仔犬の型染めと、過保護なGPS
室生 初音 : 地方の芸大生
室生本家のお役目候補
ハザマ様 =室生 透青
室生家の巫覡をしている。
中の人は月島秀青で芸大の助手をしていた
室生 御影 : お役目様の内孫三人衆の内一人
霊的能力を持つ 初音の婚約者
雨宮 青児 : ハザマ様の異母兄弟 絵の才能が凄い
「——君の卒業制作の下描き、見たよ」
後ろから届いた青児さんの声に、思わず足が止まる。振り返ると、彼はどこか面白がるような、けれど透き通った眼差しで私を見ていた。
「教授のOKを取りたいのは分かるけど、変に縮こまってる。この間、授業中に落書きしていた仔犬みたいな絵の方がずっといいと思うよ。あれをモチーフにした型染めなら、見る人の目を楽しませるんじゃないかな」
(いつの間に……私の下描きもみていたの?)
見透かされたような居心地悪さを感じつつも、胸の奥がチクリと痛む。安全策を取ろうとして守りに入っていたのは、自分でも薄々気づいていたことだったからだ。
悔しいけれど、私なんかより遥かに絵に対する慧眼を持つ彼の指摘は、あまりにも正確で的を射ていた。
「……考えてみますね。アドバイス、ありがとう」
私はそれ以上言葉を重ねず、居心地の悪さを振り払うようにして学食を後にした。
*****
一人になってふとスマホを見ると、LIMEに通知が入っていた。御影様が今日、日本に帰国するという連絡だった。
青児さんと話して冷え切っていた心が、一瞬でぱっと明るくなる。
(早く帰ってきて……。早く私をぎゅっと抱きしめてほしい……!)
その日の夕方、帰国した御影様は不機嫌そうに顔をしかめて文句を言ってきた。
「なぁ……? なんでアイツと一緒に学食で食事してんの?」
案の定、首から下げた婚約指輪から記憶や情景を読み取り、学食での出来事を実況しようとしてくる。私は焦って言い訳をした。
「な、何事もなかったですよ! ちゃんと貞操帯も装着して大学に行っていましたし!」
「……それはわかってる。あのハザマにしては英断だ。いや、逆かな? 女たらしだからこそ、初音の身に何かあると心配できたのか……」
ハザマ様の提案だったことまでバッチリ読み取っている……。……こっわ。
御影様は私の指輪を握りしめたまま、不快そうに舌打ちをした。
「あの雨宮の野郎め……! 小夏を愛人にするために、俺が世話をしたと思ってやがるな? 腹立つな、アイツ……!」
御影様、そこまでの言葉も読み取っているんだ……。何ひとつ誤魔化せないし、過ちも犯せない……。
すると御影様は、ポケットから小さな箱を取り出した。
「初音。スマホからでもお前の位置情報はわかるが……一応、これもつけさせてもらうぞ」
渡されたのは、とても可愛らしいアクセサリー風のGPSチャームだった。
この方がここまで過保護にするのだから、きっとそれだけの危険や理由があるのだろう。
少しの不安を感じつつも、私を守ろうとしてくれる御影様の重すぎるほどの行動が、たまらなく心強かった。
その夜は、離れていた期間を埋めるような濃密な時間を共に過ごした。
彼の腕の中でうっとりとまどろみながら、私は胸がいっぱいになるほどの幸せを、ひしひしと感じていたのだった。




