表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
閑職のエリアル  作者: stenn


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/24

時間切れ

 どうやら私は『あの日』から丸二日眠っていたらしい。よほど疲れていたのか、それともおじさんの催眠術――先輩曰く――が凄いのか。兎も角運ばれた先は、案の定というか、何というか。実家だった。


『さぁ、吐け。吐くんだ。これまでを洗いざらい』と言った兄――スノウの言葉に素直にこれまでの事を話せば父は卒倒し、母は『逃げる用意を』と右往左往し始め。兄は『竜!』とそれぞれ別のベクトルでパニックになった。まぁ、少し落ち着いてから説教を頭ごなしにされたのだけれども。主に兄が。


「お前が動かなければ、世界は平和だった、って言われても」


 確かにそうかもだけどさ。と若干不貞腐れながら独り言ちる。


 お前は病み上がりなのだから外に出て反省していなさい。と慌てて旅支度をする家族をよそに小さな庭でリンゴを齧っていた。時折、『帰ってたんか』と村の人がちょっかいを掛けに来るがそこはうまくごまかしながら今に至る。誤魔化せているのか謎だけど。さっき『おんや、まぁ。どこか行くのかねぇ? 土産よろしく』とか近所のばあ様が通り過ぎたし。多分、明日には私が帰ってきたこともどこかへいく事も伝わっている気もしなくもない。


 サクッと小気味いい音を立ててもう一口リンゴを齧る。首都のものより少し酸っぱい。


「黙って動かなければ良かったのかな」


 確かにそうなのかも知れないけれど。――それはなんか気持ち悪くて。でもその結果多大なご迷惑を掛けてしまったのだからまぁ動くなって事なのだろう。


「でも、それがエリアルのいい所だよね? 悪い所でもあるけれど」


 ふと聞こえた声に顔を上げれば、先輩が立っていた。どうやら荷造りを手伝わされていたらしいその手はいつもの手袋ではなく、軍手が嵌められている。さすがに私は断ろうとしたけど、本人が『大丈夫だよ』とにこにこしているので父と兄に連れ去られてしまった。


「あの。ごめんなさい。手伝わせてしまって」


「楽しいから、問題ないよ」


 両手にマグカップ。その一つを私に渡すと私の隣に腰を掛ける。その視線の先には荷造りに薪はいらないのに薪を割っている父がいた。


 職業――木こりだから……いや、関係ないし。


 溜息一つ。


「にしても。此処を出ないとダメですかね?」


 首都に帰って何となく謹慎ぐらいでお願いしたい……。せっかく試験にも受かって――ぎりぎりだけど――官僚にもなって……下っ端だけど……これからっていうときに。


「うーん。無理だと。父が言うには職場は解体されて同僚のほとんどが左遷させられたらしいし。リアムさんは一時拘束。尋問を受けたって話だよ」


 言いながらビラピラとおじさんからの手紙らしいものを懐から出した。此処から首都までは相当な距離で当日届くと言うことはまずありえない。であるので魔法なのだろうけれども……おじさんの人脈が怖い。竜もそうだけれども。


 ではなくて。


「店長さんが?」


 私は声を上げていた。


「大丈夫だよ。苛烈なものではないしすぐ釈放されただろうから。恐らくエリアルとの関係性や言動を探っていたんだと思う。――例えば何処で『オース』と知り合ったのかとか、ね。向こうは捕まえる気満々だし、父がいろいろ誤魔化してくれているけれど此処も見つかるのは遅くないよ」


「私の所為で皆が?」


「――まぁ。そうだね」


 一度戻った方が良いのかな。考えながら私は視線を落としていた。まさか同僚迄巻き込まれているとは――。戻ったらなんとか。


 ……ならないよなぁ。主に私が。はははは。はぁ。


「戻る?」


 ひょいと覗き込まれて私はびくっと背中をのけ反らせていた。いきなりは心臓に悪い。『止めて』と半眼で見れはくすくすと笑っている。なんだか悔しくて口をへの字に曲げて、リンゴを齧る。


 小気味いい音を立てて咀嚼し、飲み込んでから口を開いた。


「今は戻りませんよ。オースや竜さんが命を掛けてくれたのに。そのために先輩やマム。おじさん迄心配かけたのに、何の計画もなく戻りません。――皆には悪いけれど」


 怒ってるよなぁ。職場失くしちゃったし。店長さんに至っては尋問だしなぁ。落ち着いたら一度会いに行かないといけないだろう。それが何時になるか分からないけれど。


 私は考えた後でパッと顔を上げていた。


「そう言えば、先輩はどうやってここに?」


 何度も言うが首都からは遠い辺境の村だ。一日や二日で来れるはずもなかった。いつも一緒で違和感なく私の側にいたけれども、よく考えればそんなに日が経っていないのにどうやってきたんだろう。


 先輩は肩を軽くすくめた。


「――ぁあ。オースが魔法で向こうに戻ったからその入れ替わりに魔法で送ってもらったんだよ」


 向こうとはマムの所に。という事らしい。マムはオースが護るので大丈夫なようだ。多分。何となく『頑張れ』という声援を心の中で送っておく。


 好きな人に振り向いてもらうというのはなかなか難しいからね。数々の男女を見てきた猛者を舐めないでほしい。尚叶った人はいない。


 どんな美女でも美男でも……難攻不落の壁なのか何なのか。私はちらりと先輩を見た。悔しいくらいに相変わらず美人である。この人たらしがと言いたくなるわ。


「ね。これからどこに行くの? 向かうところがあるみたいだけれども」


「あー。マ、母が隣国(サマール)の出身なんですよ。暫くは実家に厄介になるって言ってましたね。外国まではさすがに追いかけて来ないかと」


 一体どうやって知り合ったのか、母は隣国の王家の末端の出であったりするお嬢様だ。まぁ、末端も末端なので祖父母は平民と同じ暮らしをしているけれども。なので、母がお嬢様らしいところはその顔立ちと髪色くらいだろうか。……私たち姉弟は父のうっすい顔と厳つい体つきを受け継いでしまった。よく見れば美人に見えなくもない、らしい。なんだか解せない。


 先輩は視線を持っていたカップに落とした。その双眸が軽く揺らめいている。


「……そう――寂しくなるね」


 寂しく――。


 そこでようやく気付いた。先輩は一緒ではないのだと。なんだか当たり前のように一緒に来るんだろうなと思っていた自分が恥ずかしい。そして些か波打つ心を見ないようにして先輩に問いかけた。


「先輩は首都に?」


 まぁね。と肩を竦める。


「まだ辞令見てないけどそうだろうね。僕が居なくてもきちんと食べないとダメだよ。部屋もかたずけないと」


 うーん。この保護者感。と苦笑を浮かべる。私だってやればできるんだよ。やればできる子。片づけに意義が見いだせないだけで。


 とにもかくにも先輩よりはマシだと思う。若干方向性は違うけれども。多分マシだ。


「先輩こそ。確りしてくださいよ。私はもう助けられませんので。泣いても助けてあげられませんので」


 どうやらそのことは失念していたらしい。絶望的な顔を先輩は浮かべていた。相変わらず昔から何も変わりはしない。いくつになってもびっくりするくらい綺麗になっても、先輩は先輩だ。苦笑を浮かべてしまう。


 でも、先が思いやられるなぁ。


 はぁと疲れたかのように小さく息を吐く音。先輩は視線を空に投げる。そこには蒼穹が何処までも広がっていた。


「でも、本当に助けてほしい時は何処までも、どこにいても駆けつけますのでいつでも連絡してください。いつだって私は先輩の親友なので」


「――」


 貴方に、『誰か』が見つかったとしても――。


 向こうで父が手を振っている。どうやら巻き割が終わったらしく、手伝えという事らしい。『はいはい』と呟きながら私は立ち上がって先輩を見下ろし、手を伸ばす。もちろんリンゴとカップは地面に置いたままで。


 先輩は少し驚いたように目を瞬かせた後で、嬉しそうに顔を破綻せた。何が嬉しかったのか……よくわからない。ただ、突然の破綻は驚くから止めてほしい。


 自身の美形度合いに自覚が無い人はこれだからとぶつぶつ言いたくなってしまう。こんなのだから随時人を惹きつけてしまうし追いかけられるわけで。


 本当に先が思いやられる。


 ……。


 ……次に会った時に『擦れて』たらどうしよう。


「何を考えてるの?」


「ははは。無意味な心配を。やっぱり残った方が良いかも、なんて思ったりしました」


 想像すらできなくて、なんか考えて疲れてしまった。


 先輩は私の手をぐっと握りこむとゆっくりと立ち上がった。何時頃から見上げるようになった先輩の顔。水色の双眸が溶けるように私を見つめている。


 まるで――。と考えて軽く頭を振った。


「でも、行くんでしょう? 行かないと」


 まぁ。そうなんだけれども。良くて処刑。悪くて実験台だからね。あのサイコ……怒ってるだろうなぁと漸く存在を思い出していた。いや、楽しんでる気すらする。


「心配なんですよ。……まぁ、すぐ戻れると思います」


 多分。戻れたらいいな――という希望だけれども。と苦笑を浮かべるしかない。


「うん――」


 何処か寂し気に言いながら先輩は手袋を取ると私の頬に触れた。記憶だけではなくまるで感触に残そうとする掌は冷たい。そして心地よかった。心地よいので思わず目を閉じた私は悪くないと思う。その間先輩がどのような表情をしていたのかは分からなかったけれど、ピクリと小さく指が震えるのだけは分かった。


「せんぱ――」


「やっぱり君が好きだ」


 静かな空間の中で万感を込めた声が響く。にこりと微笑んだ顔は柔らかく、何処か泣きそうにも見えた。


「――え?」


 一瞬何を言われたのか理解できずに同時に時が止まったように感じた。


 脳が動き出して、理解して。思わずひゅっと飲んだ息。その頃にははらはらと分解する様に消えていくのは先輩で。ほとんど無意識に慌てて手を伸ばしていたが私の手は何一つ触れることは無い。なにも、残らなかった。


 まって。なんで。行かないでほしい。理解が追いつかない。


 まるでそこには何も、誰も居なかったように風が吹いていた。まるで冬を告げる様な冷たい風だ。


 幻でも――と考えて首を振る。確かにいた。だってまだここに気配が残ってる。向こうで不思議そうに父が小首をかしげているのが見えた。


 私は、なにも言ってないのに。なにも――なにを言えばいいの? 考えてもよくわからない。先輩が言った意味すら。


「せん……ザイール?」


 私は確かめるようにして何年かぶりに名を呼んだが、もはや誰も答えることはない。『どうして』という言葉も空気に乗って消えていった。



言い訳ですが、最近書き方に悩んでいたことと、いろいろあって寝込んでいてストックが切れ始めてる・・・。

一週間に一度しか更新してないのに>_<

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ