表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代解釈桃太郎 ~大都会鬼討伐戦記~  作者: はの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/62

第21話 新見市

 新見市にいみし

 岡山県の北西部に位置する町である。

 人口は二七二四四人。

 北は鳥取県、西は広島県に接する岡山県の端にある市であり、面積の八十五パーセント以上を山地が占める都市である。

 市内の大部分がカルスト地形の上にあり、鍾乳洞も多い。

 

「痛ぇ……。この痛みは……嘘だ」

 

 爆破による風の痛みも、熱の痛みも、黒鬼は即座に疑った。

 この痛みは真実か。

 この痛みは偽りではないのか。

 そして黒鬼は、痛みを忘れた。

 

 黒鬼は崩れていた体勢をすぐさま直し、新見王民に向かって駆け出した。

 

「ほう、奇妙な動きをするものだ。まるで、痛みを忘れたように見えるぞ?」

 

 新見王民は手に持ったゴム容器の開いた口を、向かってくる黒鬼へと向ける。

 そして、再び握りしめた。

 ゴム容器に入った三つの球の一つが、容器から飛び出して黒鬼へと向かう。

 

「ごがあああ!!」

 

 黒鬼は、腕を左から右へ振り、球を右側へと振り払う。

 球は、黒鬼の腕に触れた瞬間に爆破したが、黒鬼は突撃を止めない。

 痛みを疑い、忘れ、突撃を続ける。

 

「一撃でダメなら、二撃ではどうだ?」

 

 新見王民は、残り二つの球が入った容器を、押し潰す。

 放たれた二つの球は曲線の軌跡をもって、黒鬼の腕を交わし、黒鬼の喉元で大爆発を起こした。

 

「ぐごぁ!?」

 

 膨大な爆風が、黒鬼の体をひっくり返す。

 もうもうと立ち上る煙の中で、新見王民の足音だけがカツンカツンと響く。

 

 その腕の中には、次の容器が握られていた。

 

「偉大なる新見市長の前では、鬼さえも跪く」

 

 王に必要なのは、民の安寧。

 敵に与える容赦はない。

 容器が握りつぶされ、四つの球が黒鬼を爆風と爆炎で包み込む。

 

 岡山県にしか存在しない、余りにも狂気的な凶器。

 

 その正体は、バクダンキャンディー。

 岡山県にて生産されている、ゴム容器アイスである。

 チューチュー棒やポッキンアイスの原型とも考えられており、特殊なゴム製容器の中に閉じ込められた氷菓子。

 岡山県新見市の満奇洞まきどう観光ドライブインが発祥であり、岡山県では祭りの露店や運動会の出店で販売されるほど、メジャーな菓子である。

 

 新見市出身の大都会民として幼少期を過ごした新見王民は、幼い頃からバクダンキャンディーを食べてすごした。

 そして、バクダンキャンディーと共に過ごす中で、その特徴を食料としてだけではなく、最高の武器として使用するまでに昇華させた。

 

「ああ……、痛……ぇ……」

 

「しつこい。土下座せよ」

 

 ぼろぼろになった体で立ち上がろうとする黒鬼は、新見王民の一言によってひれ伏させられる。

 

 土下座祭り。

 毎年十月十五日に開かれる祭である。

 新見藩初代藩主、せき長治ながはる候がお国入りした時から三百年以上も続いており、街を厳かに行列が歩く。

 最も特徴的なことは、行列を見る人々は沿道に分かれ、姿勢を低くして迎える習わしがあるところである。

 即ち、土下座して見る祭。

 

 三百年の歴史の重みを持って放たれる新見王民の言葉は、何人たりとも逆らうことを許さない。

 

 バクダンキャンディーで立った体をへし折る。

 土下座祭りで立った心をへし折る。

 新見王民のタクティクスは今日も正常に働き、今日も正常に敵を屈服させた。

 

「この痛みも、幻た……。全部全部……嘘だ……」

 

 ぶつぶつと、鬱々と、黒鬼の絶望の声が響く。

 

 

 

 下等と見下していた人間に、いいようにやられ、真の能力である【疑惑】を使って、それでもやられた。

 体と心をへし折られた生物の生存本能がとる行動は、一択である。

 

 

 

「こんなの、俺じゃねえ」

 

 現実逃避である。

 自身を取り巻く現在を疑い、目を背ける。

 人間であれば思い込みに過ぎないその行為が、鬼という生物特性においては体も変える。

 

 黒鬼の姿が、戻っていく。

 

「ふざけた真似を。土下座せよ!」

 

 新見王民の怒声をその身に浴びながら、黒鬼の体は自身の傷を疑った。

 怪我などしていないはずだという思い込みが、黒鬼の体を急激に再生させていく。

 真庭空蔵がマニワシ波によって破壊した皮膚さえも、容赦なく再生させていく。

 

 新見王民の頬を、初めて汗が一滴流れる。

 焦りであり、唯一の敗機を見てしまった。

 

 新見王民は傷こそ負っていないが、確かに疲労は蓄積している。

 他の二人もそうだ。

 現時点で、万が一にも黒鬼が完全回復することがあれば、勝負が洞窟の中で終わることはあり得ない。

 

「全員! やつに攻撃を叩き込むぞ!」

 

 新見王民が叫び、ありったけのバクダンキャンディーを黒鬼へ打ち込む。

 球が着弾し、爆破した瞬間、黒鬼の回復が止まったのを新見王民は確かに見た。

 

 真庭空蔵と鏡野水原も、また。

 

「きっちぃけど、今やらなきゃ駄目だよなぁ! うおおおおお!! 超マニワ人!!」

 

 真庭空蔵の周囲に、無数の蛍が集まる。

 

 ヒメボタル。

 日本固有種の蛍であり、名古屋や大阪など、幅広い地域に生息している。

 夜に発光する姿は幻想的であり、幻想的な光景を守るために、地域によってはヒメボタルを保護している場所もある。

 

 真庭市もまた、ヒメボタルの生息地として知られている。

 中でも、備中鐘乳穴の敷地内、つまりは洞窟の中を飛び回る姿は全国的にも珍しく、備中鐘乳穴のライトアップと相まって一層の幻想を作り出している。

 ヒメボタルを保護する観点から一般公開はされないが、特別な相手には鑑賞が許される。

 

 ヒメボタルの生態や環境保護を学んだ人々。

 そして、真庭市市長である真庭空蔵。

 

「さあ、行くぞオメェたち! 一緒に世界を守るんだ!」

 

 真庭空蔵の一言で、隠れていたヒメボタルたちが一斉に顔を出す。

 真庭の地のエネルギーを受け取ったヒメボタルたちは、まるで燃えているように一層輝きを強めた。

 

「追跡ヒメボタルー弾!!」

 

 無数のヒメボタルが、黒鬼の体を貫いた。

人口は、令和五年一月一日時点の住民基本台帳人口に基づきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ