48 天の故郷
この人生は、天の故郷に帰っていく旅だと思うのです。
私の場合は、その人生のほとんどを戦争がもたらした混乱によって、安らぎのない時間を彷徨い続けてきました。
神に対する怒りが私を支配していました。
それは原爆を落としたアメリカの神に対するものであり、また神風を吹かせなかった日本の神に対する怒りでもありました。
しかし、私のこの人生のいよいよ終わりの季節に、ほんとうの神が私を訪れてくれたのです。
それはアメリカの神、日本の神といった特定の民族の神ではありません。
すべての人の神でなければ神ではありません。
本当の神とは聖書に書かれている神だと信じます。
休ませてあげますと言われた生きている神です。
そして、その神は私にひとつの願いを与えて下さいました。
それは休ませてあげますという声を聞いたあなたに神の真実をお知らせしておくことです。
神が私に委ねて下さった人生最後の使命だと感じました。
私は日本の神を裏切って、アメリカの神になびいたのではありません。
特定の民族の神など神ではありません。
このことに気がつくのに何十年もかかってしまいました。
私はこの世界におられる唯一の神を信じたのです。
あの日、あの砂浜に打ち上げられたハーモニカを拾った日から、毎日あの海岸でハーモニカを吹き続けました。
前にあなたにお話ししたように、あの海岸で私はハーモニカを吹きながら、神と会話していたのです。
神との会話というより、感謝を捧げていたと言った方がいいかも知れません。
あの優しかった両親や可愛い妹、そしてこの私自身も神によってこの世界に生まれ、命を与えられていたことを理解したのです。
両親や妹はあのような悲惨な死に方をしましたが、それも受け入れることが出来ました。
真実の神に私の家族を委ねることが出来たのです。
神はすべてをご存じだということが分かったからです。
神がすべてを知っておられるということを理解した時、私の神に対する質問は止みました。
あなたが、あの休ませてあげますという声を聞いたと告げて下さり、何かご存じですかと私に聞いて下さいました。
私はあの時ほど神を身近に感じたことはありませんでした。
私が何か知っているとあなたが思われたことが嬉しかったのです。
神でなければあなたにそのような思いを与えることはできません。
この世界には確かに神が存在している。
そう心から思いました。
*
部屋で休んでいる時のことです。
以前から悪かった心臓に締め付けられるような強烈な痛みが襲ってきました。
その時、私はやるべき最後の使命を果たすまで死ぬわけにはいかないと自分に言い聞かせたのです。
あなたに神は唯一で真実な方であり、知性と感情と意志を持った存在で、決して宇宙の法則のような無機質なものではないことをお知らせしたかったのです。
私が倒れた日、あなたが海岸に来られるだろうと思って、胸を押さえながら私も海岸に行こうとしていたのです。
しかし、道の途中で倒れ込み、動けなくなりました。
私は、この胸の痛みはいつもと違う、時が来たのだと覚悟しました。
そして、神様に祈ったのです。
最後の仕事をさせて下さい。
それをやり切ったらいつ終わりが来ても満足ですと...
あなたが用意して下さっているふるさとに帰って行きますと祈ったのです。
*
気がつくと病院のベッドに寝かされていました。
看護師さんにノートと書くものを用意して頂き、最後の力を振り絞ってペンを走らせました。
今書いているこのノートのことです。
このノートを書き終えようとしている今、私は心の底から満足しています。
心置きなくほんとうの故郷に帰ることが出来ます。
あなたにお会いさせて下さった神様に心から感謝をお捧げします。
あなたが質問して下さったことによって、神が私の中にお住まいになっておられることが確認出来たからです。
あなたにも神の訪れがありますように...
ここで、老人のノートを閉じる...
私の想像を絶する内容だった。
今、私はこの適応障害と摂食障害に苦しんでいるが、この方の苦難とは比べ物にならない。
老人の悔しさや憤りはどれほど激しかっただろう。
私の目に浮かぶのは、あの優しい表情を浮かべている老人だ。
怒りの人だったと書かれていたが、想像出来ない。
私に本当の神を伝えるために命を削って書いてくれた...
このノート..,
しかし、今すぐすべてを受け入れ理解することは私には出来ない...
神を信じるということはそんなに簡単に出来ることではない...
ノートをテーブルの上に丁寧に置いた。
しばらくノートを見つめていた。
本当に神はこの世界に存在しているのだろうか?
私にとってあの休ませてあげますという声は神がおられるという決定的な証拠になるのだろうか?
私には、まだわからない...




