護る決意
ノック音が響いたのは夜明けよりも少し前、まだ空が暗い時間だった。
微睡む意識の中ゆっくりと目を擦り小さめの声で返事をすると、ドアの向こうで騎士様が「緊急事態です、直ちに集合願います」と最低限すぎる伝言を残してくれた。
こんな時間に召集がかかるなんて。この時代に来てからは初めてだろう。ふと400年前にあった討伐の事を思い出した。あの頃は夜明け前の召集も年に数回ほどあった気がする。
ベッドから抜け出して浴室で顔を洗い、髪の毛を少し高めの位置で1つにまとめた。
「よし」
両手で頬をパチンと叩き気合を入れた。
昨日の出来事の後のこの召集、エルダジア帝国との関係が無意味な訳がない。
着替えて足早に集合場所に向かうと、そこには既に多くの騎士様達が隊をなしていた。
ふと後方奥の方に視線を移すと夜風に揺れるピンクブラウンを見つけた。こちらに気付きにこりと微笑みをくれる。
私の位置としては騎士ではないので、現代における聖人聖女の位置だろう。1人だけ違う衣装に違和感を感じながらミランダ達に合流した。
「おはようございます」
「おはよう、ミランダ」
そう軽く挨拶を交わした後すぐに、前方から聞き覚えのあるバリトンが響いた。
声の方を見るとグスタフ様とルシウス様が指揮を執っているのが見えた。
「堅苦しい挨拶は省かせてくれ、そんな時間がもったいねェ。端的に言う。エルダジアが攻め入ってきた」
一瞬の声にならないざわつき。
グスタフ様はそれを確認したかのように間を少し置いて続けた。
「今は転移陣近くの駐屯所に前線から移動できた負傷者を保護している状態だ。前線の進軍については一旦は止まっているとの事だ。場所は古代遺跡近くの平野で、どうやらその遺跡を欲しがっているらしいが……なんであれ、陛下より賜った俺たちの使命は1つ。領民を領地を、国を護り抜く事だ」
「はっ!!」
ザッとその場で足を踏みしめる音が声と共に響き、ピリリと空気が震えた。ドクドクと心拍が上がる。
400年前も騎士団と魔術師団でこのような招集はあったし、ケイオス団長やジョシュア師団長がみんなを鼓舞する事もあった。その時ももちろん緊張感はあったはずなのに、今と感覚が全くの別物だ。
魔術師としてでなく聖女として参加するから? ――違う、そうではない気がする。この違和感は一体何なのだろうか。
「編隊についてはルシウスから伝える」
ルシウス様が一歩前に出てグスタフ様と並んだ。
ふと、昨晩の出来事が頭をよぎり、ぐっと胸が締め付けられる。それでも私情を挟むわけにはいかない。この招集が終わったらもう一度話すことになるかもしれない。その時、私はちゃんと笑顔でいられるかな。
目頭が熱くなる。こんな時に涙なんて、魔術師として失格だ。両手でパチンと頬を挟んだ。目立ってしまうと大変なのでなるだけ小さく動いたけれど、隣にいるミランダにはバレてしまったようだ。
「どうしたの?」
「あ、あくびが出そうになって、かみ殺して気合を」
「生理現象だもの、仕方ないですわ」
にこりと笑みをくれまた視線は前方へ戻る。
「――以上の理由より、指揮系統は4つに分ける。駐屯地までは各々の隊で移動、教会の者たちは俺の班と共に行動する。基本は駐屯地で治療にあたってもらうが、抜粋して数名は共に前線に出てもらうことになる。現地に到着次第、指示をだす」
ルシウス様の言葉にミランダと視線が合った。
私たちは間違いなく前線組だ。お互い頷き気合が入る。
「みんなも知っていると思うが、エルダジア帝国には特殊な魔術具がある。魔力を増幅させことができるものだ。そして、昨日捕らえた捕虜からの情報で個人で使用する転移の魔術具もかなりの数あることを聞いた」
昨晩捕らえた捕虜、間違いなくリュシーの事だろう。
国のことより魔法の事を優先する彼にとって、捕まってしまったら自国の情報は全く関係ないものなのだろうか。
「転移陣は魔力使用量が多いので、基本発動は一度だとも言っていた。捕虜の証言なのでどこまでが真実なのかは定かではない。ただ、敵は私たちが持ちえないものを持っている、この事だけは決して忘れないように。戦が終わってまたここで、皆の顔が見れることを楽しみにしている」
「よし、出発だ!!」
「はっっ!!」
一気に士気が上がる。騎士たちの声に空気が震えた。
グスタフ様とルシウス様は各隊の隊長へ指示をだしているようだ。隊長に抜擢されている中にジョエル様とナフタック様が見えた。彼らもまたこの時代のフェジュネーブを守るため、自分の生きる場所を守るために戦うのだ。
「アリシア!」
ルシウス様の声がした。
「君は一旦ミランダ嬢たちと行動してくれ。駐屯地についたら状況により治療に加わるかどうか判断させてほしい」
「はい、かしこまりました」
「……この時代の事に巻き込んでしまい、本当に申し訳ないと思ってる。力を、貸してくれるだろうか」
私が過去の人間なんて関係ない、今を生きているのはみんな変わらないのだから。何より……大好きな人がいる今を、この場所を守りたいのだ。
「私はフェジュネーブ王国魔術師団所属アリシア・マリージュです。国民を、国を守るため是非ご一緒させてください!」
「――ありがとう」
騎士団は隊列を組み、聖人聖女もそれに続き動き始めた。
最終章がスタートしました。
最後までアリシア達を見守っていただけると嬉しいです。
お読み頂きありがとうございました。
X:@sheepzzzmei




