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現代解釈桃太郎 ~大都会鬼討伐戦記~  作者: はの


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第46話 備前市

「瀬戸内殿!」

 

「瀬戸!」

 

 和気麻琉古と赤磐李が、空を駆ける。

 ようやく瀬戸内瀬戸に追いついたと安心したのも束の間。

 青鬼の前に倒れる瀬戸内瀬戸を見て、危機感を募らせる。

 

「まずいぞ! 麻呂のドローンも、ずいぶんと失ってしもうた」

 

「麻琉古、まずいしか言ってないじゃない! でも、私もブランコの数がもう!」

 

 青鬼の全身が燃え盛り、形を鬼から龍へと変える。

 炎の龍は口を大きく開けて、瀬戸内瀬戸を食らいにかかる。

 

 

 

「よく頑張ったね、瀬戸内君。あとは、あたしゃがやるよ」

 

 炎を遮ったのは、煉瓦の壁。

 雨のように降ってきた煉瓦たちが、炎の龍を止めた。

 炎の龍は、いつも通り煉瓦を焼き焦がそうとするも、びくともしないことで一度ひいた。

 龍の形が鬼に戻り、青鬼は声の主を睨みつける。

 

「効かないよ。そいつは、あたしゃ特製の耐火煉瓦だからね」

 

「誰だ貴様!!」

 

「あたしゃかい? あたしゃは備前市びぜんし市長、備前びぜん紅葉もみじ

 

 備前市びぜんし

 岡山県の南東部に位置する市である。

 人口は三万と二〇六八人。

 その名の通り、日本六古窯にも数えられる備前焼の産地である。

 

 そして、備前市において盛んな産業の一つが、耐火煉瓦。

 遡ること寛成九年。

 三石町八木山の浄慶という僧が、蝋石ろうせきという蝋のような光沢と感触のある鉱石を発見したのが始まり。

 明治五年には蝋石の特性に目を付けて石筆が作られ始め、以降も蝋石を活かした製品が製造され続けた。

 そのうちの一つが、耐火煉瓦である。

 

 備前市の蝋石は高品質であることが証明されており、ヨーロッパの博覧会で出品されたほどだ。

 当然、優秀な蝋石を使用して作られた耐火煉瓦も、また優秀。

 備前市は高品質な耐火煉瓦を作り続け、大正九年、備前市の煉瓦の生産量が全国の七十六パーセントを越えた。

 他の都道府県よりも、海外よりも、高品質。

 即ち、耐火煉瓦大国、岡山。

 

「おおお!!!」

 

 青鬼の炎が何度もぶつけられる。

 耐火煉瓦は何度も跳ね返す。

 耐火煉瓦の裏で、備前紅葉は自慢の赤髪を整える余裕さえあった。

 跳ねた三つの寝癖を見つけて顔をしかめ、手櫛でとかそうにもびくともせず、溜息をついて諦めた。

 

「……余計な真似を」

 

 そんな備前紅葉を睨みつけながら、瀬戸内瀬戸は悪態を零す。

 

「瀬戸内君、こんな時でも変わんないねえ。……さてと」

 

 備前紅葉は瀬戸内瀬戸のプライドの高さを知っているので、そんな行動を笑って流した。

 そして、青鬼がいるだろう方向、耐火煉瓦の壁を見る。

 

 備前紅葉は、耐火煉瓦が壊される心配はしていない。

 それほどに、自身の煉瓦に自身があるのだ。

 だから、備前紅葉の気にする点は一つ。

 青鬼が、どうやって耐火煉瓦を避けて来るか。

 

 備前紅葉の足元が僅かに震える。

 

「来たね」

 

 違和感をいち早く察した備前紅葉は、瀬戸内瀬戸の体を掴んで、その場を急いで離れた。

 

「おい!?」

 

「しっ! 来たよ!」

 

 先程まで備前紅葉が立っていた場所が盛り上がり、火柱が上がる。

 そして、火柱の中から青鬼が顔をのぞかせた。

 

「ちくしょお!! 逃げてんじゃねえよ!!」

 

「そりゃ逃げるわよ」

 

「糞たわけが!!」

 

 青鬼が空から、炎の槍を降らせる。

 砂浜に無数の穴をあけ、備前紅葉たちを襲う。

 

「ほいっと」

 

 備前紅葉はすかさず耐火煉瓦の家を作り、中へ避難する。

 窓がないため、外の様子はわからない。

 ただ、何度も炎が叩きつけられる音だけが、家の中に響いた。

 

 今回は、耐火煉瓦で床も作ったため、地面から生えてくる炎の柱も恐くない。

 備前紅葉は瀬戸内瀬戸を床に寝かせ、耐火煉瓦に隙間を開けて、外の様子をうかがう。

 

「あーあー。派手にやっちゃってくれてるねえ」

 

 隙間を狙って炎が飛んできたところで、備前紅葉は隙間を塞ぎ、家の中に作った煉瓦製の椅子に腰かける。

 

「これからどうする気だ?」

 

 痛みをこらえながら立ち上がった瀬戸内瀬戸が、備前紅葉へと尋ねた。

 

「とりあえず、持久戦かな?」

 

「持久戦だと?」

 

「そ。あたしゃの耐火煉瓦は炎を通すことはないけど、あくまで防御特化。攻撃能力はないのさ」

 

「ふうん。耐火煉瓦を投げつけてみてはどうだ? 所詮炎の体なら、穴をあけることは可能だろう」

 

「穴くらい開くだろうけど、そもそも形のない炎が変形したところで……いや待って。それ、いいアイデアかもね」

 

 瀬戸内瀬戸の言葉を聞いて何かを閃いた備前紅葉は、耐火煉瓦で机を作り、煉瓦を削って文字を書き始めた。

 膨大な数学式。

 学力試験で全国一位をとったことのある瀬戸内瀬戸には、その数学式の意味が容易に理解できた。

 

 結果が出るまでに、膨大な時間を要するだろうことも。

 計算結果が出たとて、現実的とはほど遠い買いが導き出されるだろうことも。

 

「正気か? 貴様」

 

「正気も正気さ。あたしゃはね、神でも天才でもないんだよ。だから、現実的でなくともコツコツと積み重ねて結果を出すことしかできないのさ。可能性がゼロでないのなら、あたしゃは挑戦するよ」

 

「……そうか」

 

 瀬戸内瀬戸は天才だ。

 孤児院で育ち、その才能で大企業の社長の養子となり、最後には社長の座を奪い取った。

 だからこそ、積み重ねる人間を好み、評価する。

 

 備前紅葉は、高い集中力によって噴き出す汗をぬぐいながら、口を開いた。

 

「それに」

 

「ん?」

 

「こんなの、あたしゃにとっては市長選挙に勝つよりよっぽどイージーよ」

 

「ふうん。違いない」

 

 青鬼を倒す方程式が、連立されていく。

人口は、令和五年一月一日時点の住民基本台帳人口に基づきます。

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