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現代解釈桃太郎 ~大都会鬼討伐戦記~  作者: はの


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第48話 玉野市

「……まだだ!」

 

 ピースサインをする備前紅葉に、瀬戸内瀬戸は叫ぶ。

 肉体と魂を視認できる瀬戸内瀬戸の瞳には、海中に潜む鬼の魂がはっきりと見えていた。

 

「へ?」

 

 備前紅葉が青鬼の落ちた方向に振り向いたのと、青鬼の元の体が走り出したのは同時だった。

 青鬼の体は、一直線に海を目指し、ためらいもなく飛び込んだ。

 

 海中に潜った青鬼の体は、海中を漂う自身の魂を見つけると、口を開いて飲み込んだ。

 目に生気を戻した青鬼は、そのまま大きく口を広げて海水を飲み込んでいく。

 一帯に、渦潮が広がる。

 

 青鬼の能力は、炎となることではない。

 あくまでも、憎しみを形に変えること。

 青鬼は、憎しみの感情を発散することから、心の奥底に貯め込むことに切り替えた。

 深海のように、深い深い奥底に。

 

「おおおおおおおおお!!」

 

 青鬼は飲み込んだ水を一気に吐き出す。

 海面がせり上がり、水柱が天へ伸びる。

 そして水柱は、炎の時と同じように、鬼の形へと姿を変えた。

 

 海が、青鬼のテリトリーへと変わった。

 

 青鬼は周囲の水を増幅させ、海面を上昇させていく。

 砂浜だった場所を飲み込んで、建物を飲み込んで、辺り一帯を海へと変えた。

 

「ぐっ!?」

 

「わっ!?」


 海が、瀬戸内瀬戸と備前紅葉の体を沈める。

 水の鎖が、二人の体を縛り付ける。

 

「メジロ!」

 

 呼びかけに答え、メジロが瀬戸内瀬戸の体を引っ張り上げる。

 そして、メジロの上に立った瀬戸内瀬戸は、一枚のカードをポケットから取り出し、天高く掲げてみせる。

 

「フィールド魔法『水没ペンション村』!」

 

 海が揺れ、海中から三角形の建物が浮上する。

 備前紅葉の体は建物の屋根によって海上へと引きずり出される。

 

「げほっ、ごほっ! これは?」

 

「……廃墟だ。よもや、こんな形で役に立つとはな」

 

 三角形の建物は次から次へと顔を出し、一帯に飛び地の様な足場を作り上げた。

 海が青鬼のテリトリーになったのであれば、陸地を増やしてしまえばいい。

 

「糞たわけどもが!!」

 

 海と繋がった青鬼は、忌々しそうに建物の群を見た。

 

 水没ペンション村。

 またの名を、鹿忍グリーンファーム跡。

 

 時代とともに役目を終えた塩田は、次々と姿を変えた。

 その一つが、リゾート施設だ。

 日本のエーゲ海と呼ばれるほど美しい瀬戸内市牛窓において、塩田がリゾート施設『鹿忍グリーンファーム』に変わったのは必然と言ってもいいだろう。

 三角形のペンションが数十建てられ、テニスコートやゴルフ場が作られ、一大リゾート地となった。

 それもまた、今は昔。

 バブルの崩壊とともに、あらゆるリゾート地は姿を消した。

 鹿忍グリーンファームもまた。

 

 さらに塩田の跡地は、満潮時に海面より低くなるという性質上、常に水を外へ流し続ける必要がある。

 廃業したリゾート地において、外へ水を流し続けるコストが維持されるはずもなく。

 鹿忍グリーンファーム跡地には水が溜まり、ペンションが沈んでいった。

 結果、水没ペンション村は、水に沈んだペンション群が見られる稀有な場所となってしまった。

 悪臭と共に。

 

「ちっ。あまり宣伝したいものはないんだがな」

 

 瀬戸内瀬戸が、備前紅葉の立つ屋根へと降りてくる。

 

「瀬戸内殿! 備前殿! 無事か?」

 

「青鬼が、青鬼が立った!」

 

 和気麻琉古と赤磐李も、同じ屋根へと降りてくる。

 四人の市町長が勢ぞろいし、海に立つ青鬼を見る。

 

 青鬼は水の体に海水を取り込み続け、その体を大きく膨らませていく。

 

「海側に押し込んだのが、完全に裏目に出たな」

 

 瀬戸内瀬戸が不快そうに呟く。

 炎の体にとって、海は天敵だ。

 しかし、水の体にとって、海ほど都合の良い場所もない。

 周囲に無尽蔵の武器があるも同然なのだから。

 

「あたしゃの能力は、水に沈む物ばっかりだからね。誰か……」

 

 備前紅葉が、和気麻琉古と赤磐李の方を向く。

 

「麻呂は、空のスペシャリスト故」

 

「私も、水相手は自信ないなぁ」

 

 二人は、備前紅葉から目を逸らす。

 備前紅葉の予想通りの反応。

 

 だからこそ、空中で仕留める予定だったのだ。

 空と地上はテリトリーだが、海は違うのだから。

 

 ペンションなど優にまたぐほど大きくなった体で、青鬼は一歩を踏み出す。

 

「たわけ共が!! このまま踏み潰してやる!!」

 

 近づいてくる青鬼を見ながら、四人の市町長はある一人を思い浮かべていた。

 岡山県における海のスペシャリストを。

 

 

 

「あ!」

 

 青鬼を見ていた備前紅葉の視界に、一隻の船が映る。

 

 岡山県における、海の覇者。

 

 玉野市たまのし

 岡山県の南部に位置する市である。

 人口は五万と五七二一人。

 岡山県における港湾都市に位置付けられ、四国との玄関口として栄えてきた。

 

 軍艦に見紛う巨大で重厚な船の先端に立った玉野市市長、玉野たまのねねは、双眼鏡で青鬼を見ていた。

 

「ふーん。なんだか聞いてた情報と違うわね? 鬼って、もっとこう、鬼って感じかと思っていた」

 

 玉野ねねの言葉を聞き、玉野ねねが手に持つウサギのぬいぐるみが、玉野ねねの腹話術で話す。

 

『ねねちゃん! 鬼って、色んな能力を持ってるんだよ! きっと、水に変身する能力なんだよ!』

 

「なるほどねー。さすがウサちゃん、頭がいいね!」

 

『それほどでもあるよ!』

 

 船上は、風が強い。

 玉野ねねは、風で乱れた黒いおかっぱ頭を手櫛で直し、船内へとひっこんだ。

 そして、船に備え付けられたレーダーで青鬼に照準を合わせて、船の大砲を青鬼に向けた。

 

「さ、まずは一発、撃ち込もうか!」

 

『GO! GO!』

 

 玉野ねねがボタンを押すと、砲弾が一発発射された。

人口は、令和五年一月一日時点の住民基本台帳人口に基づきます。

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