第29話 美咲町
「ナギ・モカ」
奈義里の二刀流が、太陽の色と月の色に輝く。
力強く足を置く場所は、大地。
三つの自然が、奈義里に力を与える。
剣から伸びる長い影が緑鬼に触れた瞬間、その体に切り込みを入れた。
「うおおおお! 俺は、まだやれる! 侵略を遊びにしている鬼に、この俺の体を通して出る力が! 負けるはずがない!」
津山太優は巨大モビルスーツを起こし、機体への影響を考えない急加速で、緑鬼に接近する。
そして、力の限り殴りつけた。
巨大モビルスーツの拳はメキメキと妙な音を上げたが、その代償として緑鬼の顔は大きくへこんだ。
「……………………」
緑鬼は、叫ばない。
体は自動的に再生を始め、しかし再生しきっていない足で大地を蹴り、再生しきっていない腕で二人を無理やり捕まえた。
「ぐ……」
「貴様! 離せ!」
それも、掌で掴む、なんて当たり前の方法ではない。
掌の小ささを補う様に、中指から肘にかけて真っ二つに分かれた腕で、無理やり二人を挟み込んだ。
「……………………」
緑鬼はそのまま二人を、大地へと叩きつける。
大地がへこみ、血が飛び散る。
何度も。
何度も。
二人の体が打ち付けられる。
「がぁ……!?」
「ちく……しょお……!」
命を守って戦う人間。
命を守らず戦う鬼。
実力差は、完全に逆転していた。
結論。
ただの人間には、鬼を倒すことなどできないということだ。
「ぎゃははははははははは」
「けきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ」
そう、人間には。
百の人形が雨のように、緑鬼の頭上に落ちて来た。
「ぎゃははははははははは」
「けきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ」
猫。
桃太郎。
ダルマ。
あらゆる形の土人形が、意思を持って緑鬼を踏み潰す。
「……………………!?」
力の緩んだ緑鬼の腕から、奈義里と津山太優が抜けだす。
緑鬼は、即座に二人を捕まえようと腕を伸ばすが、それさえも土人形に阻まれた。
体の大きさは、戦闘において絶対的優位な要素だ。
では、体の大きさを覆す優位は何か。
答えは、数である。
「……………………!?」
向かってくる土人形を、緑鬼はひたすら手ではじき飛ばす。
が、はじいでもはじいても、次の土人形が向かってくる。
全てはじくことなど到底できず、地道に地道に、緑鬼に傷が刻まれていく。
「これは、まさか」
奈義里が状況を把握して周囲を見渡すと、ある一か所に、土人形が集まっている場所があった。
父人形たちは、誰かを待っている様子で、直立不動に立っていた。
奈義里は知っている。
その存在を。
津山太優は知っている。
その存在を。
誰もを待たせることができる人間の存在を。
音楽が鳴り響いた。
天地鳴動。
世界に存在する音が全て合唱でもしているようだ。
そして、音楽に合わせて土人形たちは口を開き、歌い始めた。
「民共、崇める準備はいいか?」
「今こそ祈れ!」
土人形たちが円形に並び直すと、その中央に一人の男が降って来た。
彼は、真っ黒なスーツとサングラスを着用していた。
彼は、白のニット帽を被っていた。
彼は、静かに首を左に傾けた。
「I’m a Perfect Human」
美咲町町長、美咲敦彦が、降臨した。
「美咲!」
奈義里の声に、美咲敦彦は反応しない。
何故なら、美咲敦彦は知っているから。
世界は平等ではなく、発した声が必ずしも届くわけではないことを。
新手に対し、緑鬼は機械的に処理を開始する。
依然向かってくる土人形の攻撃を甘んじて体に受けながら、美咲敦彦へと殴りかかる。
対し、美咲敦彦は、手を上から下へと振った。
「大地パッカーン」
美咲敦彦の目の前に広がる大地が割れ、その延長線上にいる緑鬼の体も二つに割れた。
「気取ってるモーゼとかいうやつも、パッカーン」
緑鬼の切断面からは緑色の触手が伸び、すぐさま二つに分かれた体を引っ付けようと動く。
が、その隙をついて、土人形たちが緑鬼の体内へと入り込み、体内から暴れ回る。
「……‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「まさに天災」
すべては、美咲敦彦の計算通り。
百々人形。
岡山県久米郡美咲町の百々(どうどう)地区で生まれた土人形である。
歴史の始まりは昭和八年頃。
昔ながらの製法で作られる素朴な形が人気である。
美咲町町長にして、完璧な人間である美咲敦彦が扱えば、ただの土人形も強力な兵士へと変わる。
土から作られる、百を超える兵士へと。
美咲敦彦が合図をすれば、全ての百々人形が緑鬼へと襲い掛かる。
何百と頭にぶつかり、緑鬼は勢いに押されて頭を地に伏した。
「ペコペコすんなよ。おい鬼」
繰り返す。
ただの人間には、鬼を倒すことなどできないということだ。
では、ただの人間ではなく、完璧な人間ではどうか。
美咲町。
岡山県の中央部に位置する町である。
人口は一三二二二人。
町内を旭川と吉井川の二つの一級河川が流れており、完璧なアレを有する町である。
人口は、令和五年一月一日時点の住民基本台帳人口に基づきます。




