15.美味しいご飯と、泡の出るお風呂
「ふふふ…透華ちゃん、召し上がれ…!」
美鈴っぽい女性はそのように言い、透華の前に次々と料理を出した。
ローストビーフと、蒸したじゃがいも、ビーフシチュー、そしてたくさんのパン。
透華の前に出された2つの小皿は異様に大きく、パンやビーフシチュー、ローストビーフなんかが美鈴の手によってどんどん盛り付けられていく。
「え…え……?」
透華は少食である。
なので、食事に招かれたのに食べ残してしまう…というマナーの悪い行為をしてしまうかもしれないと、少し不安になった。
「さ、食べてみて!」
美鈴は笑顔でそう言う。
「あ…え…い、いただきます…っ」
恐る恐るローストビーフを食べてみる。
「っ…!?」
美味しい。柔らかい。お肉の匂いが鼻を抜けていく。
スーパーのローストビーフよりもずっと美味しい。
「どう?朝から仕込み、大変だったのよ」
美鈴っぽい女性はそう笑う。
透華はハムハムとローストビーフを噛み、そして呑み込んだ後、口に手を当てながら言った。
「美味しい…です」
「ふふっ!どんどん食べてちょうだいね?」
今度はパンに手を付ける。
マジックソルトとオリーブオイルを使っているようで、カリカリとしたパンに合った独特の旨みを醸し出している。
「…っ!?」
こんな美味しいパンがあるなんて。
…と、透華は思った。
「透華、どう?すっごい幸せそうな顔をしてるけど」
美鈴はそう言い、顔を覗き込んでくる。
ハムハムと咀嚼し、呑み込んで、再び透華は言う。
「……美味しい」
数十分後。
透華は困り果てていた。
……どうしよう。お腹がいっぱい。
「だ…大丈夫?顔色悪いよ?」
「その……えっと…ごめんなさい…!もう…食べられなくて…!」
透華は辛そうな顔で頭を下げた。
2人はキュンとなった。
なんて、律儀な子なのだろうと。
「いいよ、いいよ!透華がたっぷり食べれたのならそれで良いの!」
「あら〜…透華ちゃん、お風呂沸かしておいたから、良かったら入ってちょうだいね!」
2人はにこにこと笑って、そう言った。
錦田家のお風呂はたくさん泡が出るタイプのお風呂だった。
透華は溶けたような表情をして、そこに浸かった。
美味しいご飯をお腹いっぱい食べて、お風呂に入る。
…いつぶりだっけ…こんなこと。
そんなことを思った反面、彼女は焦ってもいた。
…私が私じゃない気がする。
人間は2つの矛盾した意見を持った場合、往々にして片方の意見だけを採用することが多い。
だから、透華は切り捨てた。
「……まぁ…いっか」
透華は美鈴のぶかぶかな服や下着を何とか着て、美鈴の部屋に入った。
美鈴はまだ来ない。お風呂に入っているから。
なので、ベッドの上に座り、少しだけボーッと待つことにした。




