36.暴力酔い
美鈴は一人の時間に、最近気になることについて考えていた。
それはズバリ、たまに出てくる透華っぽくないライカは一体なんなのか…という話である。
美鈴はそこそこ記憶力が良いので、ライカが狂った時についてそれなりに覚えていた。
暴力…そう。暴力。
決まって戦闘…或いはそれに類する行為をやっている時に現れる傾向がある…気がする。
『くふふっ…くふふふふっ!』
そんな笑い声が頭を反芻する。
反射的にビクッと身体が跳ねた。
『ベルカ、私、強かった?』
…荒らしを狩ったあの日も…まるで酔ったみたいに幸福そうな…溶けたような表情をして…
今思うと…あれも…そういう面が出ていた…ということだろうか?
…だんだん見えてきた。
つまり、あの子…ライカというべきか、透華というべきか…とりあえずライカと置こう…ライカは、おそらく暴力を振るうと酔うのだ。で、振るえば振るうほど快楽に脳がやられる…おかしいのはその後で、ライカはいつの間にかケロッと戻っているのだ。
……透華を少し試してみようか?
美鈴はそう考えた。
翌日、透華と美鈴は何故か柔道場に来ていた。
理由は簡単で、美鈴が先生と生徒に許可をもらって、廃部寸前の柔道部から借りたのだ。
で、何故美鈴がそんなことをしたのか…それは観察のために、透華に『暴力の練習』をして欲しいためである。
本人には『…やっぱり、リアルでもそれなりに練習しないと、どんなに力が強くても上手くそれを扱えないんじゃない?』と説明した。
ちなみに美鈴は小中学校でそこそこ柔道をやっていた。
まあ…家族の事情で中学二年に柔道部を辞めて以来部活としてはやっていないのだが。
まずパッと1時間程度、透華に軽く立ち技を教えた。
受け身に関しては…まぁ透華が希望するなら教えることにする。
珍しいことに、右利きなのに左組みをするタイプで、背負い投げをさせてみたところ、結構良い感じに飲み込んだ。
特に、割と練習が必要な足回りが結構良い感じで、ある一点を除けば、数ヶ月やった程度の人間とそう変わらないくらいである。
その一点とはズバリ、身体能力である。
まず握力が弱い。小指から順に力を入れていく握り方を教えても、変わらず弱い。
次に、軽い。それに、押され慣れていない。
多少押されただけでよろけてしまうくらい弱い。
「…ど…どう…?美鈴…」
………スジは良いし、才能はあるけど…透華は終始申し訳なさそうというか、なんだか縮こまっているというか…見ていてこちらが苦しくなって、包み込んでしまいたくなりそうな…というか…とりあえずそんな感じなのだ。
「良い感じ。もしアレなら明日も教えるよ」
その言葉に透華は少し微笑んだ。
そこにライカのような…『酔っている』という印象はなかった。




