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現代解釈桃太郎 ~大都会鬼討伐戦記~  作者: はの


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第43話 赤磐市

「麻呂も助太刀するでおじゃる!」

 

 和気神社。

 和気清麻呂の生誕地であり、現在でも和気清麻呂を祀っている神社である。

 そして拝殿前には狛犬の代わりに、世にも珍しい『狛亥イノシシ』が存在する。

 狛犬ではなく狛亥である理由は諸説あるが、猪が和気清麻呂と所縁の深かったことに起因している。

 和気町にとって、猪とは大切な守護者である。

 

 和気麻琉古の言葉に応じて、天から猪が走ってくる。

 和気町を守るため、一直線に青鬼の元へと向かい、その顔面を踏みつける。

 

「ぐぶ……!」

 

「行くよ皆! もう少しだよ!」

 

 ガンガンガンと。

 何度も何度も無抵抗のまま攻撃される青鬼の心には、怒りという感情が蓄積され続け、言いようもない大きさにまでストレスが肥大化していった。

 

(殺す!! 殺す殺す殺す!! ぶち殺す!!!)

 

 発動するのは、青鬼の司る欲望【瞋恚しんに】。

 即ち、憎悪。

 論理も感情も、合理も理不尽も、平等に焼き尽くす全焼の欲望。

 

「全員殺してやる!!!」

 

 青鬼の全身が発火する。

 青い炎に全身を包まれて、青鬼を拘束していた鯉のぼりを一瞬で燃やし尽くした。

 青い炎は加速度的に燃え広がり、鯉のぼりから花へ、そして空気を燃やし始める。

 

「皆! 逃げて!」

 

 赤磐李が叫び、動物たちは一目散に逃げ出した。

 自身を焼き尽くしうる青い炎を前に、本能が恐怖を呼び覚まし、恐怖が青鬼から離れさせた。

 炎とは、自然界を生きる動物たちの天敵だ。

 

 バチリバチリと、全てを焼く音が聞こえてくる。

 そんな轟音の炎の中で、青鬼は笑っていた。

 青鬼自身の肌も焼け焦げ、次々と傷を増していきながらも、なお笑っていた。

 

 青鬼の立っていた花は燃え尽きて、青鬼は落下を始める。

 

「ま、まずいぞ! 燃えたままの青鬼が町に落ちたら……」

 

「最悪よ! 全部、全部燃えちゃう!」

 

 和気麻琉古がドローンを掻き集め、青鬼の元へと向かわせる。

 赤磐李がブランコを操り、青鬼の体を町の外へと飛ばそうとする。

 が、青鬼に触れたドローンは機関部が燃焼し、飛行能力を失って落ちていく。

 ブランコが当たれば青鬼は確かに吹き飛ぶが、青鬼から燃え移った青い炎によって、ブランコの紐が切れて落ちていく。

 攻撃をすればするだけ、和気麻琉古と赤磐李の武器は減っていく。

 

「と、止められぬ……!」

 

「許せない! 針千本飲ませちゃうから!!」

 

 赤磐李は頬を膨らませて怒り、懐から剣を取り出した。

 そして、自身の指先を剣で切った。

 血の吹き出す人差し指を掲げ、赤磐李は天に叫ぶ。

 

「出でよ! 血洗ちあらいたき!」

 

 燃え盛る空気の中、一点がゆがむ。

 歪みは広がり、空間に穴をあける。

 穴からは、次々水が押し出されてきて、あっという間に大きな滝が現れた。

 

 血洗の滝。

 吉井川の支流滝山川の深部にある、高さ十一メートルの滝である。

 かつて、素戔鳴尊すさのおのみこと八岐大蛇やまたのおろちを退治した後、血に染まった剣を洗い流した場所と言われている。

 

 空中に現れた血洗の滝は、赤磐李の指から流れる血を見つけると、生き物のように飛んでいった。

 そして、赤磐李の指を包み、その血を洗い流す。

 

「炎には水って、相場は決まってるの! これでもくらえっ!」

 

 血は、滝を操る媒介だ。

 赤磐李は滝に包まれた指を腕ごと振り、滝を青鬼に向って投げつけた。

 

「む……おぉ!!」

 

 血洗の滝は青鬼の体に触れると、その体を水流によって押し流していく。

 青鬼の体――青色の炎に触れた瞬間、血洗の滝の水は蒸発していくが、それでも滝の勢い全てを止めることはできなかった。

 血洗の滝は蒸発しながら、青鬼を遠くへ遠くへ運んでいく。

 

「うおおおお!! この……!!」

 

 青鬼は暴れ、抵抗する。

 

「おお、見事な滝よ。して、青鬼をどこへ運ぶのじゃ? 動かすことはできたが、炎までは消えておらん。地上に落ちればどのみち」

 

「海! ちょっと集中してるから黙ってて!」

 

 赤磐李は滝と同時にブランコも操作し、ブランコに飛び乗って青鬼を追いかける。

 

「糞餓鬼が!! タダで済むと思うなよ!!」

 

「当然、タダで終わらせないわよ! まだ、針千本飲ませてないんだから!」

 

 青鬼が押し流される方角は、岡山県の南東。

 岡山県は、西を広島県、北を鳥取県、東を兵庫県に囲まれている。

 そして南は、瀬戸内海。

 本州、四国、九州に囲まれる、日本で最も大きな内海である。

 

 海とは、水の力が最大化される聖地である。

 

 青鬼は、南に押し流される理由がわからない。

 が、人間の思うとおりに物事が進むことには、腹を立てていた。

 

「針が千本望みなら、お望み通りくれてやるよ!!」

 

 滝がぶつけられてなお、青鬼の炎は止まらない。

 両手を赤磐李に向け、指先から小さな炎を発火する。

 小さな炎は針のように鋭利に尖り、赤磐李に向って連射される。

 

 その数、実に千本。

 

「……っ!」

 

 赤磐李は、咄嗟に別のブランコに飛び乗った。

 先程まで赤磐李が乗っていたブランコは、無数の炎の針によって無残にも穴だらけになる。

 が、それを成したのはたった数十の針。

 

 残る九百本以上の針が、赤磐李に向って連射し続けられる。

 

「ちょっと! 危っ!」

 

 赤磐李が次々ブランコを呼び寄せ、次々乗り換えていく。

 意識がブランコに集中する。

 

「たわけが!!」

 

 つまり、血洗の滝への意識が薄まる。

 

「あ、待っ」

 

 青鬼が、力づくで滝を押し返す。

 滝は重力に従って自由落下を始め、滝の勢いから解放された青鬼もまた自由落下を始める。

 燃えた体のまま。

 

「まずい! まだ、町の上!」

 

 炎が、ただ落ちていく。

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