↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔、降る夜  作者: 夢出 啓示


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/30

17.限界を超えた愛の行方

「小隊長、防衛大臣補佐官から緊急の連絡です。中村小隊長に直接伝えると指示がありました」 


 小隊長は差し出された衛星電話を受け取り名乗った。そして無言で指示を聞きながら、忠道と香帆の

顔を見た。


「それは誰の指示ですか?」 


 小隊長の怪訝な顔が事の重大さを物語っていた。


「補佐官、我が隊は正当な命令を受けてのみ動きます。大泉防衛大臣から直接、第一師団長へ命令を

出して下さい。正式な命令系統で指示が来たら動きます」 


 電話を切った小隊長は、椅子に座って深くため息をついた。


「どうやら、最悪の事態になったようだ。君たち二人が今回の無差別殺傷事件の首謀者として、指名手配

されたそうだ。内閣総理大臣の命令でいますぐ拘束して、明日の正午に首相官邸へ護送するようにとの

指示でした。しかし先ほど返答した通り、補佐官を名乗っても本物かどうか確認が取れないので、

朝霞駐屯地指令である第一師団長へ命令を出すようにと返したので、正式に指示が来たら対応を

考えましょう」


「世利刑事は総理大臣の危機に身を挺して救ったのよ。どうして犯人になるの?」


 香帆が立ち上がり、怒りの表情で訴えた。


「我々も生中継を見ていたので、世利警部補の動きはヒーローの様に見えましたよ。だから我々が

目にした真実は変えられません。嘘の命令に従ってヒーローを差し出すことは、たとえ自衛隊トップの

内閣総理大臣の命令であっても、我々特殊武器防護隊は拒否します。安心して下さい」


「ありがとうございます」 


 香帆はほっとした表情で忠道に視線を送った。


 忠道は立ち上がって手錠で痛めた手首を摩りながら、その場に居た全員の顔を見回した。


「私の推測では、記者会見の場で襲撃したのは囮で、ファザーの分身が潜んでいて、誰も気が付かない

場所で、総理大臣に憑依したのではと思います」


「そうだな、それしか考えられない。ということは、奴らは世利警部補に憑依したファザーと再び合体

することを企んでいそうだな。そして合体できたら、何かとんでもない事が起きそうだ。これは我々と

乗っ取られた国家権力との戦いになるな。二人が捕えられて日本が滅びるのか、それとも我々がファザー

を阻止して、国民の命を守れるかだな。だがどうやって立ち向かえばいいんだ?」


 中村小隊長は素直に困った。


 防衛大時代に仮想敵国による侵略は研究を重ねたが、宇宙からの侵略に対するシミュレーションなど

想定外であり、あきらかにウルトラマンの世界の話だった。


「小隊長、ファザーとの戦い方は先ほどマザーに質問され、まだ回答を聞いていないと思いますが……」


 香帆は忠道と目線を交わした。


「確かにそうだ。マザー教えて頂けますか。我々はどう戦えば良いのでしょうか?」


 その場に居た全員が、香帆が手に持つスマホに注視した。


「先ほどからファザーの意識を探ろうとしましたが接触できません。ファザーの意図が分からない状態

なので、まずは散らばっているファザーの分身の回収と、私、マザーの回収も並行で進めて欲しい。

そして回収したファザーの分身は人目に着かない所に分散して隠し、マザーの分身は私と再び一体と

なり、ファザーとの戦いに挑みたいと考えます」 


「了解しましたが、ファザーとマザーの分身が散らばっている場所は分かるのですか?」


 中村小隊長は顔を上げて忠道の顔を見つめた。


「今回の宇宙線の飛来は宇宙線研究所に勤めている親友の情報でした。


 飛来した地域は網の目の様に各地に設けられている観測機器で受信したものです」


 忠道は香帆の顔を見つめた。


「――私の勝手な推測ですが、宇宙線を身体に直接受けた人々が凶行に走ったなら、観測機器に

ぶつかった宇宙線は、その場所に留まっているかもしれません。電車の屋根を突き抜けて中の

乗客に憑依しているので、観測機器の受信面を通過して、機器の内部に留まっている可能性は

あるのではないでしょうか?」 


忠道の意見に香帆は目を丸くした。


「すぐ学に連絡とりましょう。それと受信データーの中で、特に高エネルギーを受信した場所が分かる

なら、大きいファザーかマザーの分身がいると推測できるので、その情報も聞いたらいいわ」


 香帆はショルダーバッグから忠道のスマホを取り出して手渡した。


 そして気密室に居た全員が隣の休憩室へ移動し、忠道は窓際に立ち、学のスマホへ連絡を入れた。


 コールするが呼び出し音が続くだけで電話に出ない。


 時計を見ると午前一時時過ぎだった。


――流石に寝ている時間だよな。


 呟く声が届いたのか、呼び出し音が止み、息を切らした学の声が聞こえた。


「おい、どうした。大丈夫か?」


「忠道か? 良い所で電話くれて……ありがとう。愛ちゃんに愛され続けて、もう下半身の感覚が

無い……」


「――取り込んでいる様だから、また明日にするか?」


「今、シャワー浴びに行ったから……大丈夫だ。ところで生中継を見ていたけど、憑依された奴は

分離できたのか?」


「今、朝霞駐屯地に居て、悪意の分離と例のパスタの瓶に閉じ込める事に成功したよ。悪意の名は

天地創造の神でファザーと言うんだが、ファザーが居れば、マザーもいらっしゃって、今、マザーは

香帆に滞在している。天地創造の女神様だよ」


「天地創造の神? 女神様が香帆に滞在?」


 学は疲労と寝不足で、忠道の話の意味が全く理解できなかった。


「そうそう、真夜中に、お前たち二人が指名手配されたと臨時ニュースで流れていたが、冗談だよな」


「それなんだが、別のファザーが隠れていて、俺が警察庁長官を阻止したあと、総理大臣に憑依した

様だ。それで俺らを悪者にして、捕えたファザーの分身を取り返すつもりの様だ」


「それは難儀だな。おれも幸せを通り過ぎて……今は難儀しているが……で、要件は何?」


「まだ散らばったファザーとマザーの分身がいるようだから、宇宙線が観測された地点を詳しく教えて

欲しいんだ。ファザーが直接当たった人は事件を起こしただろう。だから観測装置に当たった分身は、

そのまま観測装置の中にいるのではと推測したんだ。だから極高エネルギーが高い順に場所を教えて

欲しいんだ」


「分かった。パソコンで研究所のデーターを分析して結果をスマホに送るよ」


「どの位かかる?」


「十分位で分かるかな」


「所でファザーは何を企んでいるんだ?」


「人類の滅亡だよ」


「そうか、分かった。すぐ調べて連絡する」 


 聞き返す事もなく電話を切った学は、人類の危機よりも、自分の身に実際起きている限界を超えた

愛の行方が、一番の問題だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。