道
――紹介するよ。この国の子飼い。魔法使いの『ユエ』だ。
楽し気に紹介されましても。――この状況で。と私たちは悲鳴をあげながらその場を離れていた。振り向くと死ぬ。絶対死ぬ。
背中から感じるのはとてつもない熱量。オースが魔法で防いでくれなければ消し炭になっていた事だろう。足や頬に瓦礫がぶつかったがそんな事は些細な事だろう。
人が一人入れる程の大きな柱を見つけると私たちは一息ついてた。どさりと王様が地面に物のように置かれて、オースは大きく『助かった』と息を吐いた。その額にはジワリと汗が滲んでいる。
「お。おじさんは……」
ちらりと後ろを見るが埃と炎でよくは見えない。私たちが逃げ出す前元気そうに魔法使いの紹介をしてくれてたけども。
死――と嫌な予感がして私はぎゅうとオースの服を掴んでいた。ほぼ無意識なので下心なんてあるはずもないだろう。
「いや、死なないだろ。あの人」
「でも。おじさんはただの研究者――」
なに。その哀れなものを見る目は。ワザとらしい溜息一つ聞こえてくる。
「あれがただのそれに見えるか? よく考えたほうがよくない? この国から、王宮から平然と竜を保護。いつでも何処でも突然現れる。いろんな事の事情に詳しく、各国に顔が利く――そんな研究者はいないだろ?」
「……凄いんじゃなくて?」
「凄いんだよ」
という言葉と共に被せる様に爆音が響いた。震える地面。曇天でもなく晴天だというのに、雨がさぁっと振り微かに足元に水溜りが出来ていた。
一体何が起こっているのか。大きな音とは別にかんかんと小さな甲高い音などが聞こえてくるが飛んでくる埃や塵。風を巻き込んだ灰で見えうることはない。空を仰げば粉塵の間に微かな空が見えた。
再びの爆風に小さく悲鳴を上げる。
「魔法使いとしてな」
「まほう、つかい?」
おじさんが?
「そんなことより、此処が壊れる前に終わらせないと」
ぐっとオースは私の手を引っ張り駆け出した。少しつんのめってから、私はオースに半ば引き摺られるようにして駆け出すしかなかった。
「壊れるって」
「壊れるだろ? 魔法使い同士が本気でぶつかってんだから。今度は罪人という称号ではなくて、国を滅ぼした悪女として後世に語られるだろうなぁ。いや、世界か? 兎も角。竜を救えずにそれでもってあの戦いが止まらなければそうなるかなぁ」
「えぇ……私の所為なの?」
私。一般人なんですが。なに。その称号。嫌すぎるんですが。大体此処を壊すのはおじさんたちの勝手で……。
「違うのか?」
ぐ。と小さく喉を鳴らす。違わなくもない。違わなくもないけれども。ここに来たいと願ったのは私なんだし。私を助ける為に――おそらく――おじさんはここに来てくれたわけで。
「で、でも。先輩を救えばチャラに? 私は伝説にならない?」
実際はそんな簡単なものではないだろうけれど。
私は基本難しく考えるのは苦手だ。よくよく考えれば『脳筋』と呼ばれた家系の賜物なのだろう。嫌だけども。非常に嫌で信じたくないけど。今のような状況になれば思い知らされるしか無かった。『いつだって真っ直ぐで前向きだね』というのが私に対する先輩の評だ。オブラートに若干包まれているのがとても気になるけれども。
だから考え方はシンプルに。『たぶん』と言うオースの答えに軽く口端を上げる。
「じゃあ。終わらせよう」
纏めて解決する方法があるのなら何も考えずに飛び込んでしまえばいい。ちらりと私を振り返ったオースはにっと口を歪めて見せた。
「そうだな。いい加減俺も子守りは嫌だし」
「誰が子供だよ。そんなことより、行先はこっちで合ってるの?」
「……あ」
あ。ってなに? 変な質問はしていないはずで。嫌な予感しかしない。
……。
笑顔のままで止まったオース。私たちの間に軽い沈黙が走っている。あ。鳥が窓の向こう羽ばたいたなー。なんてぼんやり考えていた。
現実とはいつだってそう言うものだよね。
一拍置いたのち私は静かに口を開いていた。
「馬鹿なの?」
「ば、馬鹿に馬鹿と言われたくないんだが? 詰めが甘いと言ってくれた方が助かる」
「開き直られても困るんですが」
果たして魔法塔はどのあたりなのか。私は近くの窓から身を乗り出して辺りを見たが、街とは違い美しい庭や建物が広がるばかりである。
……一部現在破壊中だけども。
どうするか。と考えていた時に小さなうめき声が耳に入ってくる。苦しそうな、しわがれた声だ。今にも死にそうな――と考えて。漸くその存在を私たちは思い出していた。
きりっとした目でサムズアップをしておく。
「ナイス」
「……親指立ててるの腹立つな」
馬鹿にしたつもりはないのだけども。
兎も角として何処かじっとりとした目で私を見、オースは抱えていた王様を荷物のように地面に落としていた。少し乱暴だったためか強めにうめき声が聞こえてくる。それと共に王様は意識を戻したようだった。
驚愕をしたように目を見開くと私たちをその瞳に交互に映す。
「な……貴様ら」
「おはようございます?」
何か違う気もするがまぁいいか。
「あの。大丈夫ですか? 何処か痛むところとか」
痛んだところで私には何も出来ないのだけれど。人として一応聞いておく。伸ばした手を弾くくらいには元気があるようだ。手負いのおじいちゃんと言ったところか。警戒で目がギラギラしている。いや、私たちはおじさんと違うので突然蹴れあげたりしないと。
しないよね。と無言の圧をオースに掛けたがそっぽを向くとは……。
「何のつもりか?」
「いや、魔法塔に案内してほしくてですね」
「――竜を止めるか?」
私は頭を振った。
「助けるんですよ。どちらにしてもこのままではいけないでしょう? 私は先輩に会わないと」
『その言葉遊びに何の意味がある』と王様は言いたそうだったが、辺りを見回して孤立していることを悟ったのか溜息一つ大きく付いて見せた。疲れと痛みも会ったのかも知れない。それ自体を吐き出すように。
一拍。
「――よかろう」
王様は静かにそう言った。




