魅力の「魅」には、鬼が潜んでいる
室生 初音 : 地方の芸大生
室生本家のお役目候補
ハザマ様 =室生 透青
室生家の巫覡をしている。
中の人は月島秀青で芸大の助手をしていた
室生 御影 : お役目様の内孫三人衆の内一人
霊的能力を持つ 初音の婚約者
雨宮 青児 : ハザマ様の異母兄弟 絵の才能が凄い
私の結婚は、誰にも純粋に祝ってもらえないのだろうか。
そんなもやもやとした思いを抱えながら、私はふらっと室生の本家へ足を向けていた。
ハザマ様なら、きっと手放しで祝福してくれるはずだ。美麗さんとの仲も順調だと聞いているし、何より、青児さんから心からの祝福をもらえず少し寂しかったので、その愚痴も聞いてもらいたかった。
「こんにちは、ハザマ様。ご機嫌伺いに来ました」
客間に顔を出すと、ハザマ様は私を見て、ふっと顔をほころばせた。
「初音か。もうすぐ結婚だな。今が一番楽しい時期だろう」
「ハザマ様も、もうすぐですよね?」
私が明るく返すと、彼は穏やかに頷いた。
「ああ。式の日取りで、先方と話し合っているところだ」
「美麗さんの白無垢姿、綺麗だろうな〜」
彼らの結婚式は、厳かな神前で執り行われるそうだ。その情景を想像して頬を緩めながら、私も早く御影様と一緒に婚姻届を出しに行きたいな……と胸を弾ませる。
そんな風に和やかな空気に浸っていた時だった。
ハザマ様がふと、先ほどまでの微笑みを消して真顔になった。
「時に、初音。お前、また貞操帯を着けておきなさい。危険が迫っている」
「……えっ?」
あまりにも唐突で物騒な単語に、私は思わず声を漏らした。
「御影のことだ。もし何かあれば全てバレるからな。迫られても、ちゃんと物理的に拒否できるようにしておけよ」
「えええ!? 誰ですか、私なんかを襲いたい奇特な人って!」
冗談かと思って目を丸くする私に対し、ハザマ様は静かに、しかしはっきりと告げた。
「私の異母弟……雨宮青児だ」
「……え?」
「お前は残酷なまでに鈍いな。もともと青児は、他人のものを奪うことに快感を覚えるタイプだ。女など向こうからすぐに寄ってくるから、つまらんというのもあるだろう。だが……それに加えて、あいつはお前に本気で好意を持っている」
「!! え? そうなの……ですか?」
「お前は天然だからな。全く気づいていないだろうなとは思っていたが」
ハザマ様の言葉に、私は息を呑んだ。
――だから、あの時あんなに塩対応だったんだ……。
ここに至って、ようやく青児さんの言葉や態度の意味が繋がり、背筋に冷たいものが走った。
「でも、この間、青児さんに『君を見ているとイライラする』と言われたんですよ……? なんでまた、それが好意に……」
私が混乱したまま疑問をつぶやくと、ハザマ様は静かに教えてくれた。
「初音は『シャイニング』という映画を知っているか?」
「ええ。あの有名なホラー映画ですよね?」
「あの続編の『ドクター・スリープ』で明かされるんだが、特別な能力を持つ者は、霊から見ると文字通り『輝いて』見えるんだ。だから、その光を渇望する飢えた霊たちが引き寄せられてくる。……初音も同じで、青児が欲しくてたまらないものを持っているからだ」
「彼の方が私なんかより、よっぽど才能や容姿に恵まれて、社会的に愛されているのに……」
納得がいかず不満そうにこぼすと、ハザマ様は達観したような声で返してきた。
「社会的に愛されるというのは条件付きの愛であって、無私無欲の愛じゃないからだろうな。光に蛾が寄ってくるのと何ら変わらない。初音は無自覚に、そういう純粋な白い光を発しているから……」
「青児さんは、蛾と一緒ですか……」
「魅力の『魅』の字には、鬼が住んでいる。あいつには気をつけろよ」
ハザマ様はそう言って、私を案じるように静かに目を細めたのだった。




