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現代解釈桃太郎 ~大都会鬼討伐戦記~  作者: はの


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第58話 総社市

 備中国分寺びっちゅうこくぶんじ

 奈良時代、聖武天皇の発願ほつがんによって全国に建国された国分寺の一つ。

 つまり、仏教による国家の安定を願って建てられた寺院であり、東大寺を総本山とする日本国最大の建築物である。

 そして、備中国分寺の境内には、五重塔がそびえ立っている。

 高さは約三十四メートル。

 備中国分寺の五重塔は、岡山県唯一の五重塔にして重要文化財である、

 

 いかに頑丈な温羅といえど、岡山県と仏教の強固な歴史を加味すれば、体をひっくり返ることは明白だ。

 

「ようやく、こっちを見てくれたのう。そらそうじゃ」

 

 見下ろす温羅の一挙一動を、総社宙は全身の神経を張り巡らせて注視する。

 かつて世界を滅ぼしかけた最強の鬼。

 警戒して、し過ぎることはない。

 

 次の温羅の行動に、最大限の警戒を。

 

 ところで、人間が自身の血を吸う蚊を見つけたら、何をするだろうか。

 対話か。

 警戒か。

 答えは、条件反射の叩き潰しだろう。

 

 温羅は掌を広げて、五重塔を引っぱたいた。

 温羅の八倍以上はある五重塔は、めきめきと悲鳴を上げ、叩かれた箇所から千切れ倒れた。

 

「ぎゃああ!? 総社……世界の宝が!?」

 

 さらに、温羅は広げたままの掌を振り上げて、驚く総社宙に向って振り下ろした。

 

「ぬおぅ!?」

 

 総社宙が跳んで回避すると、再び温羅の右手が振り下ろされる。

 技術も工夫もない。

 ただただ蚊を叩くように、温羅の手が総社宙へと迫る。

 

「うぬっ! このっ!? わしなど! 蚊と同じレベルということか! そらそうじゃっ!」

 

 吉備津神社の境内に、次々温羅の手形が掘られていく。

 歴史も、伝統も、文化も、人類の全てに遠慮することなく温羅は攻撃を続ける。

 温羅に、怒りの表情も余裕の表情もない。

 しいて言えば、無である。

 ちょろちょろと飛び回る蚊を最速で潰そうとする程度の、無。

 

「くそっ! 自分で言ってて腹が立ってきたぞ! そらそうじゃ! 見下しおって!」

 

 総社市は、魅力がない。

 総社市にあるのは、備中国分寺や鬼ノ城といった歴史的遺産のみ。

 倉敷市の様なぶっかけうどんもなければ、津山市の様なホルモンうどんもない。

 世界が注目する、地域ブランドがない。

 

 従って、総社市にあるのは普通のみである。

 単純にして原点の主食。

 パンと米。

 それだけである。

 

 それ故、総社市には地力がある。

 

「なめるなよ!!」

 

 回避を続ける総社宙は、懐からパンと白米を取り出し、頬張った。

 炭水化物とは、人間の活動力の根源。

 活動力さえあれば、人間はなんでもできる。

 

 そして神は、なんでもできると信じ、行動する人間を愛する。

 

「人間が相手にならぬなら、神として相手をしてやろう! 『かみつじ』!」

 

 総社市は、古代の中心地域であり、奈良時代の国府。

 そんな歴史的背景から、神を祀った場所が多くある。

 備中の国に、神社は三百二十四社。

 総社市には、これら三百二十四社の神々を合祀するための総社宮がある。

 つまり、三百二十四社の全ての神が総社市にいる。

 

 総社市は、備中の神の集いの場なのだ。

 集いの場は現代、神が辻――カミガツジプラザとなって、今も存在している。

 御影石を野面積みと呼ばれる古式工法で積み上げた巨大なモニュメントは、神々が道に迷わぬための目印。

 神々を、日本最大規模の石積み彫刻で出迎える。

 さらにカミガツジプラザには人々が集うためのステージもある。

 カミガツジプラザは、神と人間が集い、神と人間が交流する場なのだ。

 

 総社宙は総社市市長として、常に神々との交流をかかさなかった。

 

 空が輝く。

 神々しい光が、まるで飛行機雲のように空を飛び、総社宙の体へと入っていった。

 三百二十四の神々が、総社宙の力となった。

 

 総社宙は回避を止め、降ってくる温羅の攻撃を片手で止めた。

 ずぐんと大地がへこみこそしたが、総社宙は温羅の掌と大地の間で、形を保っていた。

 総社宙は掌を支えていないもう一方の手で、拳をグッと握りしめ、温羅の掌を思いっきり殴りつけた。

 

「……いてぇ」

 

 温羅にとっては、一本指ではじかれた程度の痛み。

 が、蚊程度にしか認識していなかった存在が、弱いとは言え痛みを与えてくるとなれば認識を当然改める。

 

 蚊ではなく、カマキリへと。

 温羅は掌を握りしめ、拳で総社宙を叩き潰しにかかった。

 

「ははは、神々の力を宿してもこの程度か。そらそうじゃ。わしごときでは、神々の力を使いこなすことなどできんからのう。……じゃが、一声絞り出させることはできたぞ。一矢は報いることができたかのう?」

 

 総社宙は、勝てない勝負をする気はない。

 自分の実力というものを、誰よりも知っているから。

 総社宙は、向かってくる拳を受け止めることはせず、再び回避に徹した。

 吉備津神社の境内に、拳跡が残る。

 

 傷ついていく吉備津神社を守れないことに苦しみながら、しかし総社宙は回避し続ける。

 

 温羅の注意を引き付ける。

 それが、総社宙に与えられた指令なのだから。

 

 温羅が総社宙に意識を向け続ける限り、本殿も、吉備津神社の外も、攻撃されることはない。

 

 

 

「コー!」

 

 

 

 空を飛ぶタンチョウが、総社宙を鼓舞するように鳴いた。

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