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現代解釈桃太郎 ~大都会鬼討伐戦記~  作者: はの


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第24話 勝央町

 相撲大国、岡山。

 

 全国各地の小学校を回っても、土俵を有する小学校の存在は稀少である。

 大阪市立長吉小学校。

 長浜市立古保利小学校。

 相模原市立内郷小学校。

 子供たちの健全な肉体と精神を育むための施策として相撲を採用した、歴史のある一部の小学校のみである。

 

 では何故、その一部の中で岡山県が頂点たる相撲大国なのか。

 

 理由はシンプル。

 岡山県勝央町が、最も古い相撲の歴史を受け継ぎ、全国で唯一四角い土俵を現存させているからだ。

 

 現代人が想像する土俵とは一重円であり、テレビで放送される大相撲で使われている土俵も一重の円である。

 しかし、相撲の歴史を遡れば、土俵の形は必ずしも一重の円ではない。

 江戸時代においては、二重の円を描く土俵もあれば四角形の土俵もある、自由さを持っていた。

 そして、相撲が競技として確立していく歴史の中で、一重の円以外の土俵は姿を消していった。

 歴史が、規律の前に潰されていった。

 

 江戸から相撲の自由な歴史を受け継ぎ続けた、岡山県勝央町を除いて。

 

 

 

 土俵の真ん中。

 勝央金太と緑鬼が胸を合わせて組み合った。

 勝央金太は緑鬼よりも、体格がはるかに小さい。

 勝央金太は赤い回しを付けているが、緑鬼は服を着ておらず掴む場所がない。

 単純に挙げる二つの事実だけでも、緑鬼の方が有利な条件であることは明白である。

 

「ああ、面倒くせえ! このまま蹴り殺す!」

 

 しいて緑鬼にとっての不利を挙げれば、緑鬼が相撲のルールを知らない事である。

 

 土俵から離れた緑鬼の足が、勝央金太の腹部目掛けて飛んでいく。

 が、足は見えない壁にぶつかって止まり、緑鬼は片足を上げた状態でその場に固まった。

 

「な、なんだ?」

 

「相撲じゃあ、胸や腹を蹴ることは……禁止ってことだよおおおおお!」

 

「ぬおおお!?」

 

 勝央金太は、残った緑鬼の一本脚を足ではらい、緑鬼の体勢を完全に崩す。

 そして、緑鬼の体が傾く方向に両手を押し出し、そのまま緑鬼を転倒させた。

 

「ぐおっ!?」

 

 倒れることは、相撲において敗北である。

 土俵を描く白い光が緑鬼を包み込むように集まった。

 

「ただ、こけさせただけで……な、なんだ? うおおおおおお!?」

 

 白い光が、緑鬼の肌を焼く。

 

「負けたんなら、ちゃんとペナルティは受けてもらうぜー?」

 

 勝央金太は、自身の周囲に四角い土俵を作り出すことができる。

 土俵の中では、行動が相撲のルールによって制限され、土俵を割ったり手や膝をつくと敗北扱いとなる。

 そして、敗北した側は、全身を焼かれるペナルティが発生する。

 大都会テクノロジーによって、空間と物理法則を支配する。

 

「く……そ……!」

 

「さあ、もういっちょやろうか。お前が、立てなくなるまで」

 

 勝央金太は片足を天に伸ばし、ずんと土俵を踏みつけ、しこを踏む。

 そして、再び前傾姿勢をとる。

 

「はっきよい!」

 

 緑鬼は、何度も転がった。

 緑鬼は、何度もペナルティを受けた。

 緑色の肌は黒く焦げ付き、銀色の天然パーマは部分的に真っ黒なパンチパーマとなっていた。

 

「……しぶてえな」

 

 だが、緑鬼が気を失う気配は一向に見せない。

 どころか、回を重ねるごとに、勝央金太が苦戦する場面が増えていった。

 

(なんだ? この違和感は?)

 

 相撲の勝負に勝ち続けているはずなのに、一向に勝利に近づかない現状を前に、勝央金太はむしろ警戒を強めた。

 

「ああ、面倒くせえけど、段々わかって来たぞ。ルール。はっきよい」

 

「ちいっ……!」

 

 勝央金太が押され始めた理由は二つだ。

 一つ。

 緑鬼が、戦いの中で相撲の動き方を学んでいったこと。

 もう一つは――。

 

「こいつ……でかくなってねえか!?」

 

「寝る鬼は育つって言うだろお?」

 

「それを言うなら、寝る子はだろうがあああああ!!」

 

 緑鬼は倒れるたびに、一瞬の睡眠をとっていた。

 睡眠が、緑鬼の脳を整理し、相撲という運動で発生した成長ホルモンを循環させていた。

 結果、倒れる度、眠る度、緑鬼の体は大きくなっていた。

 

 三メートル五十センチだった緑鬼の体は、既に四メートルへと到達した。

 状況に気づいた勝央金太は、思わず一歩下がる。

 

「冗談じゃねえ! こちとら、熊と相撲して育った金さんだぞ? ついさっき、相撲を見たばっかの鬼なんかに!」

 

「面倒だが……。隙、見つけた」

 

 相撲は、数少ない無差別級――即ち、体重別階級を採用していない競技である。

 それ故、大きく、重い者が、絶対的に有利。

 

 人間の倍の体を持ち、絶えず体を大きくし続けられる緑鬼にとって、相撲という競技での戦いは余りにも有利過ぎた。

 

「はっき……よい?」

 

 覚えたばかりの言葉を口にしながら、緑鬼の巨大な掌が勝央金太をぶつかる。

 まるでダンプにでもぶつかられた衝撃が、勝央金太の体を突き抜ける。

 

「ちく……しょお……この……でか物があああああ!!」

 

 必死に踏ん張っていた勝央金太の足元の地面にひびが入る。

 踏ん張りによってかかる負荷は、大地が大地たらしめる限界を一瞬で超えた。

 勝央金太の足元の地面がえぐり取られ、勝央金太の体が一瞬宙に浮く。

 踏ん張ることができなくなる。

 

「うおおおおおおおおおお!?」

 

 踏ん張れなければ、耐えられない。

 突き出された緑鬼の掌に押し出され、勝央金太は真っすぐ後ろへ飛ばされた。

 

 緑鬼は、伸ばしていた腕を元に戻し、眠そうな表情で頭を掻いた。

 

 勝央金太の体が、土俵を割る。

 否、土俵の外を越えて、遠くへ遠くへ飛んでいく。

 

 勝央金太が離れたことで、土俵を形成する力はなくなった。

 土俵を描く白い光が薄れ、ゆっくりと消えていった。

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