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魔、降る夜  作者: 夢出 啓示


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26.防衛出動

 香帆と忠通は、中村小隊長に先導され総理官邸のエントランスを出ると、車寄せには輸送防護車が

後部扉を開いて止まっていた。


 そして車両の前には特別チームのメンバーが並び、二人を出迎えた。


 見渡すと後方にも数えきれない車両が停車しており、機動隊やSP、そして刑事達がそれぞれの

車両の前に整列していた。


「解散しないで、待っていてくれたのですか?」


 香帆が泣きそうな声で訊いた。


「マザーの光を浴びた我らは、地獄の果てまでお供しますよ」


 立花班長が声を上げると、男たちは、おお! と太い声で応えた。


 そしてエントランスにSPを従えた石村総理が現れると、小隊長がすぐさま駆け寄った。


「総理、出動命令をお願いします」


 中村小隊長の敬礼に、総理は胸に手を当てて答礼した。


「気をつけ! 頭中!」


 小隊長の号令に従い、隊員たちが一斉に敬礼した。


「内閣総理大臣として、防衛出動を命じる。宜しく頼んだぞ」


「出動!」


 忠道と香帆も隊員たちの後に続いて、乗り慣れた後部扉から車両に乗り込んだ。




 パトカーの先導で車列は総理官邸を出発し、霞が関料金所から都心環状線を進んだ。


 そして向島線を通り、駒形出口で高速を降りた。


 浅草通りを南に向かい始めた所で渋滞となり車列は止まった。


「様子が変だな」


 助手席の中村小隊長が窓を開けて前方の様子を伺うと、歩道を走って逃げてくる人々が視界に入った。


「どうしました?」

「スカイツリーに暴徒が集まり暴れています! 早く鎮圧して下さい!」


 男は走り去り、衛星電話が鳴った。


「01、01、こちら00、大泉防衛大臣が東京スカイツリーの展望台屋上で、悪の波動を飛ばし、

悪意を浴びた人々が暴徒となって集結中。臨時ニュースで映像が流れているので確認願いたい」


 すぐさま車内のモニターのスイッチを入れると、臨時ニュースが流れていた。


 映像では展望台屋上のお天気カメラに向かって、大泉防衛大臣が何かを話し、その後、屋上の端の

手すりに足をかけ、両手を広げた姿が写っていた。


「これは早く行って止めないと、やばそうだな」


「スカイツリーまであとどの位だ?」

「一キロ程度です。降りて走った方が早そうですね」


「そうしよう」


 中村小隊長は無線で他の車両に伝えると、すぐさま降車した隊員達が歩道に並んだ。


「これからは所属毎に集まり、機動隊を先頭に出発する」


 直ちに隊員たちは整列した。


 そして中村小隊長と藤木副小隊長が先頭に立ち、忠通と香帆はその後に続いて出発した。


「走れるか?」

「大丈夫よ」


 忠通はカメラが入った香帆のバックを受け取り、並んで走った。


 後方からは機動隊が装備の音を響かせて追ってくるので、スピードを緩める訳にもいかない。


 忠通も寝不足と疲労で次第に息が上がる。


 交差点を幾つか折れると、頭上にそびえ立つスカイツリーが見えてきた。


 その内に焦げた匂いが辺りを漂い、東京スカイツリーの真下の道路で、横転した車が燃えて黒煙を

上げていた。


 スカイツリーのエントランスには大勢の人々が集まり、入口を封鎖しているのが見えた。


 中村小隊長は立ち止まり、後方の部隊へ物陰に隠れる様に指図した。


 そして各部隊の隊長に集まる様に携帯無線で連絡した。


 すぐさま中村小隊長の元に隊長達が集まり、忠道と香帆を入れて輪になった。


「あの連中はファザーの悪意に呼応して集まった一般市民で、直接、武器を使うわけにはいきません。

もし刃物等で襲われたら公務執行妨害で逮捕は出来ますが、我々の目的はファザーを止めることにある

ので、まずはスカイツリーの上まで行ける事を最優先とします」


 中村小隊長は隊長達の顔を見廻した。


「群衆に穴を開けるのは我々機動隊の役目ですね。我々が突入して道を開けるので、残りの隊は我々の

事は気にせず通過してください」


「刑事チームは最後尾を守ります」


「ではそれで行きましょう」


「準備出来次第、突入します」


 すぐさま大楯を持った機動隊員達が最前列に並び、指揮者の掛け声で隊列を組んだ。


 そしてスカイツリー入口に向かって前進を始めて、群衆の十五メートル程手前で停止した。


 先頭に立つ機動隊隊長が拡声器のスイッチを入れた。


「これより我々はエレベーター乗り場へと向かう。十秒以内に道を開けなさい。さもないと、

強行突破します」


 拡声器の音量を最大にして忠告しても、群衆は全く動く気配すらない。


 そして十秒が経過すると、隊長は徐に、手にした白い指揮棒を、前方に向かって振り下ろした。 


「前へ!」


 合図とともに横に四人が大盾を並べ、二列目、三列目が前の隊員の背中を支えて、入口の中央部に

向かって突入した。


 男達の怒号が地響きとなり、大盾がラッセル車の様に悪意の群衆を掻き分けた。


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