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現代解釈桃太郎 ~大都会鬼討伐戦記~  作者: はの


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第52話 倉敷市

 倉敷市くらしきし

 岡山県の南部に位置する市である。

 人口は四十七万と七七九九人。

 江戸時代に幕府直轄領となったことで発展し、その人口規模は中国地方で第三位。

 瀬戸内工業地域の中核都市としても機能しており、製造品出荷額は全国の市町村で第二位。

 世界が認める、岡山県の第二都市である。

 

「交代だ、矢掛!」

 

 倉敷市市長、倉敷くらしき我愛があは天守閣から飛び降りて、殴り飛ばされた矢掛鶯をキャッチする。

 そして、野球のボールでも投げるように、矢掛鶯を天守閣に向けて放り投げた。

 毎年数試合のプロ野球が開催される倉敷マスカットスタジアムを有する都市ならではの、鮮やかな投球フォームだ。

 

「倉さん!?」

 

「誰が倉さんだ!」

 

 天守閣に飛んできた矢掛鶯を岡山水葉が受け取り、倉敷我愛は地上へと着地した。

 

「俺は矢掛程甘くねえぞ?」

 

「珍妙な格好だな」

 

 赤鬼は、倉敷我愛の服装を凝視する。

 上から下まで真っ黒な学生服を。

 

「この機能美が分からんのか?」

 

「わからないな」

 

 倉敷我愛と赤鬼は同時に駆け出し、烏城公園の中央にて拳がぶつかり合った。

 互いの拳から血が噴き出し、倉敷我愛の赤い短髪と赤鬼の赤い体に、赤を付着させる。

 

「ははは! 力はまあまあってところじゃないか!」

 

 赤鬼はもう一方の拳を振り上げ、鋭利な爪をむき出しにする。

 そして、ぶつかり合っていた拳を開き、倉敷我愛の拳をわしづかみにする。

 

「逃がさねえぞ?」

 

 逃亡を封じられた倉敷我愛に、赤鬼の爪が振り下ろされる。

 

 鋭利な爪が、倉敷我愛の体を切り裂いた――。

 

 

 

「効かねえな」

 

 

 

 ――はずだった。

 

 倉敷我愛は無傷。

 学生服にも傷一つつかず、前面のボタンを留めた紐にもほつれ一つない。

 

「確かに斬ったはずだが……?」

 

「学生服は、頑丈なんだよ」

 

 学生服大国、岡山。

 日本の学校を見渡せば皆が着ている、学生服。

 その大半は、岡山県倉敷市にて製造される。

 学生服は、思春期という高い行動力を持つ少年少女が、三年・六年着続けることができるように設計しなければならない、高度な衣類だ。

 耐久性や汚れにくさは当然、最も求められるのは安価なメンテナンス性だ。

 雨で濡れても、泥が跳ねても、着続けることのできるメンテナンス性。

 

 足袋の生産が盛んだった倉敷市は、その技術を活かして水に濡れても良い家庭洗濯可能な学生服を開発し、学生服のシェアをあっという間に制圧した。

 今や全国一万九千校の内、一万五千校が岡山県のメーカー品。

 

 岡山県には、最も機能美に優れ、最も美しい服が存在するのだ。

 当然、赤鬼の爪ごとき相手になるはずもない。

 

 赤鬼の爪をはじき返した倉敷我愛は、ポケットから色のついたテープを複数取り出し、赤鬼に向ってテープを伸ばす。

 テープは赤鬼の周囲をくるくると回り、赤鬼の体をぐるぐる巻きにする。

 

「……とれねえ!」

 

 赤鬼はテープを引きちぎろうと全身に力を込めるら、テープは千切れず、元の形を維持し続ける。

 

「当然だ。俺の作ったマスキングテープだぞ?」

 

 マスキングテープ発祥の地、岡山。

 マスキングテープの歴史は、一九三八年に日本粘着テープ工業株式会社が塗装用火薬包装用として、和紙製の養生テープを作ったところから始まる。

 しばしの間、和紙製の養生テープは工業用としてのみ使われていたが、世論を変えたのが倉敷市のカモ井加工紙株式会社だ。

 カモ井加工紙株式会社は、和紙製の粘着テープをおしゃれに装飾し、名前もマスキングテープと変え、『mt』というブランド名で売り出した。

 結果は、誰もが知るところ。

 大当たり。

 マスキングテープは工業用品から雑貨へと活動の場を広げ、多くの人々をマステ沼へと引き込んだ。

 それはもはや、流行を越えた社会現象。

 

 倉敷市のマスキングテープは、社会現象を巻き起こす最強の逸品である。

 

 社会さえ巻き込む力が、赤鬼を縛り付けているのだ。

 

「ぬ……ぐうう!!」

 

 が、赤鬼に通じる攻撃は一度だけ。

 どんな攻撃も、一度受ければ攻略法を見つけてしまう。

 

「がああああ!!」

 

 マスキングテープが、音を立てて引きちぎられる。

 そして、鋭い爪が再び、倉敷我愛を襲う。

 

「がっ……!?」

 

 学生服へも、一度目の攻撃を終えている。

 なら、二度目はない。

 切り裂かれた学生服の隙間から、倉敷我愛の血が噴き出す。

 

 倉敷我愛は即座にマスキングテープを体に巻き付け、応急処置で出血を止める。

 

「ははは! どうしたどうした!」

 

 三度目の爪。

 

「白壁!」

 

 倉敷我愛の足元から、壁がせり上がる。

 

 白壁の町。

 江戸時代に幕府直轄領となった倉敷市は、美しい街並みの実現を義務付けられた。

 幕府の期待に応え、倉敷川の畔から鶴形山南側の街道一帯に、屋敷や蔵をずらりと並べた。

 屋敷や蔵の壁は、白壁なまこ壁。

 日本の伝統的な壁塗り様式のひとつであり、壁に平瓦を貼り付けて並べ、その継ぎ目に漆喰を蒲鉾型に塗る方法。

 その様子は、白い宝石のごとし。

 白壁なまこ壁によって、倉敷市は見る物を魅了させるほど美しい白壁の町を作り上げた。

 

 現代において、その町はこう呼ばれる。

 美観地区と。

 

 さらに、白壁なまこ壁は災害にも強い。

 潮風や台風に対して強く、土壁や板壁よりも耐火性に優れる。

 当然、戦いにおける防御性能も非常に高い。

 

 頑丈な白壁が、赤鬼の爪を跳ね返す。

 

「はははははは!!」

 

 四度目の爪。

 無情にも、白壁は砕かれる。

 

「冗談だろ!? 白壁までも!」

 

 倉敷我愛は再びマスキングテープを放つが、一度終えた攻撃方法。

 赤鬼によってあっさりと切り裂かれ、そのまま五度目の爪を受ける。

 

「うぐ……!?」

 

 切り裂かれた腹を押さえながら、倉敷我愛はうずくまった。

 

 赤鬼が、足音を立ててゆっくりと近づく。

 そして、天守閣の上をちらりと見る。

 

「ははは。どうした? 仲間を呼んでいいんだぞ?」

 

 赤鬼にとっては、ただの煽り。

 が、その煽り方は、倉敷我愛にとって致命的だった。

 

「……だと?」

 

「何?」

 

「岡山の野郎を呼べだと!? 俺が!! 岡山市の力を借りねえと何も出来ねえ雑魚だってのか!?」

 

「はあ?」

 

 倉敷我愛の突然の激昂に、赤鬼は理解できず立ち尽くす。

 目を見開き、呼吸を荒くしながら、倉敷我愛は立ち上がった。

 

「ふざけるなよ!! 俺は!! 岡山の野郎より上だ!!」

人口は、令和五年一月一日時点の住民基本台帳人口に基づきます。

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