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現代解釈桃太郎 ~大都会鬼討伐戦記~  作者: はの


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第57話 総社市

「ふふ……ははははは!」

 

 突然笑い始める赤鬼の頭部に、岡山水葉と倉敷我愛は視線を向ける。

 

「貴様らのやったことは、全て無駄だったのだ」

 

「なんだ? 負け惜しみか?」

 

「鬼の力を感じ取れない貴様らだ。そう考えても仕方ないだろう。だが、もう条件は整った。我々が温羅様を復活させることが最善だったが、我々全員が地球で死ぬことは次善。私たちの願いは、どのみち叶うのだ!」

 

「何を言ってやがる?」

 

 瞬間、赤鬼は弾け、赤い光の粒子となった。

 赤い光は周囲をキラキラと輝いて回った後、地中深くへ消えていった。

 

 否、赤鬼だけではない。

 青鬼、緑鬼、黄鬼、黒鬼。

 鬼を退治した全ての場所に光の粒子が現れ、同じように地中深くへと消えていった。

 

「なんだ、さっきの?」

 

 倉敷我愛が岡山水葉の方を見た時、岡山水葉は含み笑いをしながら光の落ちていった一点を見ていた。

 

「おそらく、赤鬼の言葉は真実なのでしょうね」

 

「はあ?」

 

「かつて桃太郎に退治された鬼『温羅』は、今も地中深くで回復を待っているのです。鬼が地球で死ぬことで、鬼の魂は地球に還ってしまいました。温羅は、その魂を食らって回復を試みるのでしょう」

 

「おいおいおい!? お前、それを知った上で俺たちに鬼たちを倒させたのか?」

 

 知らなかった事実を明かされ、かつ岡山県の危機が加速しただろう事実に、倉敷我愛は怒りを露にする。

 事前に説明されていればいくらでも手の打ちようはあったと、言外に岡山水葉を責める。

 が、当の岡山水葉は涼しい顔だ。

 

「問題ありません。温羅が復活する場所の見当はついています。それに、とうに人員も配置し終えています」

 

「ああ!?」

 

「全ては、県知事の掌の上です。どのみち、いつか封印を解き、完全消滅させる必要があったのですよ」 

 

 

 

 

 

 

「力が! 力がみなぎって来るぞ! 遅いぞ屑ども! これで俺様は、蘇る!!」

 

 吉備津神社が揺れる。

 かつて、桃太郎こと吉備津彦命きびつのひこのみことが封じた温羅の首が、地下から大地を鳴動させる。

 地中へ流れ込んだ鬼たちの魂は、温羅の首から吸い込まれ、首から下を再生させていく。

 体が。

 手足が。

 心臓が。

 全身が再生した温羅は、地上に向けて手を伸ばす。

 岩を砕き、大地を掘って、地上へと向かった。

 

「おおおおおおおおおおお!!」

 

 吉備津神社の地が割れ、巨大な体が太陽の元に現れた。

 真っ赤な長髪を振りまきながら、四メートルの巨大な体で地上に立った。

 額から生えた二本の黄色い角が、鬼であることを物語る。

 温羅は、全身の土を払った後で、一目散に走り始めた。

 

 本能が告げる場所へ。

 吉備津神社の本殿へ。

 

 温羅の周囲には万物を腐らせる瘴気が漂っており、木々が、大地が、悲鳴を上げて腐り落ちていった。

 唯一、神力を纏う神社の建造物だけは形を維持しているが、壁にビシリとひびが入った。

 

「いい姿だな!」

 

 温羅は、自身を封じていた吉備津神社本殿の前に立ち、掌を広げる。

 掌には周囲から熱気が掻き集められ、熱気が巨大な火の球へと変化する。

 

「消えやがれ!!」

 

 温羅にとって、吉備津神社は自身を封印し続けた恨みの場所。

 二度と封印されないよう、温羅は火の球を本殿へと投げつけた。

 

「県知事の最悪の予想が当たっておるのう。そらそうじゃ」

 

 火の玉が近づく本殿の屋根から声がし、人影が火の玉の向かってくる場所へと飛び降りる。

 そして、本殿に向ってくる火の玉を蹴り飛ばした。

 

 総社市そうじゃし

 岡山県の中南部に位置する市である。

 人口は六万と九六七八人。

 古代には、ヤマト王権に匹敵する勢力として君臨した吉備国、その中心地域として栄えた。

 奈良時代には国府と呼ばれる政務施設が建設され、国内の神を合祀した総社である『備中国総社宮びっちゅうのくにそうじゃぐう』も建設された。

 

 そんな古代大国総社市の現長が、総社市長、総社そうじゃそらである。

 総社宙は、本殿の前へと着地し、巨大な温羅を見上げた。

 

「こっちを見ぬか。そらそうじゃ。鬼の頭領にとって、人間など羽虫程度の認識じゃろうて」

 

 総社宙は頭についたネズミの耳をぴこぴこと、お尻についたネズミの尻尾をぶんぶんと振り、不快な感情を表現する。

 

 総社宙の言う通り、温羅にとっては火の玉が止められたことなど、線香の火が風で消えてしまった程度の想定外。

 次は、消えないように気を付けて火を付ければいいだけ。

 

 温羅は、再び火の玉を作り始める。

 温羅は、総社宙を攻撃しようとしない。

 否、攻撃をする必要がない。

 

「うぐ……。酷い瘴気じゃ。そらそうじゃ」

 

 温羅は、生み出す瘴気によって、存在するだけで周囲を制圧することができるのだから。

 

 瘴気は、総社宙の口から体内に侵入しようと流れてくる。

 瘴気に苦しむ総社宙は、ポケットからマスクを取り出し、口元を覆った。

 マスクはマスクでも、ただのマスクではない。

 

 デニムマスク。

 パンデミックにより不織布マスクが品切れになった際、総社市で作り上げたデニム生地のマスクである。

 マスク不足であった杜氏、臨機応変な対応によって総社市のマスク不足は即座に解消へと向かっていった。

 さらに、デニムマスクの製造は、障がい者支援事業としても行われた。

 作るのは、全て障がい者。

 パンデミックの対応だけでなく、障がい者の雇用促進という両面を持つその取り組みは、全ての人間が活き活きと暮らせることを目指し、そのための取り組みを惜しまない総社市だからこそ思い至る偉業である。

 

「さてさて、どうするかのう」

 

 デニムマスクによって瘴気を遮断した総社宙は、再び火の玉を放とうとする温羅を見る。

 火の玉は、今にも放たれそうな大きさにまで成長していた。

 

「まずは、意識をこっちに向けるところからじゃのう。そらそうじゃ」

 

 総社宙は、両手を地面につけて叫んだ。

 

「出でよ! 五重塔!」

 

 温羅が腕を動かすと同時に、温羅の足元から五重塔が生えた。

 五重塔は温羅の足を反り上げて、その体をひっくり返す。

 温羅の手からすっぽ抜けた火の玉は、空へと打ちあがり、空中で不格好な花火となって消えた。

 

 温羅はぶつけた頭をさすりながら、ゆっくりと立ち上がった。

 

 例え紙切れ一枚であっても、自身を転ばせた原因であれば、意識くらいは向ける。

 

 温羅は、総社宙を見下ろした。

人口は、令和五年一月一日時点の住民基本台帳人口に基づきます。

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