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53 友だち

突発的な衝動からどうやって自分を守ればいいのだろう。


取り返しのつかないことになってしまうのが恐ろしい。


心療内科でこのことを話してしまうと、措置入院になるかもしれない。


あの看護師さんに助けてもらいたい。


しかし、全てを話してしまうとやはり入院は避けられないだろう。


すべて話さなければ何の解決にもならない。


大切な部分を隠して話しても、的外れの会話になるだけだ。


やはり正直になろう。


全部話すんだ。


そうするしかない。


*電車に飛び込みそうな衝動に駆られたこと。


*入院はしたくないこと。


*経済的にもこれ以上両親に負担をかけたくないこと。


この3つをしっかり伝えてみたい。


自分で考えていても、解決できない。


迷いを振り切って、受話器を掴んだ。


「もしもし...うっ...」


言葉が、出てこない。

どうしてしまったんだ。

声が出ない...


「あなたね...

声でわかるよ。


今、実家にいるの?

自分の部屋?

それだけ教えてもらえる?


それだけでいいから...

あなたが教えてくれた住所の所にいるの?

それだけ教えて」


「---うっ...はい---」

やっと言えた。


「分かった。今日は仕事午前中だけだから、今すぐそちらへ行くから...


分かった?

そこにいるのよ!

分かった?」


電話が切れた。


私は「もしもし」しか言えなかったのに...

あの看護師さんには、分かってしまうんだ。

やはり、あの人には隠し事はできない。



突然、希死念慮の衝動...


突然、声が出なくなる事態...


心は治るどころか悪化している

もう、私は耐えられなくなっている。


自分であって自分でなくなる...

これがメンタルの病の闇の深さだ。


判断力と耐える力が煙のように消えてゆく。





しばらくして看護師さんがドアに向かって小走りにやってくる気配があった。


ドアを開ける。


息を切らしていた、看護服のまま...

急いで来てくれたんだ。


看護師さんの顔を見た直後だった。


心のつっかえ棒がコトッと外れた...


私の口から

「助けて...助けて...」

という言葉が漏れて、大量の涙が溢れ出た。


何も言わず、優しく抱きしめてくれる。


迷子になっていた子が母親を見つけた時のように、私は声を出して泣き、心が裸になっていった。


私は何も話していないのに、すぐ飛んできてくれて、今こうして抱きしめ、無言で背中をさすってくれている。


はじめてあの海岸で会った時もそうだったが、

この人は不必要な言葉は口にしない、それに何も聞かない。


その人が、私を抱きしめながら耳元で囁くように言った。


「私の主人は自ら命を絶ってしまったの...


私が今のボランティアをしたくなったのは、その時の悔しさがあるからだと思う...

私の中ではなにも終わっていない...」


抱きしめてくれていた手を解き、バッグから白いハンカチを出して私の涙を拭いてくれる。


そして私の目をしっかり見て、


「友達になろう...私たち...」


と右手を出して微笑んでくれた。

あの老人の優しい表情と同じだった。


声を振るわせ、しゃくり上げながら、私は両手を差し出し、新しい友達の手を包み込むように握り返していた。


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