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現代解釈桃太郎 ~大都会鬼討伐戦記~  作者: はの


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第47話 備前市

 上空を舞うドローンが落ちていく。

 ブランコが落ちていく。

 

 海が近いというのに、青鬼は炎の体の勢いを殺すことはない。

 むしろ、水が持つ酸素さえも燃焼の材料にしているのではと思うほどに、強く熱く燃え盛っていた。

 

「全部!! 燃やし尽くしてやる!!」

 

 青鬼の炎が、ほとんどすべてのドローンとブランコを落としきる。

 残るは、和気麻琉古が立つドローンと、赤磐李の乗るブランコのみ。

 飛んでくる炎を躱しながら、二人は耐火煉瓦の家を見る。

 

「どうしよう麻琉古? 私たち、何が手伝えるかな?」

 

「ううむ。武器を失った麻呂らにできることは、鬼の気を逸らすことくらい……」

 

「麻琉古のいくじなし!」

 

「なんと!? 現実を見よ! 麻呂らには、炎の体になった鬼と戦う術は」

 

「死ね!! 人間ども!!」

 

 青鬼が放ったのは、巨大な炎の球。

 和気麻琉古と赤磐李は会話をやめ、回避に徹する。

 現在二人が乗っているドローンとブランコは生命線。

 地上に落ちれば、それこそ青鬼への勝機はない。

 

「ああ! もう!」

 

「麻呂麻呂麻呂麻呂麻呂麻呂麻呂麻呂」

 

 青鬼が、再び炎の球を作り始める。

 回避されないほど大きな球で、今度こそ焼き尽くすために。

 

 瞬間、耐火煉瓦の家が爆発した。

 家を構成する煉瓦が四方八方に飛び、その一部が青鬼の体を貫く。

 

「ぬ!? ぐお!?」

 

 炎の体は、貫かれたところで痛くもかゆくもない。

 空いた穴はすぐさま炎でふさがり、青鬼は爆発した家の跡地を見る。

 耐火煉瓦の家が爆発した以上、その中にいた人間は当然、むき出しになる。

 

 青鬼は、瀬戸内瀬戸と備前紅葉の姿を探す。

 

 

 

 ズキン。

 

 

 

 ズキン。

 

 

 

 が、違和感を感じた。

 探すだけで良かったはずが、痛みの示すまま青鬼は体を押さえた。

 形を持たぬ炎の体は全てを受け流すはずだったが、耐火煉瓦との接触で痛みを感じていた。

 青鬼は、不思議そうに痛みのする場所を見た。

 

「さあ、あたしゃたちのターンだよ!」

 

 同時に、備前紅葉が現れた。

 備前焼で作られた狛犬に乗って。

 

 備前焼。

 日本遺産(六古窯)の一つであり、縄文時代から続く技術の結晶である。

 備前焼の起源は古墳時代にまで遡る。

 古墳時代に須恵器の生産を営んでいた陶工たちの系譜が、平安時代から鎌倉時代初期にかけ、より実用的で耐久性を持つ日用雑器の生産を始めたことから備前焼は誕生した。

 備前焼の魅力は、飾り気のない素朴さ。

 日用品に特化したが故に選択した釉薬を用いない渋い焼き上がりが、日本のみならず世界を巻き込んで熱狂的なファンを生み出した。

 

 そして、備前焼で作った狛犬こそが備前焼狛犬。

 炎を一切受け付けぬ、生きる狛犬である。

 

「あおーん!」

 

 備前焼狛犬は砂浜を駆け抜け、青鬼を踏みつける。

 炎の体ゆえに踏みつけられることがなかったはずの青鬼は、備前焼狛犬の一撃でダメージと共に体をへこませた。

 

「!? なんだ!! 痛みを感じるはずは!?」

 

「計算したの。全部ね」

 

 炎に触れられないと断じたのは誰か。

 正確には、無数の素粒子でできた人間は、同じく無数の素粒子でできた炎と接触する確率が極めて低いという結論を出しただけだ。

 

 逆を言えば、素粒子の動き計算して計算通りに動けば、接触することは可能である。

 限りなく低い確率で。

 

 備前紅葉は、その限りなく低い確率を計算で埋める。

 備前紅葉には、その地頭がある。

 

 閑谷学校しずたにがっこう

 岡山県備前市に存在する、日本一歴史が長い庶民学校である。

 寛文十年。

 岡山藩主池田光政は、日本初となる庶民のための学校として、閑谷学校を設立した。

 従来は選ばれし者だけが享受できていた教育の門戸を広げることで、選ばれし者の特権を庶民にも与えた。

 その結果、岡山には多数の優秀な人材が生まれた。

 現代日本の基礎を形作る、有能なリーダーたちが生まれたのだ。

 学問の基礎は今でも岡山県に根付いており、岡山県民は優秀な地頭を脳に潜めている。

 基礎を固め、今でも日本の土台に君臨している。

 即ち、教育大国岡山。

 

 その基礎学力が作り出したのが、備前紅葉のシュミレーティング。

 どのタイミング、どの角度で攻撃すれば炎と接触できるかを割り出す、圧倒的な基礎学力である。

 

「わおーん!」

 

 備前焼狛犬が手を振れば、その手は青鬼の体にぶつかる。

 青鬼に傷を負わせる。

 

「この!! ガラクタが!!」

 

「おおーん!」

 

 右から左から、備前焼狛犬の殴打が続く。

 

 進化とは、退化と同義である。

 肉体から解放されて炎の体となった青鬼は、肉体を持っていた時と同じように体を動かすことができなくなっていた。

 何故なら、物理的な攻撃を受ける想定をしていない進化だったから。

 

 備前焼狛犬の攻撃を捌くことができない青鬼は、一方的に殴られ続けた。

 

「だが!! この程度で!!」

 

 一方、炎の体は肉体以上に傷を治すのが速い体。

 備前紅葉は、このまま攻撃を続けたところで、青鬼を倒すに至らないことを理解していた。

 傷はすぐに再生される。

 そこで思い出したのは、今自分が立っている場所だ。

 

 海。

 

 火を消すならば、水の中。

 

「海に突き落として!」

 

 備前紅葉の言葉に、備前焼狛犬は殴打をやめて青鬼に噛みついた。

 そして、青鬼を咥えたまま、海に向かって駆け出した。

 

「貴様!!」

 

 行動の意味を理解した青鬼が、備前焼狛犬から逃れようと何度も叩く。

 が、備前焼狛犬もまた、炎に対する高い耐性を持っている。

 何度叩かれても口を開くことはなく、瀬戸内海へと飛び込んだ。

 

「おぉ……」

 

 海に使った瞬間、煙が噴き出し、炎の体は消えていった。

 叫ぶ青鬼の口は、すぐに海へとつかり、消えた。

 

 青鬼が頭の先までつかった時、備前焼狛犬の口から青鬼の全てが消えた。

 

「ま、こんなもんでしょ」

 

 備前紅葉は、立ち上る煙を見た後で、瀬戸内瀬戸に向かってピースサインをしてみせた。

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