18.指名手配
休憩室のテレビでは、真夜中にもかかわらず臨時ニュースが流れていた。
忠道と香帆が指名手配された事を繰り返し、いかにも悪人だという表情が切り取られて、二人の顔が
キャスターの後方のモニターに並んでいた。
続けて警察庁長官が総理を襲い、忠道が阻止するシーンが流れると、どう見ても忠道は勇敢に立ち
向かい、悪意に憑依されるときに拳銃や警察手帳をSPへ託すシーンなど、どうみてもヒーローの
行動だった。
「これを見て二人が首謀者だと信じる奴が居るか?」
激高する中村小隊長に隊員達は首を振った。
次に花山官房長官が二人を指名手配したと発表する映像が流れると、長官の顔が全くの無表情で、
いつも脂汗をハンカチで拭きながら発表する親しみのある姿ではなかった。
「これは官房長官にもファザーの分身が憑依しているようだな」
「確かに、これじゃ内閣の全員が憑依されていると思って掛った方が良さそうだ」
中村小隊長と忠道はテレビの前で、仁王立ちして腕を組んだ。
「何とかして首相と閣僚達の状況を知りたいが、何か手はないか?」
二人が唸っていると、香帆が思い出したようにバッグの中を探していた。
「あった!」
香帆が忠道に出しだしたのは名刺だった。
「忠道が輸送車に載せられる前に、拳銃と警察手帳を託した小暮SPから貰ったものよ。世利警部補の
意識が戻って連絡くれたら引き渡すと言っていたわ。SPだから警護対象の情報は知っている筈よ」
「そうだな、ただし素直に教えてくれるかは疑問だが、交渉してみる価値はあるな」
忠道はすぐさまスマホで連絡を入れた。
すると学と違い呼び出し音一回で応答があった。
しかし電話は無言のまま、相手が名乗るのを待っている様子だった。
「横浜署捜査一課の世利です。木暮SPのスマホでしょうか?」
「世利さん、ご無事でしたか。電話できるということは、まだ拘束されていないのですね」
「はい、今、朝霞駐屯地の第一特殊武器防護隊の隔離室にいて、悪意は身体から分離出来て、中村小隊長
の監視下におります」
「それは良かった。私は世利さんが憑依から解放されたらすぐ電話が来ると思い、待っていました」
「そうですか……お気遣い頂きありがとうございます」
忠道は木暮SPが総理大臣の異変を知っていると確信した。
「木暮さん、単刀直入に言います。総理大臣への悪意の憑依を阻止した私と、連れの小花記者が指名手配
されたことは、間違いなく総理大臣に別の悪意が憑依して、その指示を下したのだと推測しました。
もしかしたら内閣の全員が悪意に憑依されているかもしれません。いつも傍に居て警護している皆さん
なら、異変に気付かれましたか?」
「はい、我々も憑依された現場は誰も見ていないのですが、あの騒動の三十分後から、あきらかに異常な
言動と指示が出される様になりました。私はSPよりも先に身を挺して総理大臣を守った貴方の行動は、
目の前で見ているし、動けなかった自分を責めているほどです。ですから首謀者で指名手配されるなど、
あきらかに間違った命令です。もう悪意に憑依されているとしか思えません。ただ我々の上司も命令には
従えというだけで、もしかしたら上司も悪意に憑依されているかもしれません。よって世利さんが、必ず
連絡をくれる確信していました」
忠道は自分の正義感を信じてくれる木暮SPの言葉に、素直に感動していた。
そして忠道は悪意を持って人に危害を加えているのはファザーで、別に味方になってくれているマザー
の存在を伝えた。
そして現状を把握して、総理以下、憑依された内閣メンバーを救うべく行動を起こしたいと伝えた。
「了解しました。多分、内閣メンバーで海外へ出かけている外務大臣以外は、全員、ファザーに憑依され
ていると思います。各大臣は現在自宅へ帰っており、明日の朝九時から、閣議があるので全員が登庁する
予定です」
「そうですか、では憑依されていない外務大臣に連絡を取って、事情を説明して頂きたい。そして閣議に
は出席せず、安全な場所で待機して頂き、決起するときには後ろ盾になって欲しいです。一人でも正常な
大臣が居ないと、ただのテロとなってしまうので。特殊武器防護隊が主導してくれると思いますので、
是非とも我々にご協力願います」
電話を終えた忠道は会話の内容を隊員達と共有した。
そして学から届いた観測地点の情報を元に、作戦会議が開かれた。
休憩室の壁に設置されていたホワイトボードに、段取りが書き出された。
一、綿帽子の回収――一特防の十隊と中特防へ出動要請
二、ファザーは保管しマザーは本体と合体――朝霞一特防の気密室
三、閣僚達からファザーを抽出――SP、機動隊?警察?へ出動要請
四、最後にファザー本体と対決――マザーと全員
藤木副小隊長が書き上げた段取りを眺めて、中村小隊長が椅子から立ち上がった。
「よし、これから陸上総隊司令部へ連絡して協力を仰いでおくから、行動は明朝九時からとしよう。
お二人は我が隊の特別宿舎で休んで下さい」
「指名手配されているので助かります」
忠通と香帆は同時に苦笑いして頭を下げた。




