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魔、降る夜  作者: 夢出 啓示


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9.仮説

 深夜の捜査本部には太田署長と宮下管理官と北沢係長の三人が残り、大型モニター前の机に並んで

座っていた。


 モニターの中央には合同捜査本部が映り、その周りには小さく関東各署の映像が並んでいた。


 音声は合同捜査本部と官邸とのやり取りが延々と続き、北沢係長の左足が苛立った様子で貧乏ゆすりを

していた。


 忠道が後ろから小声で声を掛けると、係長が振り返り驚いた。


「家に帰らず署に戻ってきたということは、朝まで待てないネタがあったのか?」

「まだ仮説の段階ですが、事件に関連する証拠を見つけました」


 忠道は持参したパソコンを開き、学から説明を受けた宇宙線の飛来場所と、事件の発生場所が

一致した事を、画面で説明した。


「仮説は面白いが、SFの類では、犯人逮捕には繋がらないなぁ」 


 宮下管理官は怪訝な表情で唸った。


「それで何か証拠があるのか?」


 宮下管理官が冷めたコーヒーを一気に飲み干した。


「自分が逮捕した犯人から、白い綿帽子が抜け出す場面を見つけまして、他にもネットに上がった

犯人逮捕時の映像から、三カ所で同様の白い綿帽子が抜け出すのを見つけました」


 忠道は一通り説明すると、映像を再生した。


「ここです」


 忠道は現場が変わる度に画面を指さした。


「映像が加工されていないなら、確かに何かが抜け出した様に見えるな」


 太田署長が難しい顔で腕を組んだ。


「宮下管理官、一笑されそうだが、本庁に報告すべきだろうか」

「もしこれがきっかけで事件解決に繋がるのなら、うちの署の手柄になりますね……」


 署長が忠道の顔をじっと見つめた。


「自分が報告して信じて貰えなかったら、新聞社の幼馴染がこの映像をネットで流して、市民から情報を

集める段取りになっています」


「そうか……いずれ新聞社の手柄になるなら、うちから本庁へ一報を入れよう。世利君、無駄になるかも

しれないが、先ほどの説明をもう一度やってくれるか」


 忠道が頷くと、宮下管理官はミュートにしていた音声を解除し、マイクに向かって声を上げた。


 解決の糸口も見いだせず、閉塞感に包まれていた合同捜査本部は、すぐさま反応して発言を許可した。


 忠道の二度目の説明は、本人が驚くほどスムーズに終わった。


 どうせ一笑されて終わりだろうと高を括っていたが、ざわめきの中から最初に声を上げたのは

石村総理だった。


「その話の信ぴょう性はどの位あるのか?」


「横浜の宇宙線研究所に私の親友が研究員として勤務しており、現地に出向いて直接説明を聞き、

お見せした映像を入手しましたので、間違いありません」


 忠道の発言で、否定的な声がスピーカーから聞こえたが、石村総理は待てと声を上げた。


「そうか、それなら信ぴょう性は高いな。で、どこまでが事実で、どこから推測なのかもう一度

聞かせてくれるか」


「宇宙線が降り注いだ十九時五十五分の数分後に、無差別殺傷事件が同時に発生したので、横の繋がりの

無い人々が何故、同時に事件を起こしたのか説明できます。そして逮捕の後、何かが、宿主の身体から

抜け出した為に、被疑者達が、犯行の記憶がないと証言している所までは事実だと言えます。そして

何かが抜け出したという点は三つの映像がありますが、まだ信ぴょう性は低いので、私の友人がネットに

公開して、他に同様の映像が無いか集める予定です」


「よく分かった。特に繋がりのない人々が、なぜ同時に凶行に走ったかが一番の疑問だったが、私は

世利君の話で納得できたよ。皆はどうだ?」


 石村総理の声掛けに、反対意見は出ず、画面の向こう側で、皆、頷いている様子が見えた。


「真実を最初に見つけた君に訊くが、これからどのように事件解決に向けたアプローチをすれば良いか、

妙案はあるかね」


 石村総理の質問に、忠道は直ぐには答えず、署長と管理官に視線を送った。二人とも無言で頷いた。


「これは私の推測ですが、同時多発的に事件を起こしたのは、何か別の目的のために捜査の混乱を

狙ったものだと思います。

よって現在、逃亡している被疑者達の行方を追い、何が目的なのかを早急に掴む必要があると思います。

また抜け出した白い綿帽子は、消滅したわけではないので、その綿帽子を確保して、調査すべきだと

思います。三件の映像を見た限りでは、白い綿帽子はゴルフボール程の大きさなので、密閉できる瓶なら

確保出来ると考えました」


 忠道はそう言いながら、バックからパスタ用の瓶を手に取り、カメラに映した。


「それで確保出来れば良いが……」


 宮下管理官が呟く。


「白い綿帽子が抜け出す場面に遭遇したとき、身近にある物で確保出来れば、危険な物体が彷徨って


第二、第三の悲劇が発生するのを防げると思います」


「そうだな、被害を拡大させない為には、一般市民への協力要請もやむを得ないな」


「白い綿帽子は、被疑者を拘束したときに抜け出しています。よって各署には、逮捕時に綿帽子が出る

可能性があるので、身近な密閉容器を用意した上で、現場へ急行するように指示を出して頂ければと

思います。但し、無防備で綿帽子と対峙した場合、逆に憑依される恐れもあるので、もし可能なら、

自衛隊か警察の化学防護隊に待機して頂き、綿帽子を確保できるチャンスがあれば、防護服を着た隊員が

回収した方が確実だと思います。そしてバイオセーフティレベル3以上の研究室に持ち込んで分析して

頂き、その白い綿帽子の正体を明らかにすることが、最善だと考えます」


 忠道は臆することなく意見を述べた。


「花山官房長官、まだ不審な顔をしているが、私が全責任を負うので、世利君の指示を末端の警察官まで

徹底させてくれ。何も手を打たないより、事態が少しでも改善するなら、やるべきだと思う。それから

防衛大臣、自衛隊の化学防護隊は何処に居るのだ?」


「はい、化学防護隊は現在、特殊武器防護隊と名称を変えて、朝霞駐屯地に常駐しています。朝霞には

昨年度、バイオセーフティレベル4の施設を設置しましたので、綿帽子が確保できたら分析も可能です」


「そうか、では未知の物体による我が国への侵略の恐れがあるということで、特殊武器防護隊に治安出動

と原因物質の調査をお願いしたい。朝霞では遠いから、どこか都内で待機してくれるか」


「では、内閣総理大臣の命令による治安出動を要請し、市ヶ谷駐屯地で待機するように命じます」


「頼んだぞ」


 忠道は予想に反して、意見が通った事に内心驚いていた。


そして手元のスマホで、香帆へ石村総理が白い綿帽子の存在を信じてくれたことを伝えた。


 忠道は大型モニターの中で、指示が飛び交う映像を眺めながら、ほっと一息ついていた。


 するとモニターの映像が切り替わり、坂口警察庁長官が顔を出した。


「太田署長、本庁では現在、専任捜査チームの発足を計画しているので、世利君を横浜署代表でチームに

入って貰いたいが、良いかな」


「勿論です」


「早速だが、一時間後に総理自ら会見を行う予定なので、総理官邸まで来てくれるか。石村総理から

直に電話があり、質問が出たら世利君に答えて欲しいそうだ」


「すぐ向かわせます」


 太田署長は忠道の肩を叩き、頼んだぞと声を掛けた。


 忠道は拒絶出来ない雰囲気に、苦笑いで答えた。


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