生粋の御曹司と白川のお母様
御影様のお母様は、由緒正しき『白川家』の出らしい。
白川家というのは、代々神職を担う家系であり、霊的な素質を持った子が生まれることが多いのだという。
要するに、御影様は生粋の御曹司だったのだ。この間、廻る寿司店に入ったことがないと言っていたのも大いに納得である。
しかもお母様もかなり霊的に敏感な方で、御影様と同じ能力を持っているそうだ。
——そんな凄腕のお母様にご挨拶へ伺った数ヶ月前のこと。
緊張でガチガチになっている私を、御影様と同じ鋭い目で見つめる。挨拶を交わした直後、お母様は優雅に微笑んでこう言ったのである。
「御影が今まで付き合ってきた娘の中で、あなたが一番隙だらけで、何も考えていない子ね。……まぁ、そこが良いのだけど」
(えっ!? 御影様って他にも付き合ってた人がいたの!? というか私、初対面で『何も考えてない』ってストレートに言われた!?)
私が内心で激しいツッコミを入れていると、隣に座る御影様はそれを『最高の褒め言葉』と受け取ったらしい。得意げに胸を張った。
「だろ? 母さんの実家がどういう家なのかさえも、あまり知らずに俺のところに来ているから良いだろ。母さん、結婚許してよ」
「……初音さんが『お役目』の候補だというのが、ポイント高いわね。良いでしょう。婚約を許します。」
有無を言わせぬ高飛車な言葉と圧倒的なオーラに押し潰されそうになりながらも、一応、私だって分別のある大人だ。ここはぐっと感情を抑え込み、引きつりそうになる笑顔を必死に保って、こう言うしかなかった。
「……婚約をお許しくださり、ありがとうございます。お母様」
するとお母様は、冷たくも美しい笑みを深め、まるで盤上の駒を愛でるような目で私を見つめた。
「あなたは、私の出自である白川家にとっては幸運の女神よ。あのハザマがお役目になる確率が低くなるのを、策略なしで導いてくれるなんて。偶然にしては出来すぎているわね」
「これで、次期お役目と白川家との繋がりが生まれる確率が、五分の二になりましたから」
私は最初、急に何を言われているのかわからず、ただ瞬きをするしかなかった。
だが頭の中で言葉を反芻し、ようやくその真意に気づく。どうやら私が候補に入ったことで、その分ライバルであるハザマ様が次期『お役目』に選ばれる可能性が相対的に下がったと、お母様は喜んでいるらしいのだ。
ハザマ様は月島家の出自だ。由緒ある白川家としては、他家の血を引く彼が頂点に立つことだけは、名門のプライドとしてどうしても許せないのだろうか。
(私、とんでもない権力闘争の渦中に巻き込まれてるんじゃ……?)
背筋に冷たい汗が流れるのを感じながら、私はただ曖昧に頷くことしかできなかった。




