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現代解釈桃太郎 ~大都会鬼討伐戦記~  作者: はの


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第45話 瀬戸内市

「いってえ……!!」

 

 青鬼は、ぶつけた背中をさすりながら周囲を見渡す。

 

 海。

 海。

 海。

 見渡す限りの海。

 あまりにも美しすぎる、海。

 

 牛窓うしまど海水浴場。

 風光明媚ふうこうめいびで人気の海水浴場である。

 瀬戸内海の穏やかな浜が作り出す絶景は、人々の心を魅了して離さない。

 

「チィー!!」

 

 青鬼を追うように、メジロの背から瀬戸内瀬戸が飛び降りる。

 砂浜に着地し、山鳥毛を抜いて青鬼と対峙する。

 

「ふうん。ここは海。お前のお得意の炎は、使い物にならんというわけだ」

 

「たわけが! たかが水ごとき!!」

 

 青鬼は発火する。

 全身を青い炎に包まれ、青鬼は瀬戸内瀬戸に向って駆け出した。

 

「はあん」

 

 瀬戸内瀬戸もまた駆け出し、青い炎に向って山鳥毛を振る。

 

「糞……!!」

 

 青い炎ごと、青鬼の腰が切断される。

 切断面からは炎が伸び、切断面を再び引っ付ける。

 

「ちっ。肉体イデアを斬っても、効かんというのか」

 

「たわけが!! 脆弱な人間の体と!! 一緒にしてんじゃねえ!!」

 

「ならば、プシュケーごと斬るだけだ!!」

 

 瀬戸内瀬戸が山鳥毛を再び構えると、山鳥毛の存在が朧になった。

 まるで幽霊のように、この世とあの世の境にあるように、ぼんやりと境界線を失った。

 

究極之一振アルティメット・バースト!!」

 

 一閃。

 境界線を失った山鳥毛は、青鬼の肉体を通過した。

 

「……? 何だ!? 斬れてねえ!!」

 

 そう、通過しただけ。

 青鬼の肉体に、傷は一つもない。

 

「はぁん。そう。肉体には、な」

 

「……!? なんだ!? 体が……動かねえ!!」

 

「そう。俺が斬ったのは、お前の魂だ!!」

 

 プラトンのオリーブ樹。

 紀元前の哲学者プラトンが、オリーブの樹の下で遊説をしたという話は有名である。

 そのオリーブの樹はギリシャの国宝にも指定され、鉄のフェンスによって守られている。

 そんなオリーブの実の一つが、岡山県の手に渡っている。

 岡山県瀬戸内市でオリーブの樹はすくすくと成長し、プラトンの意思を瀬戸内市に根付かせてきたのだ。

 

 オリーブの樹を見ながら成長した瀬戸内瀬戸は、瀬戸内市民の中でも突出してプラトンの能力をトレースしている。

 即ち、肉体と魂。

 イデアとプシュケー。

 世界の本質を捉えた瀬戸内瀬戸は、魂さえも触れられる境地に達しているのだ。

 

 下半身に力の入らなくなった青鬼が、その場にへたり込む。

 脳から下される命令は、腰の当たりで壁にぶつかり、脚を動かすことを許してくれない。

 

「糞が!! 糞たわけが!!」

 

「ふうん。せいぜい吠えているがいい。所詮、負け犬の遠吠えだ」

 

 瀬戸内瀬戸は山鳥毛を持ち、青鬼へ向かってゆっくり歩いていく。

 その姿は、さながら死神。

 一つの命を奪う、死神の行進である。

 

「ぬ……うううううう!!」

 

 青鬼が脚に力を入れるも、脚はピクリとも動かない。

 手を使って這いずることはできるものの、まるで敗者の悪あがきにも見える姿が、青鬼から選択を奪った。

 

「糞! 糞!! 糞が!!!」

 

 怒り叫ぶ青鬼の口が、大きく開いた。

 口の中からは巨大な青い火柱が立ち上り、巨大な熱が周囲を包む。

 

 憎悪が膨らむ。

 炎が膨らむ。

 青鬼の【瞋恚しんに】の能力は、この上なく破壊的に作用していた。

 

 さて、ところで。

 憎悪とはどこから生まれるのだろうか。

 肉体からか。

 脳からか。

 それとも魂からか。

 

「糞があああああああああ!!!」

 

 青鬼の放っていた火柱から、四つの隆起が飛び出す。

 二つは腕。

 二つは脚。

 火柱の頂上の炎が丸く集まり、その形状を青鬼の顔へと変えていく。

 

「何っ!?」

 

「人間がああぁあ!!」

 

 青鬼の魂が、青い炎へと移った。

 握られた炎の拳が、瀬戸内瀬戸の全身に打ち込まれる。

 

「ぐぅああっ!?」

 

 瀬戸内瀬戸の全身が、焼け焦げる。

 全身を襲う苦痛を振り払うように、瀬戸内瀬戸は山鳥毛を強く握り、力の限り振り抜いた。

 

「黒島ヴィーナスロード!」

 

 青い炎が、左右に分かれる。

 

「何!?」

 

 斬られた、とは違う。

 まるで、炎自身が道を開けるように、空間を作った。

 

 黒島ヴィーナスロード。

 瀬戸内市牛窓沖に浮かぶ黒島へと誘う、干潮時にしか現れない道である。

 離島に歩いていくという体験は神秘的で、多くの人々を魅了する観光地。

 また、その美しい姿と黒島ヴィーナスロードに落ちているハートの石から、恋人の聖地としても有名である。

 

 瀬戸内瀬戸の放った一撃は、その名に恥じぬように炎の拳を二つに分けた。

 炎の壁に、大気の道を作り上げた。

 

「それがどうした?」

 

 もっとも、腕は二本。

 一本が駄目なら、もう一本がある。

 

 青鬼の二本目の拳が、瀬戸内瀬戸を打ち抜いた。

 

 愛も神秘も、暴力の前では無力。

 

「くっ……!」

 

 全身の燃えるような痛みを前に、瀬戸内瀬戸はその場に倒れた。

 

 青鬼の炎が燃え盛り、青鬼の傷を塞いでいく。

 炎の形は自由自在。

 完全に戻った体で、青鬼は瀬戸内瀬戸に止めを刺すべく、歩を進める。

 

「終わりだ! たわけめ!!」

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