美しき毒をかわす
室生 初音 : 地方の芸大生
室生本家のお役目候補
ハザマ様 =室生 透青
室生家の巫覡をしている。
中の人は月島秀青で芸大の助手をしていた
室生 御影 : お役目様の内孫三人衆の内一人
霊的能力を持つ 初音の婚約者
雨宮 青児 : ハザマ様の異母兄弟 絵の才能が凄い
賑わう学食の喧騒の中、向かい合わせで昼食をとっていると、青児さんは探るような視線を向けてきた。
「室生さんの彼氏、追悼展の片付けの後にちょっとだけ見たけど……どういう人なの?」
「嫉妬深くて……とても不器用な人です」
私は箸を止め、少しだけ視線を落として答えた。
「それは、この間見てわかったよ。僕が聞きたいのは、君が彼のどこに惹かれたか、ってこと」
「一見、辛辣な言葉を吐くんですけど、実は裏腹で、私から使用人の方にまで細やかに気を遣ってくれるんです。この間なんか、高校に行けなかった子にお金と住むところを提供して……」
私が言い終わる前に、青児さんは意地悪くふっと笑い、話の腰を折ってきた。
「その子って、若い女の子じゃなかった? あとあと、その子が愛人か君のポジションになるかもしれないよ。あまり人を信用しない方がいいと思うけど」
この言葉を聞いて、私は確信した。
――青児さんは、私の中の御影様に対する印象を下げたいんだ。それか、自分が他人を利用して生きてきたから、そういう風にしか考えられないんだわ……。
「あの方は、普段から接していないと本当の優しさがわからないんですよ。損得抜きに行動される方ですから」
揺さぶりには乗るまいと、私は努めて冷静に言葉を返した。
「それに、私は青児さんの本質をすべて見抜いたじゃありませんか。私の観察眼が、そんなに鈍いとお思いですか?」
「……ひとつだけ、見抜いていないことがあるよ」
彼は食事の手を止め、目を細めながら、どきりとするような声色で言ってきた。
これ以上踏み込ませてはいけないと、直感が告げている。
「いえ、聞きたくないです。……それよりも坂井さんのこと、ちゃんとお付き合いされているんですか?」
私はあえて核心を避け、強引に話題を逸らした。
「彼女には最初から、『僕が君を好きになることはない』と伝えてあるんだ。今まで誰に対しても本気にならなかったから、正直にね」
青児さんは悪びれる様子もなく、まるで今日の天気を口にするかのように、こともなげに言った。
目の前でティーカップに手を添える彼の横顔は、恐ろしいほど整っていて、そしてどこか冷ややかだ。
――何故、人はこんなにも美しく危険な人に寄って行ってしまうのだろう。
ハザマ様が言っていたように、魅力の『魅』という漢字には鬼が住んでいる。
自分を壊しかねない危険なものに触れるとき、人は無意識にアドレナリンを分泌させて、それを快感だと錯覚してしまうからなのだろうか……。
「……仮に、青児さんが誰のことも本気で好きにならないとしても、青児さんを好きになって寄ってくる人たちも、みんな心を持っているんです。だから、坂井さんのことも丁寧に扱ってあげてほしいです」
それだけを青児さんに静かに告げると、私は自分のアトリエへと戻ろうとした。
「——君の卒業制作の下描き、見たよ」




