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魔、降る夜  作者: 夢出 啓示


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12/30

12.朝霞駐屯地

 そのとき迷彩服を着た陸自の隊員達が記者会見室に入ってきた。


 ストレチャーが運び込まれ、気密防護衣を装着した隊員達が、忠道を取り囲んだ。


 そして防護マスクを小脇に抱えた指揮官が最後に到着すると、敬礼して周りを見渡した。


「朝霞所属の第一特殊武器防護隊十名到着しました。小隊長の中村です。未知の生物を捕獲するようにとの命令を受けて出動しましたが、責任者は何方ですか?」


「私が警備の責任者です」


 声を上げたのは木暮SPだった。


「状況は?」


「当初、坂口長官に憑依していたものが抜け出し、現在、横浜署の世利警部補が憑依され、ティザー銃を

使って、この通り動きを止めました。押さえつけると、憑依したものが抜け出すので、押さえつけずに

運びだして頂きたい」


「了解、で、その後は?」


 中村小隊長の問いに、木暮SPは香帆に視線を送った。


「私は横浜新聞社の小花です。世利刑事とは幼馴染で、宇宙線の飛来はもう一人の幼馴染である、

宇宙線研究所の天海研究員が観測し、三人で事件を調査してきました。この宇宙から飛来した何者かは、

押さえつけられたら宿主から離脱するのを現場の映像で複数確認しました。よって世利警部補を押さえ

つけずに運びだして頂き、バイオセーフティレベル3以上の施設に搬送して下さい。そして気密室で

防護服を着た上で彼を拘束して頂き、白い綿帽子を抜け出させて確保し、調査して頂きたいです」


 香帆は忠道のバックから、パスタ瓶を取り出した。


「身近なものですが、この瓶なら抜け出した綿帽子を確保できるのではと」


「分かりました。確保方法は別途、相談するとして、早速、世利警部補を搬送しましょう」


 隊員達は運んできたストレッチャーを忠道の横に置き、六人で忠道の身体を持ち上げて、そっと

ストレッチャーの上に乗せた。


 全員が距離を置いて身構えたが、白い綿帽子は出なかった。


「よし、振動を与えない様に運び出すんだ」


 中村小隊長の命令で、忠道が乗せられたストレッチャーは静かに運び出された。


 官邸のエントランスにはNBCテロ対策車が停車し、後部の大扉が開かれていた。


その車は六人が座れるキャビン部とは別に、後部にコンテナの様な密閉出来る部屋が設けられ、

内部からは開けない構造になっていた。


 左右には座席が設けられ、ストレチャーは、床の中央に固定された。


 そして扉が閉められると、三重のロックが施された。


 香帆は不安げな表情で作業を見守っていたが、指揮していた中村小隊長に声を掛けた。


「私も一緒に連れて行って頂けませんか」


「小花さんは報道関係者でしょう。マスコミは連れていけません」


「私は世利警部補の婚約者です。それに白い綿帽子の映像を複数確認しており、綿帽子の確保に協力

できると思います」 


 食い下がる香帆の勢いにおされて、中村小隊長はちょっと待ってと


合図して、無線で話始めた。暫くやり取り後、小隊長は諦め顔で軽く微笑んだ。


「世利警部補のチームには全面協力するようにと、部隊長から命令が下りました。さあ、乗って下さい」


「ありがとうございます」


 香帆は満面の笑みで感謝を伝えた。


 後部座席に乗った香帆は走り出した車内でパソコンを取り出し、極高エネルギーの宇宙線を浴びた

人々が、事件を引き起こしたという経緯を中村小隊長に説明した。


 そして拘束時に犯人から抜け出す綿帽子の映像を見せた。


「ニュースで事件を知りましたが、何故、同時に無差別殺傷事件が発生したのか、一番の疑問でしたが、

今の説明で納得できました。それに長官から抜け出した白い綿帽子が世利警部補に憑りついたシーンは、

生中継を見ていたので、今でも信じられませんが、事実として受け入れるしかないと思います」


 香帆は忠道から預かったショルダーバックから、パスタの瓶を取り出した。


「私たちはあの白い綿帽子が抜け出したら、この瓶を使って確保出来ないか考えていました。


 記者会見室では混乱の中で綿帽子を確保できなかったので、密閉室で防護服を着た上で、慎重に

行えば、綿帽子を捕獲出来ると考えています」


「そうですね。朝霞のバイオセーフティレベル4の施設にも気体分析装置が揃っていますので、確保の

段取りは着いてから検討しましょう」


 NBCテロ対策車はパトカーの先導で、空いた首都高五号線を北に走り、三十分程で朝霞駐屯地に

到着した。


 封鎖されていた正門のバリケードが解かれて、車両は駐屯地の中へと進み、敷地の端にある金網の

フェンスに囲まれた場所へとやってきた。


 後席の中村小隊長が顔を出して、目配せ一つでゲートが解放された。


「ここが我々の所属する第一特殊武器防護隊のエリアになります」


 車両はエントランスへと続くアプローチを進むと、玄関横にある大きな扉が開かれた。


 そしてNBCテロ対策車はバックで建物内部へと入り、車両が完全に室内に入ると、入口の大扉が

閉じられた。


「ここは全国に四か所しかない、バイオセーフティレベル4の施設です。以前、第一特殊武器防護隊は

練馬駐屯地に居たのですが、このレベル4の施設建設に伴い人口密集地では細菌漏洩等が発生したときに

市民への影響が大きいということで、敷地が広く訓練場や弾薬庫もある朝霞駐屯地に移転しました。

バイオセーフティレベル4というのは、施設外への細菌や病原体の漏出を防ぐ為に、何重もの

セーフティゾーンが設けられており、万一事故等が発生しても外部には絶対流出しない構造になって

います」 


 中村小隊長は説明しながら、香帆をコントロールルームへと案内した。


 扉が閉じられると、ガラス窓の向こう側で、NBCテロ対策車の後部扉が開かれ、防護服を着た隊員

たちが、車内からストレッチャーに乗せられた忠道を下ろし、ガラス窓に囲まれた部屋へと運び込んだ。


 隊員たちは部屋の中央の床にストレチャーを固定すると、忠道の身体を拘束していたバンドを緩めた。  


 そして隊員たちが退出した後、密閉扉が閉められて扉はロックされた。


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