さすがのハザマ様
こういう時こそ、ハザマ様の出番だ。
私は御影様の昔の彼女——澄香さんの居場所や情報を少しでも掴めないかと考え、教えを乞うべくハザマ様のお部屋を訪ねた。
「ハザマ様〜。ご機嫌伺いに来ました〜」
お部屋の扉を開けると、そこには浅葱色の袴を身にまとった正装姿のハザマ様が、まるでこちらの訪問を最初から知っていたかのように静かに座していた。
「……そろそろ来ると思っていたよ」
さすがハザマ様、恐ろしいほどに察しが良い。私は姿勢を正すと、本題を切り出した。
「実は、御影様の元カノ……澄香さんのことで、お聞きしたいことがあるんです」
ハザマ様は静かに目を伏せ、当時の記憶を手繰り寄せるように語り始めた。
「四年前、私も彼女を説得しようとはしたんだ。……彼女は御影の両親の強い反対を押し切ってまで婚約を取り付けたというのに、最後は自らそれを反故にするような真似をしてしまった。私に拒絶された後、『御影や屋敷の人々に合わす顔がない』と言って姿を消したんだ。実際、あんな暴挙に出た以上、あのお屋敷には居づらかったのだろう」
ハザマ様は少し言葉を置くと、私をまっすぐ見つめた。
「私は彼女の気持ちに寄り添ってやることはできないが、生活の支援など他のことなら手助けできるからと、秘密裏に連絡先だけは交換しておいたんだ。……澄香さんには私から連絡を入れるよう伝えておいたから、数日内には何らかの動きがあるはずだ」
「ハザマ様……そこまで手回しを……」
「初音は、すべての真実を知っておくべきだからね」
そう言うと、ハザマ様は知っている限りの事情を包み隠さず教えてくれた。そして最後に、静かで重みのある問いを投げかけてきたのだった。
「……結婚とは、相応の覚悟がいるだろう?」
「……はい。私も一度実家へ戻り、両親とどうするべきか話し合ってきます」
私は御影様のもとへ戻ると、「ハザマ様から澄香さんへ連絡を取ってもらったので、近いうちに動きがあるはずです」とだけ伝え、静かに先方からの連絡を待ったのだった。
*****
数日後。
「……あの方からです」
執事の惟光さんが重々しい面持ちで現れ、丁寧にハンカチに包まれたお上品なアクセサリーを御影様に手渡した。
御影様は震える両手でそのアクセサリーを包み込み、そっと目を閉じる。彼の能力を発動し、アクセサリーに残された澄香さんの強い残留思念と現在の状況が、一気に脳裏へ流れ込んでいくようだった。
やがて——じっと耐えていた御影様の目から、一筋の涙が頬を伝い落ちた。
「……どうしよう。嬉しいのか、自分が困惑しているのか……自分でもわからないんだ。……この真実を知ったら、俺は初音を失ってしまうかもしれない」
絶望に揺れる彼を見て、私は心を鬼にしてその手をとった。
「……弱気にならないでください。まずはお子さんに会いに行きましょう」
*****
そして私は、実家へ戻り両親にすべてを打ち明けることにした。
「えっとね……お父さん、御影様の四年前のトラブルのこと、知ってる?」
本家との繋がりが深い父は、眉をひそめて頷いた。
「ああ、知っているが……何かあれが、まだ尾を引いているとでもいうのか?」
「御影様のあずかり知らぬところで、お子さんが生まれていたみたいなの。……しかもその子は、少し普通の状態ではない子らしくて……」
私の言葉に、隣にいた母が顔を真っ青にして身を乗り出してきた。
「初音……! 婚姻届は、まだ出していないわよね!?」
「うん、まだ出していないの。結婚前にお互い隠し事がないか話し合っていて……そこから、この新しい事実が分かったの」
婚姻届を出していないと聞いて心底ほっと胸を撫で下ろす母とは対照的に、父は激怒した。
「あの方はどこまで勝手な人なんだ! この間は一方的に婚約破棄を突きつけてきたと思えば、今度は隠し子だと!? めちゃくちゃじゃないか! 今度こそ、こちらから婚約破棄を言い渡しても良いくらいだ!」
激高する父を前に、私は落ち着いた声で切り出した。
「お父さん、落ち着いて。……そこでね、私から一つ提案があるの」
実は実家に帰る前、私はハザマ様と「どうすれば一番丸く収まり、誰も傷つかずに済むか」を、しっかりと相談し合っていたのであった。




