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現代解釈桃太郎 ~大都会鬼討伐戦記~  作者: はの


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第54話 早島町

 早島町はやしまちょう

 岡山県の南中央部に位置する市である。

 人口は一万と二六四八人。

 周囲を岡山市と倉敷市に囲まれおり、双方のベッドタウンとして機能している。

 面積が岡山県最小の七.六二平方キロメートルであり、同時に人口密度は岡山県最大の都市である。


「では、そろそろ助けに行きましょうか」

 

 岡山水葉がそう言うと、隣に座っていた早島町町長、早島はやしま浮島うきしまが立ち上がる。

 黒いロシアハットを頭に押し込んで落ちないようにしながら、岡山水葉の方を振り返る。

 

「いいのいいの? 倉敷市長、怒っちゃうよ? 助太刀なんてしたら、きっと怒っちゃうよ? 余計なことすんなって。いいの?」

 

 倉敷市が岡山市をライバル視しているのは周知の事実。

 岡山水葉の助太刀は、倉敷我愛のプライドを刺激するのも周知の事実。

 

「構わないですよ。個人のプライドより、岡山県の利益です」

 

 が、岡山水葉は気にも留めない。

 岡山市と倉敷市、双方と仲の良い早島町はしばらく困ったように首を傾げ、思いついたようにポンと手を叩く。

 

「じゃあじゃあ、私がなんとかするよ。そうすれば、喧嘩しなくてもいいからね!」

 

「貴女が?」

 

「うんうん。二人が喧嘩すると、困っちゃうからね!」

 

 岡山水葉の言葉を待たず、早島浮島は屋根から飛び降りた。

 黒い長髪をバサバサとなびかせながら、赤鬼の前に着地する。

 

「三人目か。だが、不用意に近づいていいのか?」

 

 赤鬼の周囲には、依然赤鬼の能力が蠢いている。

 あらゆる欲望が強制停止させられるデストピア。

 赤鬼の計算では、何もせずとも早島浮島が膝をつくはずだった。

 

「平気だよ!」

 

 が、早島浮島は膝をつかなかった。

 にこにことした笑顔を崩さず、矢掛鶯と倉敷我愛の無事を確認した後に、真っ直ぐに赤鬼を見ていた。

 驚いたのは赤鬼の方だ。

 

「……お前、何故欲望を失わない? 何故、平然と立っていられる?」

 

 欲望は、人間の行動の根源だ。

 欲望を奪われた者は、誰であろうと生きる気力を失う。

 

「あっはっは。なら、無理だよ。私の欲望は、岡山市と倉敷市が仲良くすることだもの!」

 

「何?」

 

「だから無理なの! この二人が仲良くなるなんて、絶対にないからね!」

 

 早島浮島が手を叩くと、地面から丸まったござが現れる。

 早島浮島はござの端っこを持つと、思いっきり引っ張った。

 ござは引き延ばされ、その場に正方形のござが敷かれた。

 

「さあ、いくからね!」

 

 ござから飛び出したのは、様々な模様。

 円に四角に三角に。

 あらゆる記号が飛び出した。

 

「なんだこれは!?」

 

「同じ攻撃は効かないんだっけ? じゃあ、全部バラバラの記号でお相手するからね!」

 

 記号たちは意思を持つように赤鬼へ向かい、ぶつかっては消えていった。

 

「うっとうしい! 何だこれは!?」

 

「花ござだからね!」

 

 花ござ。

 ござとは、い草で作った畳の様なラグである。

 中でも、鮮やかな模様が浮き出るように織り上げたござのことを、花ござと呼ぶ。

 花ござの歴史は古く、最古の花ござは奈良県の法輪寺に納められている龍鬢褥りゅうびんじょくと言われている。

 龍鬢褥は、飛鳥時代に生きた第三十三代天皇である推古天皇の寝ござ。

 つまり、花ござは千年以上の歴史がある由緒正しき逸品だ。

 

 そして、早島町はい草の町。

 い草を栽培し、い草製品を作ることで発展を遂げてきた。

 室町時代には京都相国寺鹿苑院へ畳表五十枚が納められた記録も残っており、その歴史も古い。

 江戸時代には『早島表』という名前で中継表が日本全国に出荷され、明治時代には花ござがアメリカへ出荷された。

 まさに、い草の文化を支えてきた土地である。

 

「ええ! 邪魔だ!」

 

 赤鬼は、何度も向ってくる記号たちを振り払う。

 が、記号の形は自由自在、数は無限無数。

 一向に反撃できないことに、苛立ちを募らせていた。

 

 その間、早島浮島は矢掛鶯と倉敷我愛の下に四角形の記号を作る。

 四角形の記号は、二人を乗せたまま空に浮き、天守閣の屋根へと下ろした。

 

「よしよし。これで安心だからね」

 

「何が安心だと!?」

 

 全てを振り払うのは不可能だと判断した赤鬼が、自身へのダメージを無視して早島浮島へと突進する。

 顔や腕に傷が残るのなど気にせずに、ただただ狙いを定めて来た。

 

「うーん。やっぱり私は、戦いに向かないなあ。ぶつかられたら、困るからね」

 

 向かってくる赤鬼に対して、早島浮島は地面を足で軽く叩いた。

 

 瞬間、地面から水が噴き出し、一帯を海へと変えた。

 

「ぬぐっ!?」

 

 赤鬼は、海底の砂に足をとられ、その場に転倒する。

 

 干拓の町、早島。

 干拓とは、水中に堤防を作り、水を抜くことで海を土地へと変える方法。

 早島は名前の通り、かつての島。

 干拓によって誕生した、新たな陸である。

 

 早島浮島にとって、海と大地を切り替えることなど朝飯前だ。

 

「早島、私の烏城公園を……」

 

「ごめんごめん。すぐに戻すから、許して欲しいからね」

 

 早島浮島は自身の足元にも四角の記号を作り出し、浮いて天守閣の頂上へと戻った。

 海は消え、再び大地が呼び戻される。

 赤鬼は、濡れた体で早島浮島のいる場所を睨みつける。

 

 早島浮島は岡山水葉の方を向き、両手を合わせて謝った。

 

「ごめんだからね。やっぱり、私じゃ止められなかったからね。後、任せていい?」

人口は、令和五年一月一日時点の住民基本台帳人口に基づきます。

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