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魔、降る夜  作者: 夢出 啓示


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20/30

20.状況図

 八時五分前にトラックのエンジン音が聞こえ、ガレージのシャッターが開く音が響いた。


 忠道と香帆は急ぎ階段を降りると、中村小隊長と立花班長が数人の隊員を連れて事務所に入って来た。


「おはようございます。昨晩は休めましたか?」 

「はい、ゆっくり休めました」


 香帆が即答した。まさか夜通し愛し合っていたとは言えない。


「早速ですが、本日の段取りを確認させてください」


 立花班長は机の上に地図を広げ、その上に透明のビニールシートを置いた。


 それは関東一円の地図だった。


「これは状況図といって我々が作戦計画を立てるときに使っている地図です。昨日、世利警部補の友人

から頂いた情報を元に、極高エネルギーが観測された地点に赤ペンでX印をつけました。この場所を特殊

武器防護隊の十隊と大宮駐屯地の中央特殊武器防護隊、通称中特防から二十隊を出動させて、綿帽子を

回収して廻ります。それぞれの赤×印に向けて青色の矢印が我々一特防、黒色が中特防を現しており、

回収後は朝霞に戻り、ファザーは隔離、マザーはその場で合体して頂くことで宜しいでしょうか?」


 全員が香帆の持つスマホに注視した。


「はい、それで結構です」


「それから世利警部補の出頭は、こちらの取り調べがあるから遅れると返答しました。時間を稼いで

綿帽子の回収を優先します。回収が一日で終わり体制が整うなら、今夜にでも首相官邸に乗り込みたいと

思います」  


 忠道は中村小隊長の説明を聞いて安堵していた。


 そしてファザーの対決に向けて警察の協力を得たいと考えていた。


「小隊長、最終的にファザーとの対決ですが、私が連行されて対面したときがチャンスだと思います。

拘束方法はその場に行かないとわかりませんが、廻りにいるSPが我々の味方なら、ファザーだけと

対峙すればよいと思います。また憑依された大臣達も、同時刻に一斉に取り押さえてファザーを確保

出来れば、混乱は防げると考えます。で、もし警察の協力が必要なら、私が横浜署の上司と接触して、

刑事を出して貰うように要請しますが如何でしょう?」


「そうですね。在京の閣僚は総理大臣を含めて十八人居ますので、特殊武器防護隊だけでは人数が

足りません。警察の協力があれば一気に制圧できますので、要請頂けますか」


「了解しました」


「只、一つ心配なのが、警察庁長官が憑依されたときに、人とは思えない跳躍をしたので、素手で挑むの

は無謀かもしれませんね。警察の中でも機動隊からも人選頂ければいいのですが……」


「では横浜署の上司に機動隊も出せないか要請してみますよ」 


「助かります」


 忠道は記者会見室で長官の動きを目の当たりにしたが、ファザーという存在を知った後では、人を持ち

上げ、高く跳躍する以外に、天地創造の神としての底知れぬ力があるのではと不安になっていた。


「マザー、教えてください。ファザーが本気を出したら、どんなことが出来るのですか?」


「そうね……」


 マザーが間をあけると、沈黙が余計に不安に感じた。


「ファザーが私と一体ならば、星を消滅させることも出来るけど、二人が分離したのは、今回が初めて

だから、イカズチを放つ程度だと思うわ」


「イカズチって雷ですよね。当たると……死ぬんですか?」


 香帆が訊くと、スマホから笑い声が響いた。


「本来のファザーなら命を奪うかもしれませんが、分離している今は、せいぜい気絶する程度でしょう」


「ファザーもティザー銃を持っていると考えたら良いですね」


 小隊長の言葉に忠道は難しい顔をした。


 イカズチを放たれ、その場に居た全員が気絶したら、元も子もない。


「宿主に意識がないとファザーを体外に出すことは出来ないので、力でねじ伏せるしかないか……」


 その場に居た全員が沈黙する中、スマホからマザーが声を上げた。


「昨日見せてくれた忠道の格闘術なら、ファザーと接触して分身を引き取ろうとしたときに、必ず隙が

生まれます。その瞬間に技を掛けて倒せれば可能性はあります。但し、忠道の身体からファザーを分離

したので、傍に近づけばファザーの分身が居ないことを悟られます。よってファザーの分身を閉じ込めた

容器を身に着けていく必要があります」


「それが一番真っ当な攻略法ですね。ただファザーの分身を持って行った場合、もし上手くいかなかった

ときに、それを奪われることになるので、事態は悪化しますね」


 小隊長の眉間の皺が更に深く刻まれた。


「二の手、三の手まで考えておく必要がありますね」


 香帆の言葉に小隊長は苦笑いで答えた。


「所でファザーを倒すことは出来るのですか?」


 忠道が訊いた。


「憑依された人がファザーを抱いたまま死を選べば、ファザーも共に死ぬでしょう。しかしファザーの

意識がある以上、死を選ぶことはありません」


「そうですか……」


 忠通は俯き唇を噛んだ。


「兎に角、今はマザーの力を取り戻すことを優先しましょう。私の隊は横浜方面向かいますので、


世利警部補と小花さんは私が乗る輸送防護車に同乗して下さい。横浜署にも寄りますので、上司の方に

応援を要請すれば良いと思います。必要なら私も同行しますので」


「それは有難い。電話だと信じて貰えないので、中村小隊長が一緒なら心強いです」


「それでは準備して出発しましょう。お二人はその恰好だと目立つので、我々と同じ個人用防護衣を

持ってきましたので、着替えて下さい」


 後方から隊員が運んできたのは、迷彩服と両目を一枚のレンズで保護する防護マスクだった。


「この迷彩服の生地は新型素材で、化学テロなど危険物を遮断します。防護マスクも昔は楕円形の

レンズが左右に二つあったので、虫の目と呼ばれていましたが、一八式は単眼レンズになったので

視界も良いです」


 二人にとって指名手配されている身なので、顔を隠せるのは好都合だった。


「ご配慮ありがとうございます。早速着替えてきます」


 二人は二階に戻って着替えを済ませた。


 香帆は長い髪を一つに束ねて作業帽を被り、真顔で敬礼すると、どうみてもベテランの女性自衛官に

見えた。


「敬礼が様になって恰好いいね」


「以前取材で陸自の体験入隊に二泊三日で参加したことがあるの。敬礼から始まり行進して整列のやり方

などの基本訓練は受けたのよ」


「それは凄いな。警察官の敬礼と陸自の敬礼は違うの?」


「聞いた話だけど、陸自と航空自衛隊と警察は同じで、海上自衛隊だけは船の中の狭い場所でも敬礼

出来る様に、脇を広げない敬礼をするそうよ」


「じゃ、警察官と同じ敬礼でいいんだね」


 二人は一階に降りると、中村小隊長の前で準備完了しました! と報告して一緒に敬礼すると、小隊長

も答礼で答えた。


「了解」と短く答えて腕を下ろした小隊長は、真顔から急に微笑んだ。 


「二人とも様になっているので驚きました。さあ出発しましょう」


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