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第86話 忘れられないことば

彼女が四角い空を眺め、涙を拭きながら言った。


「私はね、あの老人の気持ちわかる。

神様に対する怒りーー


私も神様のいないところで生きてきた。

一生懸命もがいて生きてきた。

必ず出口は見つかるはずだと、、



でも、その生き方の終点があの屋上の柵だった。

柵の冷たさがまだ手に残ってる。



だから、生き方そのものを変えるしかない。

そう思ってる」


そして、「ふぅー」

と大きく息を吐いた。





「じゃ、部屋に戻ろうか」

と看護師さんがいうと、

彼女が


「私、もう少しここにいたいです。

いいですか?」

と言った。


「もちろん、門限などないから好きなだけどうぞ」


と看護師さん


私は彼女がひとりになりたいのかもしれないと思ったのではっきり聞いてみた。


「ひとりになりたい?」


「よかったら、一緒にいてくれる?

聞きたいこともあるの」


看護師さんはももを抱きかかえ、

「ゆっくりしなさいね」

と言って部屋に戻っていく。


カールには

「そこにいて2人を守るのよ」

と言って笑顔を見せてくれた。


彼女がカールの頭を撫でながら、しゃがんで言った。


「教えてくれる?

あなたはなんで電車に飛び込みそうになったの?」


私は自分のことを誰かに話すことはあまり好きじゃないとずっと思ってきた。


でも、彼女にはまったく抵抗がない。

むしろ何でも話したいと思っていた。

不思議だった。


私はいつもの周りの人に対して警戒心のようなものをもって生きてきたように思う。


あまり個人的な事を深く聞かれることに抵抗があるのだ。


ひょっとすると本当の友人と呼べる人は今までいなかったかもしれない。


彼女は心を開いて私に向き合ってくれている。


本当の友達になれそうで嬉しい。


「適応障害と、診断されて仕事を辞めたところだったの。

お金のこととかいろいろ考え込んでしまって混乱していたんだと思う。


電車に飛び込みそうになったあの時は、自分が自分じゃなかったような感じだった。


その後ベンチに座って怖くなって立てなかった」


「そう、1回だけ?その時だけ?それからはない?」


「その時だけ、考えるのも怖い」

と言ったら、



彼女が

「実は私はまだ恐れている。あの瞬間が、また来るかもしれないと思ってしまう。


自分の意思ではないと言っても、完全にそうとは言い切れないところあるよね?ちがう?」


「そうかもしれない」

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