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現代解釈桃太郎 ~大都会鬼討伐戦記~  作者: はの


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第44話 瀬戸内市

 瀬戸内市せとうちし

 岡山県の南東部に位置する市である。

 人口は三万と六五二五人。

 海に面して豊かな自然を抱える一方で、歴史愛好家たちから強い関心を持たれる側面もある。

 

 空を、一羽のメジロが羽ばたく。

 全長十二センチメートルの小さな体を思いっきり羽ばたかせ、目的の場所へと向かう。

 地上から見れば、微笑ましい光景だろう。

 しかし、たった一つの違和感によって、微笑ましさは完全に粉砕されている。

 

「行け! メジロ! 全速前進だ!!」

 

 メジロの上に立つ男。

 瀬戸内市市長、瀬戸内せとうち瀬戸せとの存在によって。

 

 瀬戸内瀬戸は、小さなメジロをまるでバイクのように乗り回し、落ちていく炎を目指す。

 

「チィー。チッチッチッチ」

 

 炎を見つけたメジロは、さらに飛行速度を加速させる。

 瀬戸内市の市の鳥として、瀬戸内瀬戸のために動くことが何よりの誉れなのだ。

 

 

 

「なんだ? 何かが近づいて?」

 

 燃え盛る青鬼の目に飛び込んでくるのは、オレンジ色のリーゼント。

 風をきる過程で左右に揺れてはいるが、岡山県の青空ではよく目立っている。

 

「ふうん。貴様が、鬼か」

 

 瀬戸内瀬戸は、腰に下げていた日本刀を手に取り、豪快に構えた。

 敵。

 そう認識した青鬼は、迎撃の準備を始める。

 

「刀なんざ燃やし尽くしてやる!!」

 

 向かってくる瀬戸内瀬戸を見て、青鬼は全身の炎を制御した。

 両手を瀬戸内瀬戸に向け、燃え盛る炎を両手へ移動させる。

 

 青鬼の攻撃は単純だ。

 刀の攻撃範囲に入る前に、瀬戸内瀬戸を燃やし尽くすこと。

 

「燃えやがれ!!」

 

 青鬼の両の掌から、大砲のように青い炎が放たれる。

 

「いけ! メジロ! 滅びのセトウチストリーム!!」

 

「チィー!!」

 

 向かってくる炎を指差し、瀬戸内瀬戸はメジロへ命じた。

 メジロが口を大きく開くと、口内に白い光の球が現れた。

 雷光を纏う白い光の球はメジロの口内でどんどん大きくなり、轟音とともに発射された。

 

 青と白。

 二つの光がぶつかった。

 

「なんだあれは!?」

 

「おおおおおお!!」

 

 そして、白は青をねじ伏せた。

 青い炎は周囲に散り、白い光は真っすぐ向かって、青鬼を撃ち抜いた。

 

「ぐおおおおお!?」

 

「ははははは! 破壊! 玉砕! 大喝采!!」

 

 まっすぐ進む光線に押され、青鬼の体が落下をやめ、南へと押し出される。

 その光線を追うように、瀬戸内瀬戸とメジロは前進し、青鬼に近づいていく。

 

「ふうん。所詮、鬼は鬼だな」

 

「貴様!!」

 

 瀬戸内瀬戸は、手に持った日本刀を強く握る。

 国宝『太刀たち 無銘一文字むめいいちもんじ』を。

 

 日本刀の聖地、岡山。

 日本を代表する武器と言えば、日本刀である。

 そして岡山県瀬戸内市は、平安時代から江戸時代にかけて刀の生産量が日本一だった土地。

 素材である良質な砂鉄と、流通のための陸路と水路に恵まれ、多くの刀匠が瀬戸内市に滞在し、名刀を生み出していったのだ。

 その数、実に国宝や文化財に現在指定されている日本刀の約四割。

 源頼朝、足利尊氏、織田信長、上杉謙信、坂本龍馬。

 あらゆる歴史上の偉人が、備前おかやまの刀を手に取ったのだ。

 

 そして、上杉謙信の愛刀として知られる刀こそが、『太刀 無銘一文字』。

 またの名を、山鳥毛さんちょうもう

 豪壮な太刀姿と、山鳥の羽毛のように見える華やかな刃文が特徴的な、美しい刀である。

 

 瀬戸内瀬戸は山鳥毛を構えて跳んだ。

 

 振りかぶった山鳥毛は、刃に羽毛を浮かび上がらせ、まるで空を飛んでいるように瀬戸内瀬戸を青鬼の元へと導いた。

 

「たわけが!!」

 

 青鬼の苦し紛れに伸ばした手は、無音で斬られる。

 上下へ。

 左右へ。

 十字に動く太刀筋は、容易に青鬼の体をバラバラにした。

 

 否、バラバラになったのは青鬼だけではない。

 青鬼に纏わりついていた炎さえも、斬られ、分断され、分かれて落ちていった。

 血の一滴さえ残さない、鮮やかな切り口。

 

 刀を腰に戻した瀬戸内瀬戸の足元にはメジロが飛んできて、その体を受け止める。

 

「糞たわけがああああ!!」

 

 青鬼は、目を見開いて怒り狂い、切断面から青い炎を伸ばす。

 青い炎は何を燃やすでもなく、斬られて離れた青鬼自身の身体へと伸びていった。

 そして、接着剤のように引っ付き、離れた体を引き戻した。

 

 瀬戸内瀬戸にとって不幸だったのは、切断面が綺麗すぎたこと。

 綺麗な切断面は、身体自体が切られたことに気づかせず、故に容易にひっつけることができてしまった。

 

 バラバラに分かれた青鬼の体は、一瞬で元に戻った。

 

「効かねえんだよ!!」

 

「はあん。所詮は凡骨。見通せるのはその程度か」

 

「何だと!?」

 

 が、瀬戸内瀬戸にとって、青鬼の振る舞いは予想の範囲内。

 青鬼が周囲を見渡すと、先程まで自分を覆っていた炎は、遠くで燃え盛っていた。

 

 瀬戸内瀬戸が斬りたかったものは、炎。

 町全てを焼き尽くしかねない、炎だけだったのだ。

 

「……いいさ! 炎は!! また作れる!!」

 

「作れるだろうな。だが、もう遅い」

 

 瀬戸内瀬戸は、青鬼の下を見る。

 近づいてくる、岡山県の大地。

 否、海岸。

 

「ぐぶあっ!?」

 

 白い光に押され続けた青鬼は、とっくに町の外へと追い出されていた。

 

 青鬼の背中が、地面に衝突する。

人口は、令和五年一月一日時点の住民基本台帳人口に基づきます。

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