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第95話 入院の理由

神に愛されている。


そのことを信じている。


私は、その言葉が本心からの告白なのだと分かっていた。


神を信じることが、彼女の生きる力になっている。


彼女は私を真っ直ぐ見て言った。


「私は二度と、あの柵には戻らない」


そして続けた。


「もし私が、ああいう場面に出会ったら……


命をかけて、私はカールになる」


ドキッとした。


私のことを言ったのだろうか。


彼女には、私はまだ危うく見えているのだろうか。


そうなのかもしれない。


私はまだ、根のない浮草みたいだ。


自分でそう思っているのだから、そう見えていても不思議じゃない。


看護師さんには、


「彼女から目を離さないで」


と言われていた。


でも今は、まるで立場が逆になっている。


私は考えていた。


芯がないということは、信頼されないことにも繋がるのかもしれない。


そんな考えが頭をよぎった。


ひょっとすると、看護師さんも、私をそう見ているのかもしれない。


私は苦しんでいる彼女を見て、


助けたい。


力になりたい。


心からそう思っていたはずだった。


でも、それが現実になって、


生き返ったみたいに輝いている彼女を見ると、


嬉しい気持ちよりも、


なぜか寂しさが込み上げてくる。


自分が嫌になった。


あまりにも子どもだ。


嫉妬そのものだった。


自分の正体を、目の前に突きつけられているようだった。


     *


突然、カールが駅の方を振り向いた。


看護師さんが、ももを抱いて歩いてきている。


カールの尻尾が、勢いよく左右に揺れていた。


「やっぱりここは気持ちいいね」


看護師さんが笑う。


私はまだ部屋へ戻りたくなかった。


誰もいないし、


まだ彼女と大切な話が残っている気がした。


私は看護師さんに聞いてみた。


「あの……今日も泊まらせてもらっていいですか?」


「もちろん。


あの部屋は自由に使っていいことになってるから、遠慮はいらないよ」


そして彼女の方を見る。


「あなたはどうする?


担当の先生から全部私に任せるよう言われてるから」


「泊まります。


病室より、ずっといいです」


彼女は眩しいくらい明るかった。


その時、ふと聞きたくなった。


彼女は、何のためにここへ入院しているのだろう。


やっぱり精神的な問題なのか。


それとも別の理由なのか。


私は思わず聞いていた。


「なんで入院してるの?」


言った瞬間、まずいと思った。


遅かった。


でも彼女は逃げなかった。


むしろ笑顔で答えてくれた。


「どこも悪くないよ」


「えっ……!


じゃあ、なんで?」


言った瞬間、自分が踏み込み過ぎたことに気づいた。


「ごめん……


言わなくていい。


ごめんなさい」


看護師さんも少し困った顔をしている。


でも彼女は首を振った。


「いいの。


もう友達だから」


少し間を置いて続けた。


「あのね、簡単に言うと……


家族からの暴力があったの」


空気が止まった気がした。


「治療もあるけど、


今は一時的に守ってもらってるの。


家族から離してもらってる」


そして看護師さんを見た。


「この看護師さんに、いろんな手続きしてもらったり、入院させてもらったり……」


少し俯く。


「なのに、あんなことまでしてしまって……


いっぱい迷惑かけちゃった」


私は苦しくなった。


「ごめん……


もういいから。


分かったから……もういい」


自分の無神経さが、恥ずかしくて仕方なかった。

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