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47 打ち上げられたハーモニカ

私の中で、変化が起こり始めているようでした。


それは神という存在に対する私の思いの変化です。


私はあの戦争の残酷さや苦しさを体験して、神概念が歪められてしまっていたことに気がついたのです。


終戦間近の頃、日本の神が神風を吹かせて、必ず日本に勝利をもたらせて下さると心の底から信じていました。


私だけではありません。


あの頃、日本中がそう思っていました。

そう教えられていたからです。


まったく疑ってはいませんでした。


あの頃は、私は日本には日本の神がいて、アメリカにはアメリカの神がいると思っていたのです。


そしてアメリカの神は偽物の神で、本当の神は日本の神だと信じて疑いませんでした。


前にあなたにもお話したことですが、もう一度お伝えしておきたいのです。


アメリカの神、日本の神と考えることは、ほんとうに愚かなことだと気がついたのです。


それは夕陽を見て、あの夕陽はアメリカの夕陽ですか?

それとも日本の夕陽ですか?

と問うているようなものだと分かったのです。


日本人の神こそ本当の神だというのは、あの夕陽は、アメリカ人のものではなく、日本人だけのものだと声に出して言っているようなものです。


私はこの愚かさに目が開かれたのです。


戦争は身近な人間の命を奪っていきました。


そのために、怒りと恨みに心が支配されてしまい、神概念がとんでもない方向に向かっていったのです。


その間違いに縛られていたことに気がついたのです。


夕陽も月も唯一です。

神も唯一です。


日本人には日本人の神がいるというのは大間違いだということがはっきりしました。


敵対心が生み出した妄想で真実ではありません。


今の若い人たちにも、私たちの間違った時代の間違った神概念を受け継がせてしまっていると私は感じているのです。


あなたがあの海岸で、私のハーモニカを聞いて下さり、そのあと不安と恐れが消えていったと言ってくださった時、私はもう死んでもいいと思えるほど嬉しかったのです。


それだけではありません。


あなたもあの休ませてあげますという声を確かに聞いたと言って下さった時、あなたに私の体験したこと、私が知っていることをすべて話さなければならないと確信したのです。


私が何故、もう死んでも良いと思えるほど嬉しかったのかお分かりですか?


私のハーモニカを聴いて下さったあなたが、聴いた瞬間に不安と恐れが消えていったと言って下さった時、私もあの岡野貞一さんのように、またあの祈りを捧げて下さったビラを配っていた方のように、神の力を伝えることが出来たことを実感させて頂いたからです。


私にも神の真実を伝えることができたことが、死ぬほど嬉しかったのです。


私の好きだった故郷や紅葉、春の小川、春が来たを作曲したのが岡野貞一さんというクリスチャンだと知らされた時、私は怒りに震え、あのハーモニカを海に投げ捨てました。


その時は思いもしなかったことですが、クリスチャンが作曲した曲は神からのプレゼントではないかと今は思っています。


音楽家がメロディーが上から降りてくるということがあると言いますが、多分本当のことだと私は思います。


岡野貞一さんの場合はそれだと思うのです。

祈りを聞いた神が作った曲のように思えるのです。


だから時代を超えて人々を慰められるのだと思うのです。


私の下手なハーモニカであなたの不安と恐れが瞬時に消えていったのは神の思いが、そのメロディーに流れていたためだと思うのです。


両足と片腕のないあの路上でビラを配り、私のために涙を流して祈ってくれた人に出会った日、私は生まれ変わったようでした。


その日、私は夜中にあの海岸にいって、朝まで泣きました。


今までの人生を赦してくださいと神に祈ったのです。


泣き疲れて真っ暗な海の、波の音を聴いていると、あの妹八重子の声が聞こえたような気がしました。


アメリカが憎い、アメリカが憎いと言って死んでいった八重子ではありませんでした。


楽しそうに笑っている声だったのです。


私は生まれつきのろうあ者なので、八重子の声をを知るはずもありません。


しかし、私には八重子の嬉しそうに笑う声が聞こえたのです。


どのように説明して良いかわかりません。

しかし、八重子の声に違いありません。


私には分かるのです。

嬉しそうに喜んでいるような笑い声でした。


夜が明けてあたりが、あやめ色になってきた頃でした。


波打ち際が一瞬光ったように見えたのです。

近づいてみるとあのハーモニカが打ち上げられていました。


私が海に投げ捨てたあの金属のハーモニカが砂浜に打ち上げられていたのです。


その時、私は聖書の神を信じました。

クリスチャンを憎み続けた私の長い旅路は終わりを告げたのです。


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