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魔、降る夜  作者: 夢出 啓示


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27/30

27.突入

 機動隊の背中が二つに割れ、まるでモーセの海割りの様に、未来へと続く道が中央に開いた。


「行くぞ!」


 中村小隊長の声で隊員達が二列になって走り抜けた。


 そして建物の中に奥に入ると、散らばっていた群衆が駆け寄って来た。


「刑事の出番だ!」


 刑事達を指揮する北沢係長が先頭になり、迫る男たちに逮捕術を駆使し、一対一で地面に押し倒した。


 再び道が開き、中村小隊長を先頭にSPと一特防は階段を駆け上がりエレベーターホールに到着した。


 そこには十人程の男たちが乗り場を塞いでいたが、一特防とSPのメンバーが男たちを制圧し、

後ろ手に拘束バンドで締め上げて、床に転がした。


「エレベーターは動いているか?」

「三台は操作盤が破壊されており、一台だけは動きそうです」


「何人乗りだ?」

「定員は四十人です」


「よし、ではそれぞれの隊を半分に分けて、第一陣として乗り込んでくれ。残りは機動隊の到着を

待って、群衆対応を残し展望台の応援に来てくれ」


 香帆と忠通は小隊長の指図で一番先に乗り込んだ。壁に桜が描かれたお洒落なエレベーターなのに、

汗をかいた男たちが密集して乗り込むと、そこは耐え難き空間となった。


「大丈夫か?」


 忠道が小声で問いかけると香帆は無言で頷き、忠道の胸に顔を埋めた。


 忠通は片手でそっと肩を抱き寄せると、香帆の頭髪の香りが鼻腔に広がり、瞬き一つで地獄が天国に

置き換わった。


 そして天国は加速しながら僅か五十秒で減速して停止すると、ゆっくりと地獄の扉が開いた。


 扉側の隊員たちは、機動隊から借りた大楯を構えていたが、開いた先には無人のフロアーが

広がっていた。


「ここは展望デッキ350ですね。屋上への階段は裏手にありそうです」


「よし、では右廻りで十人、残りは左廻りで行くぞ。見張りが居たら無線で知らせてくれ。タイミングを

合わせて突入する」


「了解」


 直ちに刑事とSPの混成チームが右側へと進み、残りは左側を進んだ。


 二十メートル程進むと、中村小隊長が止まれと手で合図した。 


 視界の先には屋上への階段扉の前に、男が二人立っていた。


 木暮SPが小隊長の肩越しに様子を伺った。


「あれはSPです。我々の出番ですね」


 小暮SPの指図でSP達が先頭に集まると、右廻りのチームから無線が入った。


「よし、同時に行くぞ」


一瞬にしてその場の空気が張り詰める。


「今だ!」


小暮SPが先頭に立ち速足で男たちに近づくと、気が付いた二人は背広を広げて拳銃を抜こうとした。


「小暮だ! 何やってる!」


 二人は顔見知りの筈なのに小暮SPに銃口を向けようとしたそのとき、後方から別チームのSPが

警棒で銃を叩き落とした。


 すぐさま小暮SPが男の腕を捩じり上げて押し倒す。


 もう一人もあっという間に床に押さえつけられた。


「綿帽子に気をつけろ!」


 中村小隊長の指示に一特防の隊員が密閉瓶を手に構えた。


 そして間を置かず、男の頭部から小さな綿帽子が抜け出すと、慣れた手つきで密閉瓶に閉じ込めた。


「もう押さえつけなくて大丈夫ですよ」


 香帆の声かけに、仲間を押さえつけていたSP達がそっと立ち上がった。


「目覚めさせますか?」


 香帆が訊いた。


「今は止めときましょう。力は温存した方が良さそうです」


 中村小隊長の判断に香帆は頷いた。


「憑依から解放された人は眠りから目覚めないので、このまま置いて行きましょう」


 SP達は仲間の身体を持ち上げると拳銃を拾い上げて、フロアーの隅に移動させた。


「よし、屋上に向かうぞ」


「私が先導します」


 木暮SPは自動拳銃を取り出して、スライドを操作し初弾を装填した。


 そして右手に自動拳銃を持ち、左手でドアノブを静かに回した。


 少し扉を開いて扉の向こう側の様子を伺った。


「何も無いようです」


 扉を静かに開けると階段は鉄製だった。


「これは靴音が響きますね」


「確かに。大楯を先頭に一気に駆け上って屋上の扉を開けましょう」


「SPは防護主体なので、悪意に憑依されてもトラップを仕掛ける術は持っていません。我々SPが

盾となって皆さんを屋上に必ず導きます」


 木暮SPの真剣な眼差しに、中村小隊長は忠通に視線を送ると、忠通は静かに頷いた。


「我々も後に続きます」


「では、行きます!」


 木暮SPは部下のSPと共に大楯を二つ抱えて階段を駆け上った。


 狭い階段通路にカンカンと靴音が響き渡る。


 そして屋上の扉が見えて、木暮SPがドアノブを掴み、外側へと広げた。


 その瞬間、パン、パンと乾いた銃声が響き、鉄の扉に金属音が響いた。


 木暮SPと部下は大楯に隠れて、屋上へと飛び出した。


 パンパンパンパン……と連続で銃声が響くと、残響が耳に残る中、吹き抜ける風の音が聞こえた。


 様子を伺うと、大楯の陰で木暮SPが手招きした。


 中村小隊長が大楯に駆け寄りながら、屋上の様子を視認すると十メートル程先に三人のSPが

倒れていた。 


「見える範囲の敵は倒しました。急所は外したので救急搬送すれば助かるでしょう。総理官邸付の

SPは十人いるので、あと五人残っています。もう同士討ちしたくないので、銃は置いて警棒で戦う様に

奴らに言いますが良いですか?」


「ファザーに憑依されているのに、素直に従いますか?」


「武器を持たない敵なら、拳銃は使わないですよ。我々は要人警護が身体に染み着いているから、


私の提案に従うと信じています。万一、私が撃たれたら、後は手加減なしでお願いします」


「分かった」


 中村小隊長が見守る中、木暮SPは拳銃をホルスターに戻すと、大楯から身体を出して両手を広げた。 


「木暮だ! 三人は倒した。もう拳銃は使いたくない。警棒一つで掛かって来い!」


 部下のSPが万一の為に拳銃を構えていたが、警棒を握って現れたSP仲間の姿を確認すると、

ホルスターに拳銃を収めて立ち上がった。


 そして後方から二人のSPが木暮SPの横に駆け寄った。


 相手は五人でこちらは四人。

 

 一人足りないのを察した忠通は、ファザーの分身が入ったボディバックを香帆に託した。


「私も行きます」


 忠道の登場に小暮SPが苦笑いで迎えた。


 五対五の戦い。


 警棒を手にした男たちが、一斉に相手を倒そうと挑みかかる。


 忠道は素手で一番端のSPが振り下ろす警棒を紙一重でかわし、相手の懐に飛び込んだ。


 そして股間を蹴り上げ、前のめりになった後頭部に肘鉄を加えた。


 うつ伏せに倒れたSPは起き上がれず、忠道は慣れた手つきで男の両手を拘束バンドで縛り上げた。


 すぐさま起き上がり、他の戦いを応援しようとしたが、手を出す間もなくファザーの分身達は

倒されて、手錠で手摺の欄干に拘束された。


「よし、残りは大泉大臣一人だ」


 SP達は勝利の勢いのまま、先に進もうとしたが、中村小隊長が制止した。


「闇雲に行くと危険です。出入口はここしかないので、先程と同じく二手に分かれて近づきましょう。

大泉大臣の姿を確認したら無線で合図して下さい」


「了解した」


 早速、二手に分かれて屋上の回廊を左右に進んだ。


 忠通は中村小隊長の後ろに続き、足音を立てない様に壁に沿って進んだ。


 そして丁度、半周廻った辺りで前方に分かれた仲間の姿が見えた。


「どこにも居ないぞ」


 男たちが合流しようとしたとき、上から笑い声が聞こえた。


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