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魔、降る夜  作者: 夢出 啓示


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6.官邸対策室

 首相官邸地下一階の危機管理センターに、緊急参集チームのメンバーが集まり官邸対策室が設置

された。


 総理大臣以下、参集省庁の幹部職員が並び、警視庁の合同捜査本部とテレビ会議を繋いで、情報の

共有を行っていた。


「一体、何が起きているのか、誰か説明してくれ?」


 石村総理の第一声に官房長官の花山が立ち上がった。


「本日の午後八時頃、東京、神奈川を中心に千葉県と埼玉県で、無差別傷害事件が百件程発生し、死者は

現時点で十五名、負傷者が多数救急搬送されております。そのうち約半数の被疑者が取り押さえられ、

各警察署で取り調べを行っております。現時点の報告では被疑者達は全員、犯行を否認し、身に覚えが

ないと答えており、犯行の目的や背景等は一切分かっておりません」 


 花山官房長官は話を止めて汗を拭いた。


「テロ集団か、宗教団体か犯人たちの繋がりはあるのか?」

「所轄の事情聴取では、今のところ横のつながりは無いとのことです」


 集まった情報は、個人が無差別殺傷事件を起こすことはあるが、ほぼ同時刻に、複数の地点で多発した

事など前例がなく、また逮捕された犯人達が、一貫して否認していることも異常だった。


 会議の結果、逃亡中の被疑者達を防犯カメラの映像で割り出して追跡し、逮捕する事と、これ以上の

被害を拡大させないために、外出を控える様に国民に要請する事が決まった。 


 すぐさま、首相官邸の記者会見室で花山官房長官による記者発表が始まった。


 各テレビ局のカメラが並び、一斉に生中継が行われた。





 横浜署七階にある捜査本部は、照明が半分ほど消え、壁掛けテレビの前には帰り支度した捜査員達が

集まり、花山官房長官の説明を眺めていた。


 不可解な無差別傷害事件が多発しているという事実を説明し、外出を控える様に繰り返し伝えていた。


「世利君、今日は休暇だったのだろう。騒動に巻き込まれて大変だったな」


 北沢係長がそう言いながら、缶コーヒーを差し出した。


「遠慮なく頂戴します」


 忠道は軽く頭を下げながら、休暇を取って母校に行っていたことを思い出した。


 突然、事件に巻き込まれて、警察官として条件反射的に行動している自分を滑稽に感じていた。


「何を聞いても犯行を覚えていないと答えられては、事件の解決の道筋すら見えないな」

「横の繋がりでもあれば糸口は見えるのですが誰の指示もなく同時刻に事件が発生したのも不可解です」

「まあ、今は逃走している被疑者達を追い詰めて、逮捕するしか動きようがないな」

「確かにそうですね」 


 忠道が答えると、スマホの呼び出し音が聞こえた。廊下に出て通話ボタンを押すと学の声が響いた。


「今からうちの研究所に来られるか? 今晩発生している事件に関連する情報があるんだ」

「その情報ってなんだ?」

「ちょっと言葉では説明が難しいから、出来れば途中で香帆を拾って来てくれないかな。香帆には

特ダネだと伝えたら、必ず行くと言っていたよ」


「分かった。すぐ向かうよ」


 忠道は電話を切ると、北沢係長に外出許可を求めた。


「世利君、今日は非番だろう。自由に動けばいいよ」

「そうでした。すっかり忘れていました」


「捜査に使える情報だったら、明日の朝一にでも報告してくれ」


 忠道は帰り支度をしながら、まだ今日は終わらないな……と呟いた。


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