暗かった。空を覆う灰色にまたドクドクと心拍が上がってく。
「400年前には、なかったよな」
「何が、ですか?」
ナフタック様に視線を向けると、敵陣の方を見つめながら言うのだ。
「――人と……殺し合う事」
ドキリとしたその瞬間、ミランダの言葉が頭に浮かんできた。
――「きっとアリシアのいた場所は今いる場所よりも、平和だったんだわ」
そう言ってくれたミランダの言葉の意味が、漸くわかった。何より、自分が何に違和感を感じていたのか、漸く。
そうだ、ミランダの、ナフタック様の言う通りだ。400年前は魔物の討伐が主だった。勿論、討伐中に盗賊と鉢合わせることもあった。そのまま戦闘になっても力の差は誰がどう見ても明白だ。街の中での犯罪に関しては兵士の管轄だった。
ナフタック様は騎士団にいた分私よりは対人の戦闘も多少は経験しているのかもしれない。
「……ナフタック様、ありがとうございます」
「……」
「お陰で、自分の中の違和感の原因がわかりました」
「……怖いか?」
「正直……わかりません。でも、相手が魔物であろうと国であろうと、私はフェジュネーブの魔術師です。護るものに変わりありません」
「ははっ、それでこそジョシュア師団長の愛弟子だっ」
「ナフタック様こそ、400年前にジョエル様と対峙したときみたいに」
「だーっ! あれはカッコ悪すぎた、もう忘れてくれ!!」
自分の中にある違和感に気づき少しだけ息がしやすくなった、そう感じ始めたその時。
敵地側に魔力が動いた。今はまだ激しい動きではなく、散り散りになっているものが集まっていくようなそんな動き。
「ナフタック様、ミランダ。敵の魔力に動きがありました。すぐにグスタフ様たちのところへ」
グスタフ様とルシウス様はこの部隊の中央前方に向かったはず。彼らがいるである方向へ走り始める。その間にも魔力のまとまりがだんだん多くなってきているようだった。
少し行くとグスタフ様とジョエル様が話している姿が見えてきた。ルシウス様も近くにいるようだ。
「グスタフ様っ、魔力に動きが――」
遠くでグッと魔力が圧縮されている感覚がする。
「来ます!」
「戦闘準備!!!」
グスタフ様の怒号のような声が響く。
次の瞬間には敵陣の少し前方から炎が起こり轟音とともにこちらへ向かって放たれた。このまま飛んでくると、この中央部の最前線にかかるかかからないかの距離で落ちる。
「アリシア、間に合わないわ」
「ウォールッ!!」
走りながらグスタフ様たちのいる少し前方へ広範囲のウォールを展開した。
――ドゴォォォン
地響きとともに巻き上げられた土煙で太陽の光が更に遮られる。
前線は無事!? みんなはどこ? 風魔法を微力で発動させ土煙を飛ばす。その風が流れ皆の姿が見えてきた。
「前線無事か!?」
「はい! こちらは障壁に助けられました!」
グスタフ様の呼びかけに前方から声がする。皆無事なようだ。風魔法を使ったからか砂の霧は吹き流れ、一通りの見通しがたった。目立った被害がないようで安心したのもつかの間、再び感じる魔力の動き。ルシウス様と目があった。
「次、来ます!」
「来るぞ! 全員衝撃に備えろ!!」
今度は左右に分かれて魔力を感じる。2箇所から撃ち込んでくるつもりだろうか。
西の空が炎で揺れる。轟音とともに再び魔力が放たれた。
「ミランダは左、私は中央から右、ウォールを!!」
「はい!!」
2枚の障壁が騎士団を覆う。その完成とほぼ同時に先程よりも手前、騎士にギリギリ当たるか当たらないかの距離に炎が落ち、地響きと土煙を巻き上げる。
距離の見込みミス? あまりにも変な位置に落ちた魔法に不思議に思いながらもウォールを解いた。先ほどよりも広範囲に落下した炎のせいで、舞い上がる土煙はフェジュネーブの騎士団を闇で覆う。
「ルシウス様、グスタフ様、聞こえますか!」
「ああ! 聞こえている」
「このあたりの土煙を風で飛ばすので、ご注意ください」
「おう、すまねェな」
先程よりも少しだけ多めにオドを練り込み風魔法を発動させた。中央騎士団内の土煙は前方へ飛び、前線より先の土煙がより一層の闇を作り上げていた。
「え…何?」
何だこの感覚は。
「どうした、アリシア」
「なんだか、変です。近くに魔力を感じるのですが、感じた瞬間に消えます」
「どういうことだ」
ルシウス様が、未だに濃い土煙の先を見つめた。
「おいおい、何だよこれ。小さな魔力集まっては消えてねェか」
グスタフ様もこの異状に気がついているようだ。
「……転移陣だ」
ジョエル様が小さく声にした。
少しづつ流れる土煙の中に青白光がぽつぽつと見えてきた。その光は、リュシーが使っていた魔術具の光。
「団長! 土煙に隠れ転移陣を使って騎士が直ぐ側へ来ています!!」
「「この地を我らのものに!!」」
ジョエル様の叫び声と、土煙の中から響く声はほぼ同時だった。
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X:@sheepzzzmei




