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現代解釈桃太郎 ~大都会鬼討伐戦記~  作者: はの


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第22話 新見市

「うおおおおおおお!!」

 

 爆発でもげた黒鬼の手は、再生する。

 ヒメボタルによって穴だらけになった黒鬼の体は、再生する。

 傷口から肉が盛り上がり、形を変えて、元の姿へと戻っていく。

 

「お前ら全員! 存在しちゃあならねえんだよ!」

 

 傷を負った瞬間だけは黒鬼の再生が止まるが、焼け石に水。

 黒鬼の体は、着実に回復を遂げていた。

 

「ここまで強力な回復能力だと、偉大なる新見市長たちの攻撃は無意味と言ってよい。しかし、攻撃の手を緩めたところで、回復が早まるだけ。どうしたものか」

 

 不快感をあらわにする新見王民の顔を、鏡野水原がガラス製のクナイを投げながら覗き込む。

 

「ねえぇ~? ちょっと、時間稼ぎをお願いできるぅ~?」

 

「……貴様、今の偉大なる新見市長の言葉を聞いていたのか? 攻撃の手を緩めたら終わりだと言っただろう?」

 

「でもぉ~、緩めなくても終わるでしょぉ~? 要はぁ~、一撃で消し飛ばせばいいのよぉ~」

 

「できるのか?」

 

「もちろんよぉ~」

 

 自信満々の鏡野水原の表情を見て、新見王民は思考を巡らせる。

 鏡野水原が攻撃から離れるとなれば、離れた分の攻撃力を誰かが補わなければならない。

 三人で食い止めている回復を、新見王民と真庭空蔵の二人で補わなければならない。

 

「できないのならぁ~、無理にとは言わないわぁ~?」

 

「できるに決まっているだろうが! 不可能を可能にするのが、市長だ!」

 

 再び覗き込んで来た鏡野水原を見て、新見王民は決断した。

 額に青筋を立て、大声で叫んだ。

 

「さすがぁ~。じゃあぁ~、よろしくねぇ~」

 

 鏡野水原はクナイを投げる手を止め、二人の後ろへと引っ込んだ。

 

「特別に見せてやる! 偉大なる新見市長の、もう一つの技を!」

 

 鏡野水原が引っ込むと同時に、新見王民の左右に水車が現れる。

 右側に、巨大な水車が一つ。

 左側に、一回り小さな水車とさらに一回り小さな水車が一つずつ。

 水車はぐるぐると回り、水を掻く代わりに大気中のエネルギーを掻き、掻き集めたエネルギーを黒鬼へとぶつけていく。

 

「うぐ……おおおおおお!!」

 

「これがもう一つの技! 偉大なる親子孫水車だ!」

 

 黒鬼の体に押し寄せるエネルギーの濁流が、黒鬼の回復を鈍らせる。

 黒鬼は、忌々しそうに三つの水車を睨みつけた。

 

 親子孫水車。

 岡山県新見市神郷下神代の夢すき公園に存在する、三つの水車である。

 昭和の中期まで実際に使用されていた親子水車を、一九九一年に復旧。

 親の直径は、十三メートルと六十センチメートル。

 子の直径は、六メートル。

 孫の直径は、四メートルと五十センチメートル。

 日本において最大の大きさを誇る、日本一の親子孫水車である。

 

「さっさとするのだ! この技は、偉大なる新見市長をもってしても強大過ぎるのでな!」

 

「おっけぇ~」

 

 新見王民の唇から、血が一滴垂れる。

 日本一の親子孫水車は、日本一巨大なエネルギーを操る能力と言い換えられる。

 当然、日本一巨大なエネルギーを操るためには、代償もある。

 新見王民の体には、人体の限界を超える負荷がかかる。

 

「なんだそれ、すっげぇな! オラもやる!」

 

 他者の限界突破を見て、人間の行動は二択である。

 あいつは天才だと諦めるか、自分も突破したいと挑むか。

 

「うおおおおおおおおおおおお!」

 

 真庭空蔵が、限界を超えて体内にエネルギーを取り込み始める。

 逆立った髪形が、さらに細かく逆立って、その身の周囲に雷の様なエネルギーがぐるぐると纏わりつく。

 真庭空蔵の体内に入りきらないエネルギーが周囲に具現化され、真庭空蔵の体を傷つけながら手中に収まる。

 皮膚は、さらに隆起した筋肉によってパンパンに膨らみ、自身のエネルギーに斬りつけられて血を流す。

 

「見たか! これが超マニワ人・ツーだ!」

 

 傷の代償により、マニワシ波の威力が倍になる。

 

「マニワシ波!!」

 

 真庭空蔵から追加で放たれたエネルギーも黒鬼にぶつかり、黒鬼の再生を完全に止める。

 

「うぐ……! こんな……もの!!」

 

 黒鬼は、疑う。

 劣勢である自分を。

 そして信じる。

 優勢である自分を。

 

「俺が、人間ごときに負けるか! そんな嘘みてえなこと、なことがあるかあ!!」

 

 

 

「あるわよぉ~」

 

 

 

 心臓の奥からひねり出された黒鬼の叫びは、緩やかに笑う鏡野水原によって受け止められた。

 鏡野水原は、球体のガラスを胸元に抱え込んだまま、黒鬼の近くへと歩いて向かった。

 

「私たちはぁ~、人間はぁ~、意外と強欲なのよぉ~。どんなものでもぉ~、自分の物にしちゃうくらいねぇ~」

 

 黒鬼の目と鼻の先で、鏡野水原は脚を止める。

 二重のエネルギーを受け続け、損傷した体の回復に努めている黒鬼は、腕を振り回せば当たる位置にいるはずの鏡野水原に手を伸ばすこともできない。

 細い首を絞めることもできない。

 

「じゃあねぇ~」

 

 鏡野水原は抱えていた腕をほどき、両掌に乗った球体のガラスを差し出した。

 そして、ふうっと息を吹きかけると、球体のガラスは鏡野水原の手を離れ、ゆっくりと黒鬼の方向へと向かっていく。

 

 解き放たれた無色透明のガラスは、徐々に熱を帯びていき、莫大な輝きを放ち始める。

 

「ご、ごれは!?」

 

「ウランよぉ~」

 

 ウラン。

 原子爆弾で使用された物質である。

 核分裂反応によって一グラム当たり、八二一〇〇〇〇〇〇〇〇ジュールのエネルギーを生み出し、エネルギーが大量の熱を生成する。

 その威力は通常兵器と比較しても限りなく強大で、条約によって世界各国が使用を禁止するほどである。

 

 そして鏡野市には、世界で唯一のウランガラス専門美術館『妖精の森ガラス』がある。

 鏡野市の人形峠は、日本最初のウランの開発地。

 ウランの基礎研究から実践までを行い、海外に比べて遅れていたウランの製造技術を引き上げた地である。

 現在では役目を終え、人体に影響のないレベルまで放射線量を落とし、残土をレンガに、ウラン化合物をウランガラスとして販売している。

 

 鏡野市とは、日本で最もウランの扱いに長けた市である。

 

 球体のウランガラスの輝きは、洞窟の中を染め上げていく。

 核分裂の連鎖反応により放出されるエネルギーが爆風と熱放射を生み出し、黒鬼の体を破壊していく。

 疑うことで回復していく黒鬼のDNAごと、消し飛ばす。

 

「こん  」

 

 今際の恨み言さえ残させる隙もなく、ウランが全てを消し飛ばした。

 鬼と言えども、同じ宇宙に存在する生物。

 生物の根幹が立たれては、何をできるでもなかった。

 

 

 

 

 

 

「終わったな」

 

 新見王民が親子孫水車を引っ込め、その場に立ち尽くす。

 

「終わったなー」

 

 真庭空蔵は超マニワ人から人間へと戻り、その場に大の字で寝転がる。

 

「終わったわねぇ~」

 

 鏡野水原が元の年齢へと戻り、その場に座り込む。

 

「しっかし、三人がかりでこれたぁー。他のやつら、大丈夫かねぇ?」

 

 真庭空蔵が不安を吐露すると、新見王民が鼻で嗤ってみせた。

 

「心配なかろう。偉大なる新見市長におよばずとも、全員がこの岡山県の長に選ばれた者どもだ。きっと、なんとかするだろう」

 

「そうよぉ~。それに心配なら、私たちが助けに行けばいいじゃないぃ~」

 

「ふははは! それは良い! 良い貸しを作れそうだ!」

 

 鏡野水原の提案に、その場の三人で笑いあい、そのまま意識を飛ばした。

 黒鬼を退けた三人は、しばしの眠りについた。

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