表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代解釈桃太郎 ~大都会鬼討伐戦記~  作者: はの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/62

第28話 奈義町

「……もう、眠くねえ」

 

 緑鬼は、眠りに落ちた直後に目を覚ました。

 

 睡眠の役割は、未だ解明されていない。

 なぜ、体は睡眠を欲するのか。

 睡眠は、体にどんな影響を与えるのか。

 詳細はわからない。

 ただ、わかっていることもある。

 睡眠時間には、上限があるということだ。

 

 慢性的な寝不足である日本人には馴染がないだろうが、睡眠をし続けると、寝られなくなるタイミングが来るのだ。

 それは、体が睡眠という栄養を取り終えた証。

 睡眠が満腹の状態。

 こうなってしまえば、もう人間は眠ることができなくなる。

 また睡眠を欲するまで、起きて活動をするしかなくなるのだ。

 

 緑鬼もまた、睡眠の上限が来た。

 現在の、成長上限だ。

 

 

 

 言い換えれば、緑鬼のコンディションが絶好調にまで高まったということ。

 

 

 

 斬られた緑鬼の体が、再生をしていく。

 緑鬼の目は開いたまま、じっと奈義里を見下ろす。

 もはや緑鬼の再生に、睡眠は必要ない。

 

「ぬうあっ!」

 

 迫りくる巨大な拳を前に、奈義里は二本の刀を交差して作った壁で迎え撃つ。

 拳が刀に触れた瞬間、強烈な衝撃が奈義里を襲う。

 全身が後退し、しかし地に足を付いたまま奈義里は受けきった。

 

「……馬鹿な」

 

 届かない。

 緑鬼の力では、奈義里の体を潰すことが叶わない。

 

「そんなわけがあるか!」

 

 がむしゃらにもう一発放つも、動かない。

 完璧な状態の緑鬼の攻撃は、奈義里を動かせない。

 

「……認めよう。お前は強い」

 

 だから緑鬼は、戦い方を変えた。

 自身の眠気がなくなった時にのみ使える奥の手。

 

「俺の司る煩悩は、【惛沈こんじん】と【睡眠すいみん】。お前の身も心も、夢の世界に沈めて落とす」

 

 睡魔が、一帯を襲った。

 その攻撃範囲は、巨大モビルスーツの内部にも及ぶ。

 

「な、なんだこれは!?……瞼が……閉じ」

 

 能力に飲まれた津山太優は、一瞬でその意識を手放した。

 コックピットの操縦桿から手が離れ、巨大モビルスーツはその場に倒れた。

 大きな衝撃は津山太優の目覚まし時計にもならなかったようで、巨大モビルスーツはそのまま沈黙した。

 

「ここはどこだ?」

 

 津山太優の目の前には、夢の世界が広がっていた。

 無限としか呼べない広大な白い床に、天井代わりの宇宙空間。

 ぎらぎらと光る星々は、緑鬼が宇宙船から見てきた光景の再現。

 光は、徐々に大きくなっていく。

 否、星が流れ星となって、津山太優の方へと落ちていく。

 

「うおっ!?」

 

 躱しても躱しても、星は落ちてくる。

 そして、星は一向に空から無くならない。

 夢の世界には、常識も物理法則もありはしない。

 緑鬼の引きずり込んだ夢の世界において、津山太優ができることは本当の体が死ぬまで、一方的に痛めつけられるのみなのだ。

 

 

 

「……何故だ?」

 

 

 

 沈黙しなかったのは、奈義里。

 二本の刀を構えた姿勢を崩さず、視線を緑鬼から外さない。

 

「ナギ・モカ」

 

 奈義町現代美術館。

 通称『ナギ・モカ』。

 奈義町に存在する、作品と建物とが半永久的に一体化した美術館である。

 展示場は太陽、月、大地の三つから成り、奈義町の自然条件に基づいた固有の軸線を持っている。

 即ち奈義町は、自然の全てを理解し、美術館という形で解釈に成功した地。

 自身の軸によって、自然を操ることに成功した地。

 

 睡眠とは、サイクルによって動く。

 睡眠サイクルは昼夜、即ち月と太陽によって決定する。

 故に奈義里は、月と太陽の動きを解釈し直した。

 眠気を誘う緑鬼の能力に対して、月と太陽の出ている時間の比率を理解し、太陽の方が大幅に長いと解釈し、自身に眠気が起きる時間の長さを誤認させた。

 睡眠という能力の持続時間を、大幅に短縮させた。

 

「俺に、睡眠は聞かない」

 

 ナギ・モカの能力は津山太優にも及び、津山太優は再び目を覚ます。

 

「んが?」

 

 コックピットに倒れ込んでいる自分の現状に首を傾げた後、倒れ込むに至った過程を思い出し、操縦桿を握る。

 巨大モビルスーツを立ち上がらせ、奈義里と共に緑鬼を囲むように、緑鬼の背後へ立ちふさがる。

 

「俺は、驚いている」

 

 緑鬼は、はっきりと、静かに言った。

 

「人間が、ここまで強いとは思わなかった。温羅様が封じられたのを聞いたとき、温羅様が遊び過ぎだと嗤ったが、褒めるべきはお前たちの力だったのかもしれん」

 

 緑鬼の言葉に含まれていたのは、敬意であった。

 戦いを面倒くさがっていた緑鬼も今では、そんな感情を捨て去りたいほどに戦いを楽しんでいた。

 強者と強者の接触は、双方に興奮を引き起こす。

 

「名を、聞いておこう」

 

「岡山県奈義町町長。奈義里!」

 

「そうか、奈義里。俺は緑鬼。【惛沈】と【睡眠】を司る鬼、緑鬼だ!」

 

 緑鬼は、そう言い放ち、自身の指先を自身の額へ突き刺した。

 

「何の真似だ?」

 

「能力の発動さ。俺は、二つの能力を持つ鬼。今、お前が破ってみせたのは、【睡眠】。そして、これから見せるのが【惛沈】。俺が目覚めれば俺の勝ち、目覚めなければ……お前の勝ちだ!」

 

 緑鬼の額からは血が流れ、緑鬼の眼球が瞼の奥へと消えていく。

 

 惛沈とは、サンスクリット語のスティヤーナに由来する。

 仏教で解く煩悩の一つであり、心の沈黙を指す。

 

 緑鬼の心は沈黙し、生物としての感情を失った。

 

「指令了解。皆殺し」

 

 代わりに、ただの殺戮マシーンとして起動した。

 痛みも疲労も、そして自身の生存願望という煩悩も捨て去って、ただただ目的遂行に向って体を動かす。

 緑鬼は、勝利のために自我を捨てた。

 

 乱暴に振り回した腕は、二本の刀を持つ奈義里の全身を吹き飛ばした。

 緑鬼の、限界を超えた一撃。

 緑鬼の指の骨は折れ、腕の筋繊維は千切れたが、当然緑鬼に痛みはない。

 体が自動的に再生し、再び腕を動かす準備を始める。

 

 着地した奈義里は、津山太優の方を向く。

 

「こっちへ来てくれ! 二人で一気に抑え込むぞ!」

 

「了解だ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ