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現代解釈桃太郎 ~大都会鬼討伐戦記~  作者: はの


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第23話 勝央町

 勝央町しょうおうちょう

 岡山県の北東部に位置する町である。

 人口は一万と九一一人。

 縄文時代草創期から人が住んでいたことが判明している、人類にとって歴史深い土地である。

 

 そんな歴史を慮ることもなく、緑鬼はぐーすかと居眠りをしていた。

 東西に走る中国自動車道をベッド代わりに、いびきを立てて寝転がっていた。

 

 近づいてくる人影にも、気づく様子はない。

 

「ぐーすかぐーすか気持ちよさそうに寝ちゃって。成長期ですかー? この野郎ー」

 

 勝央町町長、勝央しょうおう金太きんたは自慢の金髪ストレートをぼりぼりと掻きながら、緑鬼に近づいていく。

 金色のショートヘアが風でさらりと流れるほど、今日という気候は温暖であり、絶好のお昼寝日和である。

 だからこそ、鬼退治という時間外労働を前に、勝央金太は不快感を隠さなかった。

 本来であれば勝央金太は今日、大好物のイチゴパフェを食べて、ぐっすりと居眠りの予定だったのだ。

 

「でけえな」

 

 緑鬼の身長は、およそ三メートル五十センチ。

 成人した日本人男性の、およそ倍。

 勝央金太は、無遠慮に緑鬼の体をペタペタと触る。

 肌と肌とが触れ合う感触。

 仄かに籠る熱。

 緑鬼が生物であることを、勝央金太に教えてくれた。

 

「かー! きんさんは辛いよー。何が楽しくて、弱い者いじめをしなきゃならんのかねー。……ん?」

 

 出来るだけ平和的にお帰り願おうと思考を巡らせながら緑鬼を見ていた時、勝央金太の視界に銀が映った。

 全身緑色の皮膚の中に置いて、唯一緑鬼の頭部にだけは、銀があった。

 

 銀髪天然パーマである。

 

「天然パーマには悪いやつしかいねえんだよおおおおおお!」

 

 勝央金太のスイッチが入る。

 怒りのままに腰の木刀を引っこ抜いて、ゴルフのスイングの様に下から緑鬼を殴りつけた。

 緑鬼の体が一メートル浮く。

 

「いでぇ!?」

 

 突然の痛みに、緑鬼は目を覚ます。

 道路に眠っていたはずの自分の身体が宙に投げ出されていることに気づき、視線を彷徨わせる。

 そして、金髪ストレートの勝央金太と目が合った。

 

「金髪ストレートぉ?」

 

「はーん! どうした天然パーマ! 文句があるならかかってこいやあああああ!」

 

 勝央金太は振り上げた木刀を握りしめ、宙に佇む緑鬼に向って振り下ろす。

 

「ぐべぇ!?」

 

 緑鬼は、木刀によって叩き落され、中国自動車道から落ちていく。

 木の枝をへし折りながら地面に叩きつけられ、痛んだ腰をさすりながら起き上がった。

 

「いっでぇ。どこだ、ここ?」

 

 緑鬼を迎えたのは、小さなお社。

 金太郎のモデルとなった、坂田金時の眠る場所である。

 

 栗柄くりがら神社。

 源頼光の四天王として活躍した坂田金時さかたのきんときは、九州へ向かう最中、重い熱病にかかった。

 そして、勝央町に滞在して治療を続けるも、治療のかい虚しく亡くなってしまったのだ。

 亡くなった坂田金時は、源頼光の手により手厚く葬られた。

 

 この、勝央町の地に。

 

「頑丈だなあ。金さん、結構全力でぶん殴ったつもりなんだぜ?」

 

 勝央金太は中国自動車から飛び降りて、再び緑鬼の前に立った。

 

「俺は、眠りてえんだ」

 

「奇遇だねえ。俺もだよ。綺麗なお姉ちゃんのいる店とか行って、膝枕されながら眠りたいぜ」

 

「お姉ちゃん? なんだそ……いや、何かを聞くのも面倒くせえ。眠りたいってのが同じなら、一緒に眠りゃあいいじゃねえか。戦いなんて、面倒くせえ」

 

「悪いが、野郎とベッドを共にするなんてお断りだね。俺ぁ、お前をぶった押してから、一人で寂しく眠るとするさ」

 

「……そうか。ああ、面倒だ」

 

 緑鬼は、でっぷりとした腹をぼりぼりと掻いた後、腕を大きく振りかぶって、そのまま勝央金太の頭蓋へと振り下ろした。

 

「なめんじゃねえよ、この野郎!」

 

 勝央金太は、木刀の切っ先を緑鬼の拳に向けて突き出した。

 

 木刀の切っ先は緑鬼の拳に突き刺さり、しかし貫くまでには至らない。

 

「ぬうん!」

 

 緑鬼の拳は刺さったままの木刀ごと、勝央金太の体を後方へと押し返す。

 

「……っ! ふざけやがって! たった一撃受けただけで、体中から気力も体力も全部そぎ落とされた気分だ……!」

 

 そのまま、緑鬼の拳が振り抜かれる。

 

「うおぉ!?」

 

 今度は勝央金太の体が宙を舞い、手から木刀が離れてしまう。

 緑鬼は、振り抜いた拳に刺さった木刀を抜き、両手で真っ二つにへし折ってみせた。

 

「てめぇ……!」

 

 起き上がった勝央金太の目には、無残な姿で捨てられた木刀が映る。

 高価な品ではないが、愛着はある木刀だ。

 すぐにでも飛び掛かってやりたい感情を押さえ、勝央金太は一呼吸おいて冷静さを維持する。

 

「ああ、わかってんだよ。鬼が、人間よりも強い生物だってのはな」

 

 緑鬼は、しばし動きを止めて勝央金太を見る。

 ここで勝央金太が実力差を知り、戦うことを諦めてくれれば、緑鬼にとって最善の結果だ。

 緑鬼にとって、戦うことは面倒なことだからだ。

 

 だが、勝央金太の瞳は死んでおらず、緑鬼は戦いを継続せざるを得ないことを理解した。

 

「面倒くせえ」

 

 緑鬼はあえて大きな音を立てて一歩目を踏み出し、勝央金太に向かって走り出した。

 

「だがな、強いと分かってようが、勝央町町長には、そして金髪ストレートには、戦わなきゃいけねえ時ってのがあんだよおおおおお!!」

 

 木刀を失った勝央金太にできることは一つ。

 純粋な肉弾戦である。

 

 勝央金太はシャツとズボンを脱ぎ捨てて、腰を落として前傾姿勢をとる。

 残されたのは、褌一丁。

 

「はっきよい!」

 

 勝央金太を中心として、正方形に光の線が大地を駆ける。

 

「のこったあああああ!!」

人口は、令和五年一月一日時点の住民基本台帳人口に基づきます。

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