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魔、降る夜  作者: 夢出 啓示


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8.愛の部屋

 着替えを取りに帰る学を乗せて、忠道が運転する車は大学の坂道を下った。


 香帆の家の玄関を開けると、妹の小花愛が三人を出迎えた。


「事件現場の映像は集まった?」


「まだ整理できてないけど、ネットにアップされていたものは、殆ど拾ったわ」


「ありがとう、早速見せて」


 四人は二階へ上がり、愛の部屋へ入った。


 机の正面にはモニターが三つ並べられ、左右の画面は画像の投稿ページで、幾つもの事件現場が並び、

中央の画面には、撮影された事件現場の映像が停止していた。


 愛がモニターの前に座り、マウスを片手に説明を始めた。


「今のところ、白い綿帽子が視認出来たのは三カ所ね。まずこれを見て」


立川駅前二十時とテロップが流れ、映像にはバットを振り回す男子高校生を警官が取り囲み、刺股で

倒されて取り押さえられる場面だった。


「この後よ、倒れた犯人の頭部を見て」


 押さえつけられ、手錠が嵌められたとき、白い綿帽子が頭部から逃げ出すように現れた。


「今、確かに出たね」


 学が声を上げると、愛が振り返って学に笑顔を見せた。


 学は一瞬驚いた表情をした後で、微笑み返した。


「愛、今まで気が付かなかったけど今日は、ばっちりメイクね」


 香帆が言うと愛がにやりと笑った。


「だって、ガクちゃんが来ると聞いたら、スッピンは見せられないでしょう」

「そうか……愛はハイハイが出来る様になったら、学が来たらすぐ近寄って、抱っこして貰い、喜んで

いたからね」


 香帆が愛に微笑んだ。


「ガクちゃんは、彼女いないよね」


 愛が真っすぐな視線で学に訊いた。


「うん、ずっと居ないよ。こんな宇宙オタクには誰も近づかないよ」

「じゃ決まりね。昔、私がお嫁さんにしてよと聞いたら、いいよって言ってくれたよね」


 学は驚いた表情で目を丸くした。


「それ、いつの話よ」


 香帆があきれ顔で横やりを入れた。


「小一の頃かな、ガクちゃんが家に遊びに来たとき約束したのよ」


 香帆が学の顔を見ると、すこし照れた顔をした後、真顔になった。


「うん、約束した」

「じゃ、今晩両親が居なくて一人だと怖いから、私の部屋に泊まって」

「愛、今日は一体どうしたの? いつもシャイな性格で、学が来ても挨拶するだけで、すぐ部屋に

引っ込んだくせに」


「いいでしょう。私が大好きな人と結ばれたらダメなの?」

「ダメじゃないけど、急じゃない?」

「チャンスを逃すと、お姉ちゃんみたいになるから……」 


 愛はそう言いながら、残り二カ所の映像を流して、白い綿帽子が抜ける場面を説明した。


 香帆は上の空で映像を見ながら、愛の台詞に愕然としていた。


「これを見せれば、何かが人を操り、拘束されたら宿主から抜け出していることが証明できるわね。

警察が信じてくれないなら、ネットに流して市民の目で白い綿帽子の存在と、その後の行方を追った方が

現実的かもね。それとまだネットにアップしていない人もいるだろうから、投稿サイトを開設して映像の

投稿を呼びかけたら情報が集まると思うわ」


 香帆が忠道の顔を見て意見を求めた。


「そうだな、一応、署に戻って報告はしてみるが、一笑されて終わりだろうな」


「俺も香帆の案に賛成だな。映像を公開して大勢の目で調べた方が、調査は進むと思うよ」


学の意見に、愛は微笑み頷いた。


「愛、三カ所の現場の映像を繋げて、私と忠道に送っといてね。それから投稿サイトの開設もお願い」 

「編集は終わっているから、二、三分で送れるわ」

「愛ちゃん、ありがとう。流石にシステムエンジニアだけあって仕事が早いね。俺は署に戻って

報告してみるよ」 


 忠道は怯えた表情で佇む学の肩を軽く叩き、ガンバレと耳元で囁いた。


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