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現代解釈桃太郎 ~大都会鬼討伐戦記~  作者: はの


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第32話 吉備中央町

「なんだこれは?」

 

 黄鬼は、自身を囲んだ壁をノックする。

 コンコンと軽快な音が返って来たので、次は思いっきり殴りつけた。

 

「……硬いな!」

 

 黄鬼の声は、ドームの中で反響し、耳にキンキンと不快感を与える。

 

「悪いが、破れねえよ。こいつぁ、アースバッグ工法で作られたドームハウスさ」

 

 吉備中央風太は、ドームハウスの外から壁をノックし、中にいる黄鬼へと伝える。

 

 アースバッグ工法。

 古代中東建築をヒントに考案された建築法である。

 どこにでもある土を建材に、『混合土を袋に入れて叩き、積み上げる』というローテクニックで建築を実現する。

 土を使用するが故に、耐震耐火だけでなく耐久性にも優れるうえ、構造のデザイン性は自由自在。

 直線で組む木造や鉄筋と異なり、曲線も自由自在に表現ができる。

 

 さながら、大人の粘度遊びとも言えるだろう。

 

 そして、吉備中央町には、アースバッグ工法を使用したドームハウスが並ぶ場所『はれまに』が存在する。

 古代の技術を使用した新しい建築法をいち早く採用し、新たな時代へのサステナブルを実現させる空間の最先端。

 即ち、SDGs大国、岡山。

 

 吉備中央風太の技『はれまに』は、アースバッグ工法の応用。

 大地に自身の気を練り込み、より硬く、より自在に操作する。

 

 吉備中央風太がドームハウスの壁を軽く押すと、内部の壁が黄鬼目掛けて伸びる。

 

「ぐおっ!?」

 

 窓のないドームハウスの中は真っ暗だ。

 壁の変化を視認できない黄鬼は、腹部に不意打ちを食らってひっくり返った。

 

「ほら、ペシャンコだ」

 

 吉備中央風太が壁を上から下に撫でると、ドームハウスの天井が下に落ちる。

 ズシンと音がし、床と天井が黄鬼の体を挟み込んだ。

 

「く、ははは!」

 

「んん?」

 

「あははははははは!!」

 

 一見、圧死される死に際に見える状況において、黄鬼は笑った。

 

「なんで笑ってんだ?」

 

「わからねえか! こういう甘さが、人間の弱いところなんだよ! 壁の形状を自在に操れるなら、なんで天井に棘をはやして、俺を串刺しにでもしなかった?」

 

 人間は、平和な世界を生き過ぎた。

 平和の代償が、殺害への抵抗感だ。

 戦国時代に殺人を受け入れていた魂など今は昔、動物一匹虫一匹にも自愛の心を向けるほどに優しくなってしまった。

 それが例え、鬼に対しても。

 

「その甘さが! 心の弱さが! お前の敗因だ!」

 

 瞬間、吉備中央風太の視界が黒く染まる。

 黒い闇の中に映し出されるのは、自身の過去。

 

「な、なんだこりゃあ!?」

 

 全ての人間には心の弱さ、見たくない自分が存在する。

 黄鬼が司るのは、【掉挙じょうこ】と【悪作おさ】。

 甘えや執着といった、心の弱さを映し出す。

 

 吉備中央風太の心に、後悔した過去が流れ込んでくる。

 

「う、うおああああああ!?」

 

 後悔した過去が、吉備中央風太の心に隙を作る。

 ドームハウスの壁にひびが入り、耐久性を僅かに失う。

 

「はははっ!」

 

 黄鬼は、その隙を見逃さない。

 ひびの入った場所に拳を打ち込み、壁を砕いて脱出した。

 

「しまっ!?」

 

「お前じゃ俺は殺せねえ! お前には、俺を殺そうとする本能がねえからな!」

 

 脱出した黄鬼は、すぐさま攻勢に転じる。

 依然混乱状態にある吉備中央風太に接近し、蹴り飛ばす。

 

「ぐ……!」

 

 メキメキと音を立て、肋骨が砕け折れる。

 幸い内臓を損傷しなかったため、命に別状はないが、動きすぎればその限りではない。

 

「はれ……まに……」

 

 吉備中央風太は、指先から粘度の様な壁を作り出し、自身の腹を突き刺した。

 はれまには、形状自在の壁。

 体内に侵入した壁は、折れた肋骨の周りに集まり、骨を動かし固定する。

 折れた物をセロハンテープで接着するように、折れた肋骨にぐるぐる巻いて骨を修復する。

 

「器用だな!」

 

 黄鬼が笑う。

 頭痛が鳴りやまない頭を押さえながら、吉備中央風太は黄鬼を見る。

 

 黄鬼の言葉は、真実である。

 吉備中央風太は、鬼と言えど、殺すことを躊躇っていた。

 結果、はれまにによって作った壁で、黄鬼の身動きを封じることに終始していた。

 それがバレた以上、自身が不利なことは明白だ。

 

 自分を殺す気のない相手など、黄鬼にとっては極めて安全な狩りでしかない。

 

「どうせ負けはねえんだ! なら、もっと見せてくれよ! その甘さを!」

 

 絶対的有利を確信した黄鬼は、自らの欲望に従って遊びに走った。

 

 黄鬼が手を前に伸ばすと、掌周辺の空間が歪んでいく。

 歪んだ空間は人並みの大きさまで広がり、歪みは鏡へと姿を変えた。

 

 鏡が吉備中央風太の姿を映す。

 そして、鏡の中に立つ吉備中央風太の姿が黒く染まり、影色となる。

 影色の吉備中央風太は鏡面をすり抜け、現実世界にのっそりと現れた。

 

 それは、黄鬼が作り出した甘さの化身。

 対象者の心の弱さを凝縮して作り上げた。負の生物。

 

「さあ、あがいて見せろ!」

 

 影の吉備中央風太は、本物の吉備中央風太に向って駆け出した。

 

 吉備中央風太がはれまにによって壁を生成すると、影の吉備中央風太も影色の壁を生成する。

 

「そいつはお前自身! お前と同じ身体能力を持ち、お前と同じ技を使える! 唯一、本物と違うのは!」

 

 吉備中央風太が壁を丸太のように変え、影の吉備中央風太に突き出した。

 対し、影の吉備中央風太は足元から影色の壁を伸ばし、丸太の壁を上に回避した。

 

「お前の弱さ、つまり無意識にお前が嫌う戦い方を熟知しているということだ!」

 

 人間は、勝ち方に拘る。

 嫌う勝ち方を避け、好む勝ち方を使う。

 影の吉備中央風太は、本物がどういった方法で攻撃をしてくるか、高い精度で予測できるのだ。

 

「くそっ!」

 

 影の吉備中央風太は、空中で新たな壁を生成し、五月雨に吉備中央風太へと投げ落とす。

 槍のように鋭利な壁が、吉備中央風太の体を切り刻む。

 

「があっ!?」

 

「そのまま死んでいけ! 心の弱さを抱えたままな!」

 

 

 

 人間には、甘えがある。

 人間には、弱さがある。

 

 それを克服できる方法があるとすれば――。

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